遺伝性血管性浮腫(HAE)の具体的症例と治療の現状

編集 ナースプレス編集部

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Gakkai report

5月9日、丸ビルコンファレンススクエアにて、製薬企業シャイアー・ジャパン株式会社によるプレスセミナーが開催されました。広島大学大学院医歯薬保健学研究院皮膚科教授・秀道広先生の講演を通し、近年、診断と治療が急速に進歩している遺伝性血管性浮腫(HAE)について具体的な症例の紹介と治療の現状が紹介されました。遺伝子の異常が背景にある難病のひとつ、遺伝性血管性浮腫に関するセミナーをレポートします。


腫れやむくみ、腹痛を繰り返す難病の実態-遺伝性血管性浮腫の具体的症例と治療の現状-

遺伝性血管性浮腫のメカニズム

 遺伝性血管性浮腫(HAE)の症状そのものは、腫れやむくみ(浮腫)、腹痛などありふれたものだけに、まずは、代表的な血管性浮腫である蕁麻疹などとの違いについて紹介がありました。
 血管から血液が外へ漏れ出し浮腫を起こすメカニズムには、(1)血管に隙間ができるケース、(2)血液の浸透圧が下がる(薄くなる)ケース、 (3)静脈、リンパ管が詰まるケースの3つがあること、そして、血管性浮腫が(1)に該当することが説明されました。
 
 また秀先生は、表層で腫れが起きる蕁麻疹に対し、深部で起こるものが血管性浮腫であるといい、「普通の蕁麻疹は皮膚の浅いところが腫れ、だいたい数時間で消えるが、血管性浮腫は深いところが腫れ、だいたい2、3日で消える」と特徴を述べました。

 現在、遺伝子の異常によって血管性浮腫を起こす遺伝性血管性浮腫が知られ、難病指定されています。「血液の中にブラジキニンという物質が過剰に産生される、あるいはできたものがなかなか分解されないために起きます。ブラジキニンは誘因というより、反応閾値を下げる背景因子として作用しています」と秀先生は指摘しました(図1)。つまり、遺伝子異常に伴うブラジキニンの血中濃度の異常により血管を押し広げ、浮腫を発生させるのです。

ブラジキニン

有効な診断と治療

 「大切なことは、血管性浮腫の中で起こる仕組みが大きく2つあり、ひとつはアレルギー反応で起きるときと同じようにヒスタミンやマスト細胞が関係するもの、もうひとつが遺伝性血管性浮腫を含む、ブラジキニンが関与するものに分かれるということ。この2つは直接的な仕組みが違うので、治療が大きく異なる」と秀先生は注意を促しました。

 前者はステロイド薬や抗ヒスタミン薬といった通常のアレルギー治療で対応できるものの、後者は対応できないため、病態を的確に診断することが重要になります。

 このように、難病とはいえ、遺伝性血管性浮腫の病態自体は確立されていて、しかも検査で比較的簡単にわかります。つまり、補体成分のうちC4(補体第4成分)が低下し、もともとブラジキニン産生の暴走を防いでいるC1インヒビターという、主に肝臓で作られる酵素の活性が著しく低下している状態が遺伝的に引き起こされることがわかっています (遺伝性血管性浮腫はC1インヒビター欠損症とも呼ばれます)。そして、その異常は検査によって短時間のうちに確認できます。

 また、治療戦略としては、ブラジキニンの産生を抑制する働きをもつ薬が有効となります。近年、より高い効果を狙った新規治療薬も次々に開発されています。

 こうした事実を踏まえ、秀先生は遺伝性血管性浮腫の特徴を次のように要約しました。

・第11染色体長腕の特定の遺伝子がヘテロの欠損または変異することによって起きる
・アレルギー発作に用いられるアドレナリン、ステロイド、抗ヒスタミン薬などは無効(浮腫が起こるメカニズムが異なるため)
・発生頻度は欧米では1人/約5万人(人種差なし)
・わが国では約450例が確認されている(推定患者数は約2400人)
・皮膚のほか、気道、腸管の浮腫も生じる
・急性発作にはC1インヒビター点滴が有効(ブラジキニン産生をブロックするため)
・非発作時にはまったく無症状(多くの遺伝性疾患と異なる点)

治療上の問題点

 臨床上の課題としては、ある日、突然、腫れが起き、その症状が数日続くために患者の日常生活が支障をきたしているにもかかわらず、患者のほとんどが見逃されている現状を挙げることができます。日本での遺伝性血管性浮腫の患者171例の調査では、初めて発作を起こした年齢は平均年齢24.2歳、初発症状出現から診断までの期間は13.8年という背景がわかっています。秀先生によれば、「予想される数と実態の患者さんの間にギャップがある」とのことです。

 また、医師の間で認知度が低いという問題も無視できません。例えば、腹部が腫れたために急性腹症と診断され、腹部切開となった事例もしばしば見られます。あるいは、喉頭や咽頭が腫れ続け重篤な気管閉塞となり、致死的になった事例や気管切開を行なった事例もあります。

 「頻繁に発作を起こす患者さんの場合は、不足しているC1インヒビターを定期的に補充する、ちょうど血友病で行われている治療と同じような治療が望ましいが、まだ日本では保険適応がない」と秀先生は語りました。

 秀先生はその他にもわが国における遺伝性血管性浮腫の治療上の問題点を挙げました(図2)。

遺伝性血管性浮腫の治療上の問題点

鍵を握る啓蒙活動

 特に、医師の認知度が低いことは、さまざまなアンケートや調査などから明らかです(図 遺伝性血管性浮腫の医師向け認知度調査)。いずれの診療科でも遺伝性血管性浮腫の患者を診療する可能性があるものの、半分以上の医師がこの病気の存在自体を知らない状況です。歯科治療や手術に伴って遺伝性血管性浮腫の発作が出やすいことがわかっていますが、認知度の低さは適切な診断や治療に繋がりにくい原因のひとつになっていると思われます。

 「どの患者さんにいつどの程度の症状が起きるかは予測できない。この病気の重症度を予測する、あるいはその後の経過を予測するマーカーはないため、病気かどうかを診断すること、そして診断された場合はいつ症状が起きても問題がないようにすぐ対処できるような体制を整えておくことが非常に重要だ」と秀先生は強調しました。

 今年初めに急性発作の発症抑制の適応として治療薬C1インヒビター製剤が承認され、予防的な投与の道が開けています。

 また、2015年、難病指定制度が改定され、特定疾患リストの原発性免疫不全症候群の中に遺伝性血管性浮腫が病名として明記されました。従来、通常の保険診療では患者負担が大きい課題が指摘されていましたが、改定以降は、きちんと診断され、指定難病の手続きを受ければ、適正な医療費助成を受けられるようになっています(通常、個人的負担は月額1〜2万円程度)。

 2008年には診断された患者数がわずか50人だった状態が2016年には400人を超え、年々増加傾向にあります。「見逃されていた人たちが現在、正しく診断されつつあることを示している」と秀先生は話しました。

 最後に、秀先生は「病気の仕組みや治療薬は基本的に整っているが、現実には費用の問題とか診断薬の問題とか、病院の体制とかができていないという社会的な問題が残されている。そういった問題に対処するためにも、さまざまな啓蒙活動が求められている」とまとめました。