【連載】事例でみる術後リハビリテーション こんなときどうする?

【胸部に術創がある患者さんの術後リハ】術後のリスクを想定して行う

執筆 黒岩澄志

昭和大学藤が丘病院 リハビリテーション室

 開胸手術の代表例として肺がんなどの呼吸器疾患、心臓外科、食道がん手術などが挙げられます。今回は肺がんの患者さんについて解説します。


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術前・術後の看護(検査・リハビリテーション・合併症予防など)


事例
胸部に術創がある患者さん

 65歳男性。右上葉肺がんと診断され胸腔鏡下手術(Video-Assisted Thoracic Surgery:VATS)予定の患者さん。術前ADL自立。喫煙歴は1日20本を30年間、現在は禁煙している。術前呼吸機能検査において努力性肺活量88%、1秒率74%、BMI19.5。

 術前オリエンテーションとして、術後の創部を保護しながら咳や深呼吸を行う方法、背部の呼吸介助、ハフィング、疼痛が生じにくい起き上がり方法に関して説明し練習を行った。

 術後翌日、術前オリエンテーションを行ったとおりに咳や深呼吸を行い、離床も行った。疼痛の訴えは認めるものの自制内、術後の経過は良好であった。術後スムーズに離床できた影響もあり呼吸器合併症や廃用症候群は生じず術後3日目には病棟内歩行は自立。術後11日目に退院となった。


事例について考えてみよう!

術後リハビリテーションの実施、ここがよかった!

1 呼吸器合併症のリスクを想定して、術前オリエンテーションを行い、術後のリハビリテーションがスムーズに行えた

 肺がんの手術には開胸手術や胸腔鏡下手術があります。胸腔鏡下手術の利点は手術の傷が従来の方法と比べると小さく、手術後の疼痛が少なく、早期に退院が可能であることです(施設の方針によって異なりますが、概ね術後10日程で退院可能です)。胸腔鏡下手術の欠点は外科医に新たな技術が必要であり、できる手術が限られている点です。

想定できるリスク1 喫煙による呼吸機能の低下により呼吸が浅くなっている可能性がある

 今回の患者さんはベースが肺がんです。肺がんのリスクファクターには喫煙があり、喫煙は呼吸機能低下や痰の増加を引き起こします。

 呼吸機能が低下している場合、呼吸そのものが乱れている患者さんが多く、呼吸が浅くなる傾向があり、うまく呼吸できないケースが多いです。そのため、術前から呼吸器合併症を意識してオリエンテーションを行うとよいでしょう。具体的には、深呼吸や咳嗽、ハフィングなどが該当します。

想定できるリスク2 もともと痰の分泌が多い可能性がある

 前述しましたが、肺がんの患者さんは術前から痰が多い傾向にあります。術後は麻酔の影響や気管内挿管による気道や喉頭への刺激などによって、気道内分泌物が増加します。このため術前、術後の両方の因子が関与し痰が増加しやすいため、排痰は重要であることがわかります。

成功へのヒント

呼吸機能が低下していることを考慮する

 肺がん術後は肺を切除した状態となります。肺を切除した状態とは、肺そのものの容積が減少するといった状態ですので、肺活量低下などの呼吸機能低下を来します。肺活量が低下することによって体内の酸素運搬が不十分になり、低酸素血症を来しやすくなり、歩行などの動作ですぐに酸素飽和度が低下しやすくなります。そのため、離床の際のポイントは以下の2つです。
① 動作ごとに呼吸を乱さないようにすること
② 呼吸が乱れたら動作をいったん止めて安楽な姿勢を取り呼吸を整えること
 
 具体的には、起き上がって座位になったら呼吸を整え、座位から立位になったら再び呼吸を整える、といったように対応します。

イラスト①:患者さんの位置を確認する。ベッドの中心になっていない場合は移動させる。

イラスト②:まずベッドの足側を挙上する。その後、頭側をベッドアップする。

イラスト③:患者さんを横向きにする。

イラスト④:横向きのままベッド側の肘をついて、起き上がってもらう。

イラスト⑤:ベッド脇に座っているイラスト

まとめ

 特に術直後は手術そのものの影響で肺活量が低下しやすく、さらに肺容積低下のため肺活量が著しく低下している状態です。動作時の呼吸困難感、酸素飽和度などをモニタリングしながら離床を行うとよいでしょう。必要に応じて、主治医に動作時一時的に酸素流量の増大を相談するようにします。

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