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酸素療法とは?種類・目的・適応・看護

  • 公開日: 2017/5/22

酸素療法とは? その目的

 酸素療法とはカニューレやマスクなどを用いて体内に適量な酸素を投与する治療法です。その目的は、動脈血の酸素化を図り、末梢の細胞組織に十分な酸素を供給することによって低酸素状態の改善をすることです。

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酸素療法の種類(低流量システムと高流量システム)

 成人の一回の呼吸で肺に出入りする空気の量は約500ml、普段私たちが吸っている空気の酸素濃度は21%と言われています。

 吸気時間を1秒とすると、1秒間で500ml吸うので、いつでも500ml吸えるようにするには500ml/秒×60秒=30L/分、つまり流量は30L/分ということになります。そしてこれを目安に「低流量」もしくは「高流量」と言われています。

 酸素マスクや鼻カニュラは1~6L/分で使用するため「低流量」酸素療法と言われています。

 酸素1Lの酸素濃度は24%、以降1L増える毎に4%増加しますので、例えば酸素5Lでは酸素濃度40%の酸素を吸っていることになります。

 ベンチュリーマスクやリザーバーマスクは6L/分以上で使用され、30L/分以上に設定することが可能なため「高流量」酸素療法に分類されます。高流量酸素療法の場合、酸素6Lの酸素濃度は60%、酸素10L以上では酸素濃度90%の酸素を吸っていることになります。

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酸素療法の適応

 目の前の患者が酸素療法の適応になるかどうかは、さまざまな状態に応じて考慮されます。具体的には、以下のような内容が考えられます。

● 動脈血ガス分析の結果、低酸素状態が疑われる場合
● 慢性閉塞性肺疾患、肺炎、肺水腫など低酸素血症が疑われる場合
● 不整脈、心筋梗塞、心不全などの心拍出量低下に伴う循環不全により呼吸状態が不安定な場合
● 貧血、外傷や手術に伴う出血など血液の酸素運搬能力の低下が疑われる場合

 また、酸素療法の適応となった場合、以下の基準によって酸素投与が開始されます。

● 口唇や末梢のチアノーゼなどの酸素が不足している症状が出現した場合
● 動脈血酸素飽和度や酸素分圧が異常値を示している場合
 ・動脈血酸素飽和度(SaO2)90%以下
 ・動脈血酸素分圧(PaO2)60〜70mmH以下
 *経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2)と動脈血酸素飽和度(SaO2)はほぼ同値である

 酸素療法の導入を決定するのは医師の仕事ですが、行っている酸素療法が患者さんの状態に合っているかどうかのアセスメントは、看護師も行えたほうがよいでしょう。酸素化の評価の仕方を知っておくことが大切です。

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酸素療法のガイドライン

 酸素療法に関するガイドラインは日本呼吸器学会と日本呼吸管理学会が作成した酸素療法ガイドラインがあります。その内容は酸素療法に必要なものが記載されています。

● 酸素吸入に関する基礎知識
● 呼吸不全に対する対応方法
● 低流量、高流量システムについて など

加湿は必要か

 このガイドラインによると、低流量や低濃度の酸素吸入においては、ネブライザーなどの加湿の必要はないと言われています。

具体的には、鼻カニュラでは酸素流量3L/分以下、NPPVでは酸素濃度40%以下の酸素投与に対し、あえて酸素を加湿する必要はないとされています。その理由は、1回の酸素吸入量よりも、鼻から吸う室内の空気の量のほうが多いためです。

 鼻には天然の加湿器があるので、投与する酸素を加湿するよりも、室内の湿度を高めたほうが効果的といえます。

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ネブライザー使用によるリスク

 また、ネブライザー使用により細菌汚染のリスクが生じることも挙げられます。酸素加湿を必要とするのは、鼻で呼吸できない気管切開や人工呼吸器を装着している患者さんとなります。

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酸素療法に用いるデバイスの特徴と種類

 酸素療法は低流量では鼻カニュラや酸素マスクを、高流量ではベンチュリーマスクやリザーバーマスクを選択して使用されます。それぞれの特徴は以下の通りです。

鼻カニュラ

【メリット】
酸素吸入しながら会話や食事をすることができます。酸素マスクや高流量酸素療法と比較すると、閉塞感や圧迫感は少ないです。
【デメリット】
鼻腔から酸素を投与するため、口呼吸や鼻閉塞時には酸素投与が難しいとされています。
酸素投与量が6L/分以上の場合は、鼻粘膜の乾燥や損傷リスクがあるため使用は推奨されていません。
酸素投与量が低流量なため、患者自身の換気量に左右されやすいです。

酸素マスク

【メリット】
鼻カニュラと比較すると、多くの酸素投与を行うことができます。
鼻と口を覆う形で酸素投与されるため、鼻腔からでも口腔からでも酸素を体内に取り込むことができます。
【デメリット】
鼻カニュラと比較すると、圧迫感や閉塞感が生じてしまいます。
酸素マスクを1〜4L/分で使用すると、マスク内に呼気が貯留しやすく、その呼気を再度取り込むことによりPaCO2が上昇する危険性が生じてしまいます。

