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【連載】訪看ステーション「よつば」の公開カンファレンス

CASE18 禁煙指導を進めてよいものか看護師が迷ったケース

執筆 川上 加奈子(かわかみ かなこ)

株式会社のものも よつば訪問看護リハビリステーション 看護主任

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困難事例18 禁煙計画に対して本人が断固拒否


88歳男性のCさん。独居であるが隣に息子夫婦が住んでおり、ときどき様子をみに来る環境で生活している。Cさんは若い頃からヘビースモーカーであり、1日1箱は吸ってきた。72歳のとき、肺がんにより右開胸手術をしたが、その後も呼吸状態は安定していたため、結局喫煙もそのままやめずに現在にまで至っている。
しかしここ数年、加齢とともに痰の絡みが多くなり、時折軽い肺炎を繰り返すようになった。そこで息子の強い希望により禁煙計画を進めることになった。


カンファレンスの目的

Cさんへの禁煙指導が決定しているが、担当看護師は、Cさんの想いが置き去りにされているように感じた。そこで本当にこのまま禁煙計画を進めるべきかと迷いを感じたため、カンファレンスを開くこととなった。



かな:いくら調子がよいといっても肺がんの既往があり、最近は痰の絡みも増えてきて、肺炎も起こすようになってきています。これは禁煙を勧めるのがベストだということは、十分すぎるくらいわかってはいるんです。でも、当のCさんは禁煙に対しては断固拒否をされています。


さき:肺がんになっても止められなかったタバコですものね。なかなか簡単には難しいでしょうね。


ほのか:そうですね。禁煙は主治医からの指示なのですか?


かな:いえ、主治医はCさんにとってタバコは唯一の楽しみだと理解しているので「肺炎の症状が落ち着くまでは、タバコはなるべく控えてください」としか言われていません。でもご家族は、これを機会に禁煙させたいという気持ちが強くなられたようで・・・。


りん:Cさんは禁煙について、どう考えているのか聞かれましたか?


かな:はい。Cさんとしては、もうこの歳になって、いまさら禁煙なんてしたところで寿命はたいして変わらない。だから好きにさせてほしいと言っています。歳とともにいろいろなことができなくなってきてつらいなか、タバコだけが唯一の楽しみなのだから、取り上げないでほしいと言われています。
確かに、昔は当たり前に動くことができて、大好きな庭いじりもできたのに、今は庭を眺める気力もなくなりがちのようです。そんな、やりきれない気持ちをタバコ向けることで解消しているのかもしれませんね。


さき:息子さんはどのように言われているのですか?


かな:こんな年齢だからこそ、リスクも高くなってきて、昔よりも肺炎になる確率も増えてきているのだからいい加減にやめてほしいと。
残りの人生で苦しい思いをしないで、楽な状態で暮らしてほしいと思うから止めてもらいたいのだと言われていました。確かにその通りなのですけれどね。


りん:どちらの言い分もよくわかるからこそ困りますね。ここが病院ならば、もちろん禁煙決定になるのですが、在宅はご本人の生活の場ですからね。
とりあえずはCさんと息子さんでもう一度、話し合っていただき、どうしても折り合いがつかない場合は、本数を減らすなどの妥協点を検討してもらうのがよいかもしれませんね。


そこで看護師から、家族に再度の話し合いと、本数を減らすなどの妥協策も検討してみてはどうかと提案したところ、家族からは怒りを含んだ調子で反発されてしまった。



かな:息子さんから、「父は肺が悪いんだから、禁煙を勧めるのが普通じゃないんですか?本数を減らすだけでは中途半端だと思います」と言われてしまいました。


さき:息子さんとしては、禁煙の計画に水を差されたような気持ちになったのかもしれませんね。かなさんは、何と答えたのですか?


かな:はい。息子さんのおっしゃる通り、たしかに禁煙するのが一番だとは思います。ただ他の利用者さんで、やはりタバコを止められない方がいらして、強引に禁煙を実行したら、元気がなくなってしまわれ、歩けていた方だったのに寝たきりになってしまわれたケースがあったのです。だから少し心配になったんです、というお話をしました。


りん:息子さんの反応はどうでしたか?


かな:黙ってしまわれました。もちろん「お父様を楽にしてあげたいという優しい気持ちはわかります」とお伝えし、息子さんのお話をしっかり傾聴したうえで、話したつもりだったのですが。


ほのか:結論は出たのですか?


