【連載】呼吸器に強くなる!

【呼吸生理学1】肺胞での酸素と二酸化炭素の受け渡しのメカニズム

執筆 南雲秀子(なぐもひでこ)

大和青洲病院 看護師長/米国呼吸療法士(RRT) / 保健医療学修士(MHSc) 日本呼吸ケアネットワーク 理事

ここでは、酸素療法のアセスメントに必要な呼吸生理学について解説していきます。今回は、肺胞気と肺胞毛細血管の間のガス交換について取り上げます。


呼吸のキホン

吸気は上気道(鼻から咽頭)を通りぬけると声門を過ぎて下気道(気管)に入ります。気管を下って気管分岐部で左右に分かれ、そこから二股に分かれることを繰り返しながら徐々に細い気管支に分かれていきます。気管支が二股に分かれると分かれ目にぶつかって多少の乱気流が生じますが、分かれた後の2本の気管支の合計の断面積は分かれる前よりも大きくなっているため、気管支が肺胞に向かって23回分岐するにもかかわらず、吸入気の流れは正常な肺では先に行くほど抵抗が少なく流れやすい状態になっています。

詳細説明図


肺胞気と肺胞毛細血管の間のガス交換

肺胞での酸素と二酸化炭素の受け渡しは、どのように行われているのか

肺胞気とは肺胞にある気体のことで、そこにある酸素と二酸化炭素の圧力を肺胞気酸素分圧(PAO2)、肺胞気二酸化炭素分圧(PACO2)と言います。肺胞毛細血管には全身から運ばれてきた静脈血が流れ、そこの二酸化炭素分圧(PvCO2)は肺胞よりも高いのでCO2はここで肺胞毛細血管から肺胞気へ移動して、次の呼気と共に体外へ排泄されます。

逆に、肺胞気の酸素分圧(PAO2)がその周りを流れる肺胞毛細血管の酸素分圧(PvO2)よりも高いので、酸素は肺胞から毛細血管へ吸収され、そこでヘモグロビンと結合して全身に運ばれます。肺胞気にある酸素が間質を通過してヘモグロビンと結合する過程のことを拡散といい、そのスピードが遅くなるような状態を拡散障害といいます。

拡散障害の原因は2つ考えられる

肺胞のガスの分圧と毛細血管ガスの分圧の間に差があるほどガス(酸素と二酸化炭素)の移動のスピードが上がります。
通常、1個の肺胞の周りを流れる毛細血管が十分な酸素を受け取るには0.25秒かかります。また、二酸化炭素が毛細血管から肺胞に移動するのに必要な時間は酸素の1/200で済みます。移動のスピードが遅くなることを拡散障害といい、その原因としては①肺胞の壁(間質*といいます)が厚くなること、そして②肺胞と毛細血管の分圧の差が小さくなること、の2つの原因が考えられます。

詳細説明図②

拡散障害の治療法

間質性肺炎や肺水腫、急性肺障害(ALI)などの患者さんは、間質が炎症等で厚くなるため酸素の移動に時間がかかるようになり、それが0.75秒を超えるとPaO2が低下します。このような状態の患者さんには、
①呼吸回数を増やして肺胞に運ぶ酸素の量を多くする
②酸素吸入によってFiO2(吸入酸素濃度)を上げる
③陽圧呼吸療法で肺胞の圧力を上げて肺胞気と毛細血管の酸素分圧の差を大きくする
上記のいずれかの方法で、酸素の拡散を改善させます。

呼吸数が速くなるとPaCO2(二酸化炭素分圧)は低くなりすぎることがありますが、それは低酸素症の害に比べて臨床的にはそれほど問題になりません。

詳細説明図③

閉塞性肺疾患での酸素療法

COPDの患者さんは、呼気の気流が障害されて肺胞が大きくなります。毎回の呼吸によって肺胞気が入れ替わる分量が少なくなり肺胞気がよどんだ状態になるため(これを気腫化という)、肺胞気の酸素分圧は上がりにくく、また二酸化炭素分圧は下がりにくくなります。普通、人間の身体はPaCO2の上昇、つまり二酸化炭素が身体に溜まることで血液が酸性になるため呼吸運動が行われる、つまり吸気が始まります。しかし、COPD患者さんが中等症から重症になるといつも身体に二酸化炭素が溜まっているため、二酸化炭素による呼吸刺激が効かなくなってしまいます。そこで、代わりに低酸素であることで呼吸運動を起こしているという状態(異常刺激による呼吸)になってしまうのです。

このような患者さんは酸素が不足するから呼吸運動を繰り返しています。この状態でも低酸素症の場合には酸素吸入が必要ですが、最低限必要な量以上の酸素を長時間与えすぎると、酸素が足りているため呼吸運動が弱まってしまう事があり、これをCO2ナルコーシスと言います。つまり普段からPaCO2が高い患者さんに必要以上の酸素を与えすぎると呼吸停止する危険があるということです。自発呼吸を維持できる酸素吸入量の目安としてSpO2の上限が95%以下を維持できる量を常時確認してください。

詳細説明図④

何が違うの? 低酸素症と低酸素血症

低酸素症とは、身体に必要な酸素が十分に行き渡っていない状態のことをいいます。原因は、大きく3つに分類されます。

❶体外から動脈血への酸素の供給量(取り込まれる量)がそもそも不足している
❷酸素の供給量は正常でも、消費量が供給量を上回っている(敗血症、高熱、熱射病、甲状腺機能亢進症、など)
❸酸素の供給量は正常でも組織が酸素をうまく利用できない状態である(シアンや硫化水素の中毒、など)

一方、低酸素血症は、動脈血中の酸素が低下していることをいいます。原因としては次の4つが考えられます。

❶肺胞低換気状態
❷換気血流比不均衡
❸シャント
❹ガス交換障害

低酸素血症があれば、低酸素症になりますが、逆はいつも正しいとは限りません。低酸素症の原因が組織で酸素を使えない状態(シアン化カリウム中毒など)であれば、必ず低酸素血症を伴うわけではありません。

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