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【連載】山内先生の公開カンファランス

第36回 誤嚥性肺炎で入院、胸痛を訴える患者さん

解説 山内豊明

名古屋大学大学院医学系研究科 教授 医学博士/看護学博士/医師/看護師/保健師/米国・登録看護師、診療看護師

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事例
[Yさんより提供された事例]
80歳代で誤嚥性肺炎で入院してきた男性患者さん。あるとき、胸痛を訴えたため、12誘導心電図、バイタルサイン、その他身体所見を確認しましたが、特に誤嚥性肺炎以外の症状はみられませんでした。

→あなたなら、こんなときどう対応する?


みなさんならどう考えるのかを聞いてみました。アンケートは2017年2月に実施、回答者数は143人。

みんなの回答

Q1では、このような状況のとき、どう判断するかを聞きました。

円グラフ

さらに、Q1の回答理由を見ていきましょう。

Q1で1.看護記録に記載しておき、経過観察を選んだ人

●心電図がよめるから、問題ないかがわかる(かんこさん)

●特に誤嚥性肺炎以外の所見がみられていないことから経過観察で良いと判断しました(無さん)

Q1で2.主治医に相談を選んだ人

●胸痛の原因が何かわからないので、医師に診察してもらい、原因を探る(CITYさん)

●医師が情報を知っておくべきだと思うから(sさん)

●何かあったときに、主治医からの指示が早くもらえるため(ノンちゃんさん)

●観察やできることは確認するが、医師の指示がなければできない検査もあり、精査するのかも含めて医師への報告は必要(なーさん)

●高齢で他にも疾患が隠されているかもしれないし、とりあえずバイタルをとって、観察したが異常はわからなかったというところまでは主治医に伝え、指示を仰ぎたい。自分だけの判断では不安(いしこさん)

Q1で3.先輩やリーダー、同僚看護師に相談を選んだ人

●何か自分で気づかないアセスメントがあるかもしれない(はさん)

●自分が見逃している観察点があるかもしれないから(ららさん)

●他の人には聞いたらなんか違う見解があるかもしれないから(さはがさん)

●緊急性はなさそうだが、看護チームで情報を共有しておくため(アポロさん)

●原因が自分ではわからないが患者はあきらかに苦痛を訴えているのだから何らかの対処をすべき。バイタル安定しているなら医師より先輩(りさん)

●12誘導やバイタルで緊急性がないときは、まず自分で見逃している点はないか相談しているから(もちもちおもちさん)

●自分一人で判断できないときはすぐに先輩に相談して、アドバイスをもらうことが一番だと思う。もしその場に医師がいるのであれば、医師に報告し指示をもらってもいいと思う(あさん)

●心電図に異常あれば主治医に報告相談するが異常ない場合は情報を共有するためにも先輩、リーダー同僚看護師に相談する(美女さん)

Q1で4.1〜3すべて行うを選んだ人

●高齢の患者さんは動脈硬化も少なからずあると考え、注意していくべき。医師やスタッフに伝えておくことで、また訴えたときに迅速に対応できるのではないかと考えます(macoさん)

●1.どのように判断したのか残す必要があり、それが継続性だと思うので
2.できる状況ならしたい
3.違う視点でのアセスメントがあるのかもしれないので(あ!さん)

●1)記録は、証拠に残すために重要というか当然なので
2)主治医がかならずしもいるとは限らないが、ともかく医師へ報告は要す
3)自分一人でかかえないほうがいい。また、看護体制によっては、医師への報告や記録担当者がそれぞれ別の看護師であることもあるため。チームとして把握しておいたほうがよい(ごろごろさん)

●胸痛の発生部位や疼痛の程度、どのような状況のときに胸痛が発生するのか、他に要因となりそうなことがないか観察できるよう、他の看護師や医師と情報の共有を図ることが大切だと思う(Anさん)

●1から3のすべて必要なので。
その他に書き加えたいのは、患者さんに痛みの少ない楽な体勢を取れるように援助する(匿名さん)

●胸痛の原因がはっきりしていない。今後も繰り返すかもしれないと考えると、そのときの状況の記録、12誘導は必須。症状が続いてるかや既往歴にもよるが、採血で心筋逸脱酵素の確認も必要にかるかもしれないため、医師にも報告する必要がある。
情報共有のため、カルテ記載以外にも報告し、その日のリーダーには伝達し、引き継いでいく必要がある(けんけんさん)

●咳嗽による筋肉痛や肋骨の疲労骨折の可能性もかんがえられるため(むくさん)

●看護師間で共有することで、すぐに異変に察知できる。また、医師に相談して指示をすぐに出してもらう体制を作っておく必要があるから(ヨッシーさん)

●自分一人では判断しかねること、何かの前兆症状の可能性があり、継続した観察が必要だから(りょーさん)


事例つづき
その後、特に胸痛に関する疾患が見つかることもありませんでしたが、誤嚥性肺炎の治療も終わり、そろそろ退院または転院となったときに、また胸痛の訴えがありました。


