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【連載】Newsのツボ

産後うつ予防ー心のケアに早期から対応、看護師はどうかかわる?

解説 宗田 聡

広尾レディース院長 医師/医学博士/産業医

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2017年度から厚生労働省は、産後うつを予防するため、原則本人負担の健診費用の助成をはじめると発表しました。今回は産後うつとはどういったものなのか、医療従事者はどうかかわるとよいのかを解説します。


なかなか進まなかった妊産婦へのこころのケア

「産後うつ」は、これまで社会的にあまり注目されることがありませんでした。というのも、その実態が表面に現れていなかったのです。しかし、周産期の分野では以前から問題視されており、患者数は決して少なくないと考えられていました。現在では、出産後の女性の10~15%が発症するといわれています。近年では、妊娠時から出産前までを含めて「周産期うつ」とする考え方も出てきました。

 国では2014年から妊娠・出産包括支援事業をスタートさせ、妊娠前から育児期まで継続的な支援を行うためのモデル事業が各市町村で行われています。これは、母子保健医療対策であるとともに、児童虐待防止対策として位置づけられており、少子化や高齢出産が進んでいる現状もにらんだもの。退院直後の母子の心身のケアを行う産後ケア事業も、モデル事業の1つとなっています。今回の健診費用の助成も、このような流れを受けたものなのでしょう。

 しかし一方では、05~14年の10年間に東京都内で発生した妊産婦の自殺が63件に上るという状況も報告されています(16年東京都観察医務院ら調査)。これは妊娠・出産時のトラブルによる死亡の約2倍で、医療者の努力によって分娩のリスクが減らされた傍らで、妊産婦のこころのケアは置き去りにされてきたという現実をうかがうことができます。

こどもと家庭に影響。産後うつは早期発見を

 産後うつは、出産後から約1年以内に発症するうつ病のこと。その症状や診断は、基本的に一般的なうつ病と変わりません。しかし、本人だけでなく、子どもや家庭にも影響を及ぼすことが大きな特徴であり、大きな問題となるのです。

 母親の気分が落ち込み、やる気が起こらないため、子どもの世話が疎かになり、それが育児放棄を生んだり、愛着形成がうまくなされないなどの状況に結びついてしまいます。このような状況で育った子どもは、精神的に問題を抱えてしまう恐れが少なくありません。それを受けてさらに母親が落ち込み……と、負のスパイラルに陥ることも。子育てに加えて、家事や社会生活も十分に行われなくなり、場合によっては家庭の崩壊にもつながりかねません。

 発症の原因はわかっていませんが、妊娠・出産によるホルモンバランスや環境の変化、精神疾患の既往などが大きくかかわっていると考えられます。子どもに現れた異常(未熟児、先天性疾患の発覚)や本人の性格なども誘因因子とされています。

 産後うつは、早期に発見すれば薬物を使用せずに治癒できる可能性が高くなります。ですからスクリーニングが重要。「エジンバラ産後うつ病質問表(EPDS)*1」がよく利用されています。また、①赤ちゃんや子育てに対して興味がわかない、やる気が起きない、②食事の支度ができなくなる(日本人の食習慣の場合*2)、③常に寝不足で、体力的・精神的にも限界を感じるという3症状がそろっている場合には、産後うつの可能性が高いという目安になります。

*1 EPDSはEdinburgh Postnatal Depression Scaleの略。英国で開発された評価票で、10の質問に対して母親自身が回答する。調査時から過去7日間の状態を知ることができ、経過をみる指標にもなる
*2 日本人の場合、ご飯、味噌汁、主菜、副菜という形で食卓を整える習慣がある。そのためには、献立内容を細部まで考え、準備から調理まで複数の工程を一度にこなすことが求められる。うつ状態にある場合、このような複雑な思考と行動が困難になることが多い

問題は周産期に限らない 医療職はもっと関心を

 産後うつが疑われたら、まずは地域の保健所へ相談に行くことをお勧めします。厚生労働省が推進する母子保健国民運動プロジェクト「健やか親子21」により、保健所には地域の医療機関の情報が集約されています。自分の住んでいる地域で、産後うつに対応している病院・クリニックがどこかを知ることが可能です。

 残念ながら、日本の場合出産した産婦人科でこころのケアを受けられることは少ないのです。産婦人科に行ったら、心療内科や精神科を紹介され、心療内科や精神科では、重症患者さんと比較して軽度とみなされ、薬を処方されておしまいに。ともすれば、授乳中で薬の摂取が難しく、何の対応も受けられずに終わることさえあります。本来ならば、産婦人科、心療内科・精神科、小児科などが連携し、ソーシャルワーカーや地域の保健施設、各種団体と一緒になって、産後うつに対する支援体制を整備すべきなのですが、現状はまだまだ及んでいません。

 その実現のためにも、看護師、そして医療職の皆さんには、産後うつとそのケアに対して、もっと関心をもってほしいと思います。そして、医療の専門職として、根拠に基づいた適切な知識を身に付けてほしいのです。産後うつの患者さんの場合、家庭や地域にいることが多くなります。ですから、医療機関の中でかかわる機会はそう多くはないでしょう。しかし、先に述べたとおり、産後うつは社会的問題の因子であり、確実に予防や対応が求められています。医療機関の中だけでなく社会においても、医療職の言動に対して人々は敏感に反応します。産後うつの認知が十分でないからこそ、間違った認識が広まらないよう留意してもらえるとうれしいですね。

 あなたの周囲に、妊娠したあるいは出産した肉親や友人はいませんか。そう考えると無関心ではいられないはず。看護師のスキルを生かして、産後うつのサインをキャッチしてほしいと思います。

>>次ページでは、看護師のみなさんがどう考えているかを紹介します。