【連載】使い分けの根拠がわかる! 循環器の薬

降圧薬の種類・作用機序と使い分け

執筆 古川 哲史

東京医科歯科大学 難治疾患研究所 生態情報薬理学分野

目次


高血圧に使う薬

 「高血圧治療ガイドライン」は、西暦で4と9のついた年、つまり5年ごとに見直されています。2009年に発表されたガイドラインでは、第一選択薬はカルシウム拮抗薬、サイアザイド系利尿薬、ACE阻害薬、ARB、β遮断薬の5種類でしたが、最新の2014年のガイドラインではβ遮断薬が外れて4種類となりました。しかし、β遮断薬を第一選択薬から外すにあたっては異論もあったようで、上記の4種類にβ遮断薬を加えた5種類を主要降圧薬とする紛らわしいくくりもいまだに残されています。

 主な降圧薬を表1に示します。

主な降圧薬の表

作用機序

 血圧は、収縮期血圧・拡張期血圧・脈圧(=収縮期血圧-拡張期血圧)に分けて考えましょう。収縮期血圧と拡張期血圧は次のように決まってきます。

収縮期血圧 = 心拍出量 ÷ 動脈のコンプライアンス
拡張期血圧 = 心拍出量 × 末梢血管抵抗

 心拍出量は両者に共通なので、収縮期血圧と拡張期血圧の違いは、動脈のコンプライアンス末梢血管抵抗により生じます。動脈のコンプライアンスと末梢血管抵抗を理解するためには、動脈には弾性血管と筋性血管があることを知る必要があります。弾性血管は、大動脈などの太い血管で弾性線維に富んでいます。動脈のコンプライアンスは、簡単にいうと弾性血管の伸びやすさ(=柔らかさ)です。動脈硬化が進むと、コンプライアンスは小さくなります。したがって、収縮期血圧が高く脈圧が大きいほど動脈硬化が進んでいると考えましょう。

 一方、筋性血管は末梢の細い血管で平滑筋に富んでいます。筋性血管が血管抵抗を決めるので、抵抗血管とも呼ばれます。平滑筋は細胞内のCa2+により収縮し、サイクリックヌクレオチド(cAMP, cGMP)により弛緩します。cGMPはニトログリセリンなどの硝酸薬により産生され、cAMPは交感神経β2受容体の刺激により産生されます。細胞内のCa2+上昇には、細胞膜のCa2+チャネルを介する細胞外からの流入と、AT-1受容体・交感神経α1受容体を介して細胞内の筋小胞体からのCa2+放出の2つがかかわっています。カルシウム拮抗薬はCa2+チャネル、ACE阻害薬・ARBはAT-1受容体刺激を抑えることで血管抵抗を低下させます。拡張期血圧が高く脈圧が小さいことは、血管がまだ柔らかく動脈硬化が進んでいないことを意味しますが、一方で今後の動脈硬化の進展のリスクが高いことを意味します。

収縮期高血圧・脈圧大 ⇒ 動脈硬化が進んでいる
拡張期高血圧・脈圧小 ⇒ これから動脈硬化が進む

 通常、高血圧は拡張期血圧の上昇から始まり、これが持続し動脈硬化が進むと収縮期高血圧となります。したがって、若い人は拡張期高血圧が多く、高齢者は収縮期高血圧が多くなります。巷で「上と下の血圧の差が少ないのは良くない」といわれることがありますが、実際は脈圧が大きいほうが良くありません。高血圧の初期で脈圧が小さい人にも注意を喚起しようという目的で、「脈圧が小さいのは良くない」といわれているのでしょう。

