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【連載】事例でみる術後リハビリテーション こんなときどうする?

呼吸器合併症のリスクが高い患者さんへの対応

執筆 黒岩澄志

昭和大学藤が丘病院 リハビリテーション室

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今回は食道がんの症例について解説します。


事例
呼吸器合併症のリスクが高い患者さん

66歳男性。食べ物のつかえ感が認められ近院受診。食道がんが疑われ紹介受診。検査の結果胸部食道がんと診断、化学療法を施行後手術の方針となる。BMI19.5。呼吸機能検査で努力性肺活量82%、1秒率63%。食道がん診断直後まで喫煙(1日20本×45年)しており、ここ数年咳や痰を自覚していた。食事時のむせあり。

 術前オリエンテーションとして術後の創部を保護しながら咳や深呼吸を行う方法、疼痛が生じにくい起き上がり方法に関して説明し練習を行った。このとき、食事がうまく摂取できていないことから口腔内汚染があることを確認し、口腔ケアを行うとともに看護師間でも術後も口腔ケアを徹底することを確認した。

術式は右開胸にて胸腹部食道摘出+後縦隔経路による再建であった。

術後翌日、聴診すると両下葉の肺胞呼吸音減弱。触診では呼吸時両背側の動きが低下しており、術中、術後同一体位を強いられたことによる背側無気肺と推測。背側の呼吸介助と離床を行った。術前に起き上がり練習を行った影響もあり術後の起き上がりは比較的スムーズに行われた。2日目以降も引き続き背側の呼吸介助と離床を段階的に行い、術後6日目には両下葉部の換気は向上し無気肺消失、病棟内歩行自立となった。術後も口腔ケアを意識することで肺炎などは来さなかった。その後経過良好で術後16日後に退院となった。

背部の呼吸介助


事例について考えてみよう!

この事例のココがよかった!

1 術前から呼吸器合併症のリスクが高いと考え、対処できた
2 口腔汚染を事前に把握でき、対処できた

 術後の呼吸器合併症のリスクが高くなるリスクファクターは、呼吸機能低下、喫煙、高齢、肥満、開胸開腹手術です。そもそも食道がんのリスクファクターは飲酒・喫煙です。また、喫煙は呼吸器合併症のリスクファクターでもあり、喫煙歴や1日の喫煙する本数が多いほど呼吸機能が低下しやすくなるため、喫煙歴や喫煙の有無だけでなく、1日何本程度喫煙しており、合計何年(何歳から何歳まで)喫煙していたかを聴取することが重要です。また食道がんは腹腔鏡下の手術であっても侵襲の大きいものであり、呼吸器合併症のリスクが高くなるがんであると言えます。

 呼吸器合併症のリスクが高い患者さんに関しても術前オリエンテーションの実施が望ましいです。術前からオリエンテーションを行いアセスメントを行うことで呼吸器合併症のリスクが高いということをスタッフ間で共有することができます。さらにこの事例でよかった点は、口腔内汚染を事前に把握でき、口腔ケアを術前後で強化できたことです。食道がんに限らず食事摂取が不十分であると口腔内の衛生に関して目を向ける機会が減りやすくなり、結果として口腔内汚染が著明になります。今回の患者さんは、術後少し背側無気肺を合併してしまいましたが、口腔内汚染が影響して呼吸器合併症が重症化してしまう恐れがあったことを考慮すると、今回の対応は非常によかったと思います。

成功へのヒント!

術後呼吸器合併症について知っておこう!

 術後呼吸器合併症には、主に低酸素血症、無気肺、肺炎が挙げられます。
 
低酸素血症:動脈血液中の酸素が低下している状態のことで、PaO2が60Torr以下の状態をいいます。肺胞低換気、換気血流比の不均衡、肺内シャント、ガス交換障害が原因として考えられます。

無気肺:なんらかの原因により気道が圧迫、閉塞されたことで、含気量が低下して肺容量が低下した状態のこと。

肺炎:術後の肺炎は、主に気道内に貯留する分泌物が増加した結果、気管支や肺に垂れ込み、気管支を閉塞することで起こります。

呼吸機能低下、喫煙、高齢、肥満、開胸・開腹手術は呼吸器合併症のリスクファクター

 呼吸機能自体が低下している場合、深吸気量や機能的残気量にすぐ影響を及ぼします。喫煙は呼吸機能を低下させるだけでなく、気道内に慢性的な炎症を生じさせ、気管内の分泌物を移動させる線毛運動を抑制するため、気道内分泌物が増加して貯留しやすい状態となります。そのため喫煙は呼吸機能低下だけでなく喀痰増加、分泌物貯留の原因にもなります。

 高齢者は加齢の影響で肺年齢が高くなり、肺活量自体が低下します。肥満の患者さんは腹部の脂肪が横隔膜の動きを阻害するため、肺活量の低下を来すだけでなく、腹式呼吸が困難になります。そのため深呼吸が不十分になり、呼吸器合併症を来しやすくなります。開胸・開腹術のような大手術は術後侵襲の影響や麻酔などの影響で深呼吸が困難になり、呼吸器合併症を来しやすくなります。

まとめ

今回の患者さんのように背側無気肺が生じてしまったら背側への換気を促す目的で背側の呼吸介助を行うとよいでしょう。リハビリテーション職種が呼吸リハビリテーションにかかわることが多いと思いますが、リハビリテーション職種が患者さんにかかわれる時間は限られていますので、看護師サイドでも背側無気肺に関するアプローチを行うとよいでしょう。