【連載】事例でみる術後リハビリテーション こんなときどうする?

【術後リハ】術前オリエンテーションを未実施、何が起きたのか?

執筆 黒岩澄志

昭和大学藤が丘病院 リハビリテーション室

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術直後のリハビリテーションの目的は、術後呼吸合併症の予防、早期離床による早期ADLの再獲得となります。今回は、術前にオリエンテーションを行わなかった事例を取り上げ、解説します。


事例
術前オリエンテーションを行わなかった結果、スムーズに術後リハビリが開始できず、廃用が著しく進んでしまった患者さん

 82歳女性。膵頭部がんと診断され膵頭十二指腸切除術施行。術前のADLは自立しており家事などを行っていた。喫煙歴なし。術前呼吸機能検査において努力性肺活量95%、1秒率90%、BMI20.5。術前オリエンテーションは非実施。

 術後1日目。患者さんの状態は術後翌日の影響もあり倦怠感著明。安静時創部痛はNRSで1点。術後早期離床を促すも「昨日手術したばかりで動けるはずがない」と患者さんから言われてしまう。ここで早期離床についての重要性を患者さんに説明しそのうえで離床開始。起き上がり時腹部に力が入ってしまい創部痛が出現(NRS9点)し起き上がりできず。その後患者さんから「こんなに痛い思いするのなら起きたくない」との発言あり。

 術後2日目以降、早期離床を促すも患者さんからは「痛い思いをするくらいなら寝てたほうがいい」と言われてしまい、離床できない状況が続く。術後7日目になってようやく少し体動時の創部痛が軽減してきたため起き上がりを行うことができたが、今度は約1週間寝たきりになってしまった影響で廃用症候群となってしまい、座位保持ができなくなってしまった。

 術後7日目で座位保持が困難になりADLが著しく低下したため、看護師が主治医にリハビリテーションコンサルトを依頼、リハビリテーションを依頼され術後8日目より理学療法開始。術後10日目に車椅子座位が可能、術後11日目には前腕支持型歩行器を使用し20m程度の連続歩行可能に。術後20日目には杖歩行自立、術後30日目には家事動作など自立したため術後35日目に退院となった。


事例について考えてみよう!

ここが問題!

1 離床時に強い創部痛を感じ、その後、離床に消極的になってしまった
2 高齢者のため廃用症候群に陥りやすく、術前と同様のADL獲得までに時間がかかった

 上記事例は82歳と高齢ですが術前ADLが自立しており、また喫煙歴がなく呼吸機能検査も異常なしであり、術後呼吸器合併症のリスクは低い患者さんです。しかし、術後1日目の離床時に創部痛が強く出現してしまったため離床に対し嫌な思いをしてしまい、離床に難渋してしまいました。
 
 高齢者が7日間離床できずにいると筋力や体力はかなり低下してしまいます(いわゆる廃用症候群)。我々が風邪などで3日寝込んだだけで体力が落ちることが自覚できると思いますが、今回の事例では7日間動けなかったうえに高齢であることを加味すると、離床が遅れることが先々に影響することは容易に想像できます。また、高齢であるため一度廃用症候群に陥ると改善に時間がかかってしまいます。そのため、概ね術前のADLを獲得するために術後1カ月程度かかってしまいました。

どうしたらよかった?

 今回の事例では、もし術前に創部に負担がかからない起き上がりの方法をオリエンテーションでき、その方法を翌日に実践できていたらどうでしょうか? 患者さん自身が無理に起き上がらず、創部痛を増強することなく離床できていたら、翌日で座位保持が可能となります。スムーズに離床が可能になり早期にADLが再獲得され、結果として早期退院へとつながったでしょう。

解決のヒント!

離床に消極的な患者さんに看護師はどう対応すればよい?

 一度離床時に強い痛みを経験してしまうと、患者さんは離床には消極的になってしまいます。離床に消極的になってしまった場合、創部にストレスがかからないよう過介助で起き上がりを行い、疼痛を生じないように離床を工夫すればよいでしょう。実際の離床時には創部をタオルなどで保護し、少しでも創部にストレスがかからないように工夫する、離床前に疼痛コントロールを行うといった工夫が考えられます。

 もし可能であればですが、家族の面会時に合わせて離床を行うといった工夫を筆者は行ったりします。家族が近くにいるだけで患者さんは前向きになる傾向にありますし、実際に離床ができたといった経験をみんなで共有できることが、次回以降のモチベーション向上につながります。

 上記内容をまとめると、離床に消極的な患者さんに対して
①疼痛を生じないような離床を工夫する:過介助、疼痛コントロール、創部の保護
②医療者だけで離床を行わず、安心できる家族と一緒に離床を行う
 この2点が対応点、工夫点です。

まとめ

術前オリエンテーションの目的は主に、①患者さんや家族が抱いている不安を軽減することができ、信頼関係を築くことができる、②呼吸器合併症を生じやすい患者さんかどうか把握する、の2点であると思います。この2点は非常に重要で、特に①に関しては患者さん側と医療者側でよい信頼関係を築くことができ、このことが治療の満足度にも繋がります。手術予定で入院する患者さんに対しては、全ての患者さんに術前から(入院したその日から)術後を想定したオリエンテーションを行うことができる環境作りが重要です。


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