高血圧における主要な薬の使い分け

降圧薬の選択のコツ

 高血圧はメタボリックシンドロームの診断基準の1つであり、ほかのさまざまな病態と合併していることが少なくありません。

 高血圧治療の目的は、血圧を下げることではなく、血圧を下げることによって高血圧に合併する臓器の異常を予防し、寿命・健康寿命を延伸することです。したがって降圧薬の選択は、まずこれらの合併する病態に対するメリット・デメリットをもとに考えられます。本丸を攻めるのに、周囲から攻略していくイメージです。これを積極的適応と呼んでいます。「これだ」という降圧薬がある場合は、それを使いましょうということです。積極的適応では、2014年のガイドラインの第一選択薬およびβ遮断薬のなかから、患者さんの病態に合致したものを選んで使います。そのポイントを下に整理します。

■左室心肥大では、肥大退縮効果があるとされるカルシウム拮抗薬とACE阻害薬・ARB。心不全では、心不全治療薬ともなっているACE阻害薬・ARB、サイアザイド系利尿薬、β遮断薬。
■頻脈、狭心症では、徐脈作用があり、心臓の酸素需要を減らすカルシウム拮抗薬とβ遮断薬。
■心筋梗塞後は、リモデリングを抑制し、生命予後に改善効果のあるACE阻害薬・ARBとβ遮断薬。
■慢性腎不全(CKD)では、腎機能(eGFRで評価)の低下がタンパク尿(-)の患者さんでカルシウム拮抗薬、ACE阻害薬・ARB、サイアザイド系利尿薬が同等。ところが、タンパク尿(+)の患者さんではACE阻害薬・ARBで低下が有意に小さくなります。つまり、タンパク尿(+)のときはACE阻害薬・ARB、タンパク尿(-)のときはカルシウム拮抗薬、ACE阻害薬・ARB、サイアザイド系利尿薬。
■脳血管障害慢性期では、脳血管障害の再発を減少させるカルシウム拮抗薬、ACE阻害薬・ARB、サイアザイド系利尿薬。
■糖尿病やメタボリックシンドロームでは、糖尿病の新規発症を有意に減らすACE阻害薬・ARB。
■骨粗鬆症では、腎臓からのCa2+の再吸収を増やすサイアザイド系利尿薬。
■誤嚥性肺炎では、咳反射刺激作用のあるACE阻害薬。

積極的適応がない場合

 高血圧に伴う合併症がない場合は、降圧薬による血圧低下の程度が生命予後と比例します。すなわち、高血圧治療の目的が血圧を下げることとイコールになるのです。そこで積極的適応がない場合は、2014年のガイドラインの第一選択薬の4種類(これらを「第一選択薬」といっていいのか、という疑問はありますが)のなかから最も血圧を下げる処方薬を選択することになります。その際に、処方のヒントになる情報を紹介します。

血圧の日内変動

 血圧には日内変動があり、日中に高く、夜間は低くなるのが一般的です。夜間の血圧低下は、日中の活動時に交感神経が優位となり、次のような経路でNa+利尿が起こるためと考えられています。

交感神経活性化→レニン分泌→RAA系活性化→アルドステロンによるNa+利尿

 血圧の日内変動パターンを表2に示します。モーニング・サージ(早朝高血圧)は、早朝の副交感神経優位の状態から交感神経優位の状態へのシフトがうまくいかないために起こると考えられています。モーニング・サージは起床後1時間以内に起こるとされ、モーニング・サージがない人でもこの時間帯が一日でもっとも血圧が高いとされます。そこで、家庭血圧を測定してもらうときには、起床後1時間以内の血圧と、日内変動を見るために就寝前の血圧の2回を測ってもらいます。ところで、早朝は凝固系が亢進し、脳梗塞・心筋梗塞の頻度が増加します。つまり、この時間帯に血圧が高いという状態は、脳梗塞・心筋梗塞のリスクをさらに高めるため、好ましくありません。

血圧の日内変動パターン分類表

食塩感受性

 もう1つ参考にしたいのが食塩感受性です。減塩により10%以上血圧が下がるものを食塩感受性といいます。日本人の食塩感受性の割合は欧米人に比べて高く、正常血圧者で15~53%、高血圧患者で20~74%とされます。特に肥満者・高齢者に多いとされます。これらの情報をもとに、筆者は積極的適応がない場合は次のような基準で第一選択薬を決めています。