かな:はい。一応その後、家族会議を開いてくださいまして、「タバコは1日5本まで」ということで、Cさんと息子さんとの間で決まったようです。


りん:では、しばらくは様子見ですね。


こうして、Cさんにとって1日5本までの節煙生活が開始された。
スタート当初は、体調が悪かったこともあり、1日5本の喫煙で我慢できていたCさんだったが、肺の状態が良くなってくると5本では物足りなくなり、隣に住む息子の嫁や私たち看護師にまで、タバコを買ってきてほしいと要求するようになってしまった。
この言動が息子に伝わり、Cさんと喧嘩を繰り返す日々となった。そこでタバコから気持ちを逸らすために、車椅子による外出などを提案してみたが、Cさんからは拒否があり、タバコから意識をそらすのは困難であった。



かな:Cさんはタバコを減らしたところ、確かに痰の絡み方も減り、楽になったと実感できたそうです。そこで自分でも減らそうと努力はしてみたようですが、頭ではわかっていても吸いたいという欲求が抑えられず、家の中でタバコを求めて探し回ったり、息子さんと顔を合わせれば喧嘩を繰り返すようになってしまいました。
私としては、どちらか一方の側に立つことは難しいため、Cさんの話を否定や肯定はせずに傾聴し、連絡ノートにも客観的な事実だけを記録するように心掛けました。

例えばこんなふうにです。
「肺の状態は本数を減らしたためか落ち着いてきています。しかし精神的にはイライラして食欲も落ちているようです。入浴の意欲は減り清拭が増えています。また、臥床時間が増え、下肢の筋力が低下してきています。なかなか難しいですね」などです。

すると数週間後、Cさん自身から、息子さんがタバコを許可してくれたと笑顔の報告がきたんです。それが良いことなのか悪いことなのかは、看護師という立場としては難しいところなのですが、本人の想いが尊重されたのかなとは思いました。


りん:それは再度、ご家族で話し合った結果なのでしょうか?


かな:そのようです。Cさんが息子さんに訴えたようです。
自分のことを思ってくれているのはよくわかるけれど、自分としてはどうしてもタバコをやめたくない。お互いを思っているのに顔を合わせるたびに喧嘩をするのはお互いがつらくなるだけだから、もう長くない人生、お願いだから好きにさせてほしいと懇願され、息子さんもついに折れたようです。

連絡ノートにも息子さんからのコメントで、「思っていたより中毒症状が強く、嫁ともども対応に疲れてしまいました。そこで元に戻しますが、また具合が悪くなったときには考えます」と書かれていました。


さき:そうでしたか。高齢になってからの禁煙はなかなか難しいですよね。入院したり施設に入ったり、何か環境が変わるきっかけがあれば続けやすいのかもしれませんが、特に独居の場合は、寂しさを紛らわすためかもしれませんしね。


かな:禁煙外来も考えましたが、本人に止める意思がないとそもそも難しいですし。


りん:訪問看護は、住み慣れた家で、その人がその人らしく過ごすにはどうしたらよいのかを、一緒に考えることだと思うのです。病院は病気を治すところであるのに対し、在宅は生活をする場です。黒か白に決めるばかりでなく、灰色があってもよいのではないでしょうか。


たーちん:そうですね。今回の事例に対しては、賛否両論の意見があるとは思いますが、私たちのステーションでは、1人1人、その方にとってどんな日常を過ごすことが一番幸せにつながるのか、これを念頭にケアを提供していきたいですね。


以前と同じようにタバコを吸えるようになったCさんだったが、今回の一件で息子の想いがよくわかったため、なるべく喫煙本数を減らしているとのこと。
現在は、2日に1箱のペースまで本数を減らすことができている。精神的も良く元気になり、食欲も戻り、肺の状態も落ち着いている。


次回は、ストーマ造設して退院したばかりの患者さんのケースについて紹介します。



ステーション「よつば」スタッフプロフィール

りん(所長)
訪問8年目(看護歴32年救急他)在宅ケアでの創意工夫の才能はピカイチ。勉強家で人情が厚く面倒見がよい。スーパーポジティブ思考の持ち主。
さき
訪問6年目(看護歴28年オペ室他)
神社仏閣巡りが趣味の歴女。またDIYも得意。面白き事もなき世をおもしろくが座右の銘。夢への妄想パワーは半端なし。
たーちん
訪問11年目(看護歴33年):スーパーグランマナースで超自由人。しかし可愛い笑顔で憎めない。利用者さんの為ならエンヤコラ。テニスから茶道までサラリとこなす我がステーションの親分的存在。
ほのか
訪問1年8カ月(看護歴15年小児科他)老若男女に好かれる天性の明るさの持ち主。癒し系キャラ。現在、スポーツクラブのZUMBA(ダンス)にハマっている。
かな(主任)
訪問5年目(看護歴16年。NICU他)思い込んだら一直線。やや天然ボケあり。訪問看護と猫と執筆活動(この原稿含)と音楽活動をこよなく愛している二児の母。