リザーバーマスク

呼気時にリザーバー内に酸素を蓄え、吸気時にリザーバー内の酸素とチューブから出てくる酸素、マスク内の酸素を吸入するタイプです。

【メリット】
通常の酸素マスクに比べ高濃度の酸素を投与することができます。
【デメリット】
リザーバーバッグ内の空気がある程度新しくなるよう酸素流量を調節する必要があります。疾患によっては、高濃度酸素投与によるCO2ナルコーシスなどの危険性がある患者さんには注意が必要です。

ベンチュリーマスク

 通常の酸素投与量は最大15L/分までですが、酸素と空気を混ぜることで、酸素投与量が30L/分以上の流量を作ることができます。
ベンチュリー効果とは、小さな出口から高圧の酸素を流してジェット流を作ると、ジェット流の周りが陰圧になります。ここから空気を引き込み酸素と空気を混合します。

【メリット】
通常よりも、高流量の酸素を投与することができます。
患者さんの呼吸状態にかかわらず安定した濃度の酸素投与を行うことができます。
正確な酸素濃度管理が必要な慢性閉塞性呼吸器疾患(COPD)や慢性呼吸不全の患者さんなどに適しています。
【デメリット】
高濃度酸素投与によるCO2ナルコーシスなどの危険性がある患者さんには注意が必要です。

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酸素療法の評価方法

 酸素療法の評価方法には、SaO2値やPaO2値を用います。

 PaO2は、動脈血中の酸素分圧を表現しています。正常値は80~100torrです。
動脈血中の酸素は血漿に溶けて存在しているものと、血中に含まれるヘモグロビンと結合しているものに分かれます。
ヘモグロビンと結合している酸素の割合を示すのが酸素飽和度で、動脈血中の酸素飽和度をSaO2と表します。
すべてのヘモグロビンと酸素が結合している状態=100%が最高値となります。

 酸素の多くは、ヘモグロビンと結合することで運搬され、その結合率は酸素分圧によって規定されます。従って、酸素化を評価するにはPaO2とSaO2を見ていく必要があります。

 PaO2とSaO2の関係は、その標準的な関係を示す酸素解離曲線によって理解することができます。
また、動脈血酸素飽和度は、パルスオキシメーターを使って簡便に測ることができます。皮膚を通して計測した値であることから、経皮的動脈血酸素飽和度といいSpO2で表します。
SaO2とSpO2は直接血液から測定するか、皮膚を通して測定するかの違いなので、両者の間に差はほとんどありません。

 パルスオキシメーターでSpO2が測定できれば、酸素解離曲線を用いてPaO2を推測することができます。

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酸素療法の看護

観察のポイント

 酸素療法の看護における観察点は今まで述べてきたSpO2やPaO2以外にも、呼吸回数、や顔色(チアノーゼの有無)などが挙げられます。これらに異常があった場合は、さらにアセスメントをしていきます。呼吸をアセスメントする際に情報収集するものはさまざまで、以下のようなものが挙げられます。

呼吸回数

呼吸回数と深さを確認します。

呼吸音

聴診器で聴診し、呼気と吸気の呼吸音を確認します。

呼吸のリズム

異常な呼吸のリズムには、チェーンストークス呼吸、ビオー呼吸、クスマウル呼吸などがあります。

血液ガスのデータ

 主に、呼吸の状態をアセスメントするときに見られるデータは、PaO2、SaO2、PaCO2、HCO3-、pHです。
PaO2とSaO2は酸素化の状態を、PaCO2はガス交換の状態、pH、HCO3−、PaCO2は酸塩基平衡の様子を見るために用いられます。

注意点

 低酸素状態や低酸素血症では、まず酸素投与という場合が多いと思いますが、高二酸化炭素血症を伴う場合では、CO2ナルコーシスを起こす危険性があるため注意が必要です。

 通常、呼吸は呼吸中枢によって管理され、血液中の二酸化炭素が高くなると呼吸を促すようになっています。しかし、慢性的に二酸化炭素が高いと、低酸素による刺激によって呼吸が管理されるようになります。

 そうした状態のときに、高濃度の酸素を投与すると、呼吸中枢が刺激されず、呼吸が抑制されてしまいます。
これによって、さらに二酸化炭素が身体に蓄積し、頭痛や意識障害といった障害(CO2ナルコーシス)が現れます。

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在宅酸素療法(HOT)の注意点

 自宅で酸素を吸いながら生活するのが、「在宅酸素療法(HOT)」です。これは治療目的ではなく、病態の安定と生存期間の延長、QOLの維持が目的となります。

 在宅酸素療法の導入に際しては、まず患者さんが自分の疾患の推移や現在の状態、酸素吸入の必要性を十分に理解する必要があります。
酸素ボンベを携帯しての行動や、鼻カニューレを装着した容姿などから、受け入れを拒否したり、病状の悪化に落ち込んだりする患者さんも少なくありません。

 こうした患者さんの心理面に十分に配慮しながら、患者さんが酸素療法の導入を前向きに考えられるようなアプローチが大切です。

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