事例のつづきのようなとき、あなたならどう対応しますか。

●まずは訴えを聞きます。そして、身体疾患で何らかの見落としがないかを検討します。それらが否定され、なおかつ訴えが続くようなら、心理的な訴え(不安等)、環境の変化に対する訴え(この場合だと入院、退院などの変化も含む)も関連していないか検討します(ごろごろさん)

●胸痛の原因がわからないため、12誘導をとり、医師に報告する。原因がわからず胸痛が続くなら、何か不安なことはないか聞いてみる。精神的な要素で、胸痛が生じているかもしれないので(CITYさん)

●胸痛が発生する前にどんなことをしていたか、また、胸痛が発生したときの状況を記録してみるように勧める。できるだけ痛みの緩和を図るため、医師と連携して疼痛時の対応をする(Anさん)

●まずは緊急度重症度の高い急性冠症候群を疑い12誘導、モニター装着。指示確認し、採血、X線撮影。急性冠症候群以外でも肺塞栓症、大動脈解離、気胸なども念頭に、現病歴やフィジカルアセスメントを行う。併せて肺炎の再発がないかも確認する(けんけんさん)

●主治医に相談、過去にも同じ件があったことを報告し検査指示の有無を確認。退院の場合は症状出現時の対応を本人、家族へ指導する(ららさん)

山内先生の解説

なぜそう判断したのかを言語化して整理する

 今回の質問ですが、Q 1は特に悩まずに答えた人が多いのではないでしょうか。どれを行うかと聞かれれば、すべて行ったほうがいいに決まっています。ですから、Q1の回答で一番多かったのは、1~3すべて行うという選択肢でした。それ以外を選んだ人たちは、どれも行うとよいが、あえて1つ選ぶならという観点で選択してくれたのでしょう。

 Q 1を聞かれたときに「どれもしたほうがいいのに、なんでこんなことを聞くのだろう」と思いませんでしたか。今回は、どれを選ぶかよりもどれも実施したほうがよさそうなものばかりのとき、どう優先順位をつけていくかを考える機会にしてほしいと思い、この事例を取り上げました。あと10分後に申し送りが始まってしまうとしたら、なにを優先して、なにを後回しにしますか。または、申し送りを遅らせても行ったほうがよいと判断することもあるでしょう。そして、なぜそう選択したのかを言語化して説明できるでしょうか。

 臨床では事例のように、どれもしたらよいという状況に出合うことは多いですよね。そのとき、時間が無限にあるのであれば、1つずつ行えばよいのでしょうが、実際には限られた時間、限られたリソースの中で、どれを優先して行っていくかを取捨選択していかなければなりません。

 こういった状況では、まず、やるとよいことをリストアップし、さらに、優先順位をつけて、どこまでやるのかを決める、という流れでケアを実施していますよね。選ぶための情報収集が第1段階、第2段階でその情報をもとになにを選び、なにを捨てるのかを判断していくという流れになるはずです。

 臨床推論の授業でも、『選ぶ』ということは『ほかを捨てる』ことで、そのときに決断できるための情報をもっていないと、立ち止まってしまうと伝えています。そして、臨床推論とは普段、無意識に判断して処理していることについて、意図的に考えて進めることを指します。直感や経験で判断していることについて、なぜそうしたのかを言語化して整理することが大切です。


事例つづき
12 誘導心電図、バイタルサイン、呼吸音などを確認したところ、異常はみられませんでした。精神的なものではないかと考えています。


「ある」ということに引きずられない

 再度、胸痛の訴えがありましたが、特に異常はなかったということです。私たちは、どうしても「なにか変わったことはないかな」「なにか所見がないかな」と異常がある、というあるある情報を探してしまいがちです。この事例がもし、「最初に胸痛を訴えたときに心電図に異常がありました」とあったら、次に胸痛を訴えたときも、それに引っ張られてしまう人もいるでしょう。クリティカルシンキングは他人についてするよりも自分に対して行うほうが難しいものです。常に本当にそうなのか、それだけなのかという視点はもっていてほしいですね。

優先順位は環境や状況で変わる

 今回の事例で考えてほしいと思ったのは、優先順位をどうつけるかです。優先順位をつけるにあたって、やるべきことをリストアップすることは必要条件ですが、それだけでは必要十分条件ではありません。状況に応じて、リストにある項目の順番を変えられることが求められます。ACLSのように、どんな患者さんに対しても同じ判断基準で、同じ順番で
実施するものは、1度覚えてしまえば機械的にできるようになります。でも、急変などではない場面では、80歳の患者さんと20歳の患者さんでは優先すべきことが変わることもあります。さらに、患者さんのおかれている状況や病院の特徴によっても変わるというのは、実際に働いているみなさんもよくわかっていることではないでしょうか。実務は段取りです。患者さんと病院の環境やスタッフの状況を踏まえて、どうするのがよいのかを考え、そのときには自分に対してのクリティカルシンキングも忘れずにケアをしていくとよいでしょう。