【連載】よくわかる! 気管切開の大事なところ!

【気管切開患者の吸引】吸引を行う必要性とタイミング

執筆 南雲秀子

湘南厚木病院 看護師長/米国呼吸療法士(RRT) / 保健医療学修士(MHSc) 日本呼吸ケアネットワーク 理事

吸引を行う前に、その患者さんに吸引が必要かどうかを評価することが大切です。今回は、気管切開患者さんの吸引の必要性をどう評価していくかを解説します。


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吸引の必要性はどう評価する?

 一般的に、吸引は定期的(例えば「2時間ごとに」など)に行うのではなく、その都度必要性を評価し、必要時に行ったほうがよいといわれています。そもそも気管吸引の目的は、気管吸引ガイドライン2013にあるように、「気道の開放性を維持・改善することにより、呼吸仕事量(努力呼吸)や呼吸困難感を軽減すること、肺胞でのガス交換能を維持・改善すること」です。

 それでは、「吸引が必要かどうか」はどのように評価したらよいのでしょうか。具体的な評価の仕方を考えてみましょう。

4つの評価ポイント

POINT1 努力呼吸になっていないか

 分泌物により、一回に吸い込める量(一回換気量)が少なくなれば、呼吸中枢は呼吸の回数を増やして、分時換気量を保つようにするので、頻呼吸や浅表性呼吸となります。また、気管や気管支に分泌物が貯留すると、吸気や呼気に余計な力が必要になり、努力呼吸(呼吸補助筋を使った呼吸)、陥没呼吸(吸気のたびに鎖骨上窩や肋間が陥没する)、呼気延長(呼気時間が吸気の3倍以上長い)などの症状がみられます。

 このような状態の患者さんは、何らかの方法で気管や気管支にある喀痰を除去する必要があります。患者さん自身の咳嗽で除去できない場合は、気管内吸引が必要です。

POINT2 低酸素血症はないか

 バイタルサインを確認して、低酸素血症がないかをアセスメントします(図1)。どんな状況の患者さんでも、低酸素血症は最も危険な症状の一つです。ベッドサイドに行った時点でSpO2の低下や頻脈、顔色不良やチアノーゼがみられたり、苦しそうな表情をしている場合は、まず低酸素血症を疑います。特に、頻脈を伴ったSpO2低下を認めたときは、酸素化をすぐに改善することが重要です。

吸引のアセスメント
(図1 吸引が必要な場合のアセスメント)

 気管のあたりでゴロゴロとロンカイ(類鼾音)のような音が聞こえれば、すぐにでも吸引して気道をきれいにしたいところですが、吸引により、低酸素がさらに悪化する可能性も十分あります。そのため、SpO2が非常に低い場合には、まず酸素投与を行います。人工呼吸器を装着中であれば、一次的にFiO2を100%で投与する必要があります。急性期用の人工呼吸器には、100%酸素を数分間投与する専用のボタンが装備されているものが多いので、これを使用します。在宅用などの人工呼吸器ではFiO2の設定を変更するか、回路の途中から流入させている酸素の量を増やしましょう。

 人工呼吸器を使っていない場合は、蘇生バッグで酸素投与するか、普段使用している酸素投与器具の酸素流量や濃度を上げて、より高濃度の酸素を投与します。低酸素血症は入院中だけでなく、施設や在宅でも起こり得るため、低酸素状態になっていることを発見した場合の酸素投与の方法を確立しておくことも大切です。

 また、SpO2の低下だけでなく、脈拍、血圧、呼吸音、長期的には意識レベルや尿量の変化なども、患者さんの全体像を把握するうえで重要な指標になります。患者さんの状態によっては、分泌物を吸引するだけでSpO2が改善することもよくありますが、低酸素血症を長引かせないためには、酸素投与を先行して行うことが重要です(図2)。

気管切開_吸引
(図2 吸引)

POINT3 気管支にある喀痰の移動は可能か

 吸引が必要かどうかは、患者さんが分泌物を移動させることができるかも評価します。気道は気管から気管支に分岐して肺の奥深くまで通じていますが、先端のほうにあるかもしれない喀痰を、自分の力でどのくらい中枢までもってくることができるかということです。

 吸引カテーテルは、気管切開孔から挿入して気管分岐部を少し過ぎるところまでは進められます。ですが、それより先にある痰は直接吸引できません。そのため、何らかの方法で喀痰が吸引カテーテルの届くところまで移動していないと、挿入しても十分な吸引ができません。評価のポイントは、普段から咳をするような運動があるかないか、体位を自力で
変えられ側臥位もできるのか、もしくはほとんど仰臥位に近い寝たきりかを確認します(表1)。

 よく体位を変えたり、自分でゴホゴホと咳をして痰が気管に集まっている患者さんは、痰が取りやすくなっているときに吸引すると効果的です。胸部の聴診をして吸引の必要性を判断しましょう。一方、自力で痰を移動させることができない患者さんは、看護・介護者が時間を決めて体位ドレナージを行うほか、呼吸介助法や蘇生バッグなどで深呼吸を促し
ます。こうして、移動してきた痰を吸引で除去します。

吸引のタイミングのアセスメント
(表1 吸引のタイミングのアセスメント)

POINT4 喀痰の量は多いか少ないか

 喀痰の量が多い患者さんは、必要な吸引回数も多くなります。次回の吸引までに喀痰が溜まりすぎて呼吸を障害し、SpO2が低下しないように、吸引を行う適切なタイミングを決めます。

 では、喀痰の量が少ない患者さんはどうでしょうか。喀痰が少ないのは肺炎などの疾患が改善したからでしょうか。または、全体に水分摂取量が少なくて、脱水症状なのでしょうか。もしくは、咳をする力がなくて、末梢の気道に詰まった痰が動かせない状態なのでしょうか。痰が少なければ吸引の回数も少なくても問題ありませんが、それぞれの原因により吸引以外に行うべきケアが違ってきます(表2)。

喀痰量と吸引のタイミング
(表2 喀痰量と吸引のタイミング)

 脱水症状の患者さんでは、気管内も乾燥傾向で喀痰が動きにくい状態になっていることがあります。そのため、治療開始時には痰が少なくても、血管内の脱水が改善されると、急に喀痰の量が増えることがあります。また、必要な水分量を上回る飲水や補液も痰の量の増加につながります。尿量の変化等を含め、全身の機能を総合して評価することが大切です。

 ほかに、咳嗽する力がなくなったり、意識レベルが徐々に低下して咳嗽反射が消失した患者さんは、仰臥位や褥瘡を予防する程度の浅い側臥位では、背側の気管支や肺胞に喀痰が貯留して無気肺になります。深い側臥位による体位ドレナージ(1回30分程度)を積極的に行い、背側の肺への喀痰の貯留を防ぎましょう。


引用文献
●日本呼吸療法医学会:気管吸引ガイドライン2013(成人人工気道を有する患者のための). 人工呼吸 2013;30(1):75-91.http://square.umin.ac.jp/jrcm/pdf/kikanguideline2013.pdf(2017年3月24日閲覧)


(ナース専科2016年2月号より転載)

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