❶収縮期血圧が高い人
カルシウム拮抗薬
❷拡張期血圧だけが高い人
ACE阻害薬・ARB
❸食塩感受性をもっている人(肥満、中高年)
サイアザイド系利尿薬。食塩感受性ではNa+排泄を促進するサイアザイド系利尿薬が効果的です。
❹ノン・ジッパー型、逆ジッパー型
サイアザイド系利尿薬。ノン・ジッパー型、逆ジッパー型ではNa+利尿が不十分と考えられるため、腎臓でのNa+再吸収を抑制する、すなわちNa+排泄を促進するサイアザイド系利尿薬を選択します。
❺モーニング・サージ
就寝前の交感神経α遮断薬、長期作用型カルシウム拮抗薬(交感神経α遮断薬は、第一選択薬にも主要降圧薬にも入っていませんが、モーニング・サージには効果的とされます)

降圧薬併用時の考え方

 1993年の研究で標準投与量のカルシウム拮抗薬、β遮断薬、利尿薬、ACE阻害薬、α遮断薬、中枢性交感神経抑制薬をそれぞれ単独で使用した場合、目標とする降圧が得られる割合はわずか32%にすぎないという論文が発表されました1)

 このように、高血圧患者さんの2/3では単剤の標準投与量では血圧がコントロールできません。この場合、単剤の投与量を増やすのと多剤の標準量を併用するのとでは、どちらが降圧目標に達するのでしょう?

 総数11,000人に及ぶ42の研究で単剤の標準投与量で降圧目標に20/10mmHg以上達しなかった場合、その薬物を倍量にするのと他剤の標準投与量を併用するのとを比較したメタ解析があります2)。その結果、多剤併用のほうが約5倍降圧目標に達することがわかりました。すなわち、単剤の増量よりも多剤併用のほうが効果的といえます。

 2014年のガイドラインでは、降圧薬併用に関する考え方をわかりやすく説明しています。推奨されている組み合わせは次のとおりです。

● ACE阻害薬・ARB + カルシウム拮抗薬
● ACE阻害薬・ARB + 利尿薬
● カルシウム拮抗薬 + 利尿薬

 2剤を併用しても十分な降圧効果がみられない場合は、ACE阻害薬・ARB+カルシウム拮抗薬+利尿薬の3剤を併用します。3剤併用でも目標血圧に達しない場合を治療抵抗性高血圧と呼びます。

 この場合、β遮断薬、α遮断薬、抗アルドステロン薬など別の作用機序の薬を追加することになります。これまではβ遮断薬が選択されることが多かったのですが、最近では抗アルドステロン薬を第四薬として推奨する論文も出ており、まだ結論は出ていないようです。

 近年、2剤を固定量とした合剤が次から次へと発売されています。ACE阻害薬・ARB+カルシウム拮抗薬+利尿薬の3剤の合剤も発売されています。2剤あるいは3剤の投与量の比を変えて処方した場合と合剤では、コンプライアンスは後者のほうがよく、有効性と副作用には両者で有意差がないという結果もあります3)

 合剤は用量の調節がしづらい、副作用が現れたとき、成分が特定しづらいという理由で嫌う医師もいますが、患者さん側からみれば服用する薬剤が減るなどのメリットも大きいようです。


引用文献

1)Materson BJ,et al:Single-drug therapy for hypertension in m n .A comparison of six antihypertensive agents with placebo. The Department of Veterans Affairs Cooperative Study Group on Antihypertensive Agents. N Engl J Med 1993;328(13):914-21.
2)Wald DS,et al:Combination therapy versus monotherapy in reducing blood pressure:meta-analysis on 11,000 participants from 42 trials.Am J Med 2009;122(3):290-300.
3)Gupta AK,et al:Compliance,safety,and effectiveness of fixed-dose combinations of antihypertensive agen ts:a meta-analysis.Hypertension 2010;55(2):399-407.


この記事はナース専科2017年2月号より転載しています。

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