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【連載】山内先生の公開カンファランス

第40回 インスリン注射が必要となった患者さんの課題とゴール

解説 山内豊明

名古屋大学大学院医学系研究科 教授 医学博士/看護学博士/医師/看護師/保健師/米国・登録看護師、診療看護師

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入院しているときのことだけでなく、退院後の患者さんの生活までを想像して看護にあたることが大切です。今回は、患者さんを包括的に捉えると、どのようなことが課題となるのかを考えます。


【今月の事例】
一過性脳虚血発作で入院中の80歳代女性。認知症もなく、ADLは自立しています。入院中に糖尿病と診断され、インスリン注射が開始となりました。患者さんは、糖尿病性網膜症で全盲の長男(ADL自立)と2人暮らしで、自宅では長男のインスリン注射は患者さんが行っていました。そのほかに、遠方に住む次男がいます。
患者さんは人から注射をされるのは大丈夫ですが、自分にするのは怖いからできないという方でした。また、食べ物の好みがはっきりしており、喫食率にもムラがあるため、毎食前に血糖値を測定しなければならない状態でしたが、血糖測定も自分では怖くてできませんでした。

→こんなとき、あなたならどうする?


ナース専科コミュニティの会員に聞きました。回答者数は、83人。

みんなの回答

Q1.この事例で課題となるものはなんでしょうか。 Q2.Q1で挙げた課題を解決するために、あなたならどのようなアプローチをしますか。 ニックネーム
・血糖のコントロールができていない、・血糖測定やインスリンが自分に対しては施行できないということは、自身の病状を受け入れきれていない可能性がある、・本人のADLが自立しているため、訪問看護などの介入が難しい。また、患者さんを支援できる家族は遠方で同居家族は全盲のため、生活が変化したときに再構築が難しい ・患者さんの病状理解を深め、血糖コントロールできるよう、食事指導を再々行う、・模型に血糖測定やインスリンの練習をする、・血糖測定等練https://nursepress.jp/editor/posts/226348/edit#習するときは、1項目ずつ患者さんがするようにして、徐々に患者さんがする率を増やしていく(初めは針数などのセットだけ、測定する指の決定、消毒、測定器を当てるなど)、・患者さんが今自分でできることは何か一緒に考える(否定ではなく肯定できることを探す)、・もしくは、長男と一緒に手技の再取得を目指す(例えば、準備等は患者さん、血糖測定やインスリンの針を刺すのは長男など) ゆいさん
代わりに打ってくれる人がいない。患者さん自身がインスリンをなぜ必要となっているのか病状を理解しているかわからない。高齢者でインスリン導入は本当に必要? 医師に絶対にインスリンが必要か再度確認する。今導入しても継続できるか不安。途中で中断してさらに悪化させてしまう可能性も高い。内服薬でコントロールして外来受診時に血糖測定や、採血でHbA1Cを診ていくのはどうか? Yumejiさん
・インスリン注射や血糖測定を自己で行うことに恐怖心がある ・インスリン注射ができない恐れがある。患者さんが入院中に長男がインスリン注射が継続できない可能性がある ・食事療法ができない可能性があり、血糖コントロールが図れない恐れがある ・インスリン注射は皮下注射で、針は蚊の足の太さと変わらないため痛みが少ないことを説明する ・インスリン注射と血糖測定がなぜ自己でできそうにないか、理由を尋ねる ・入院中の長男のインスリン注射はどうしているのかを確認する こりんさん
自分ではインスリン注射ができないこと、長男が視力障害。近くに、助けてくれる親戚、家族がいない 訪問看護入れる。毎日クリニックに通う。治療法を検討してもらう かめさん
患者さん入院中の長男の血糖コントロール。自己血糖測定とインスリン注射 全盲の長男の社会資源。障害者手帳確認、訪問看護など利用可能か、MSWにも情報提供し相談。血糖測定とインスリン注射の恐怖心を取り除いていく。何が恐怖なのか、痛みなのか、未経験だからなのかをアセスメントする。はじめは看護師が実施し、恐怖の原因が減ってくれば、自己実施に切り替える あみ、さん
食事療法とインスリンの自己注射。また、家族の協力が得られえないこと 食事療法を行うために、栄養指導を受けてもらう。また自己注射に関しては、手技は問題ないと思われるので、徐々に慣らしながら、自分注射できるように見守る。次男の協力を得る CITYさん
患者さん自身のインスリン注射と食事管理、また患者さん入院中の長男のインスリン注射をどうするのかという課題 患者さん本人に対しての食事指導と、訪問看護師の導入 りんさん
退院後、血糖のコントロールが困難である。食事の習慣を80代で変更するのは難しい。長男が自分でインスリンができない。家族のサポートが弱い 現状や今度の危険性を理解してもらい、自己注射ができるようにする。食事は譲れるところを見付けて、少しずつ変更してもらう まなさん
血糖コントロール、自己測定、自己注射、息子の注射 在宅に戻る為に必要な事、優先順位を付け考える。自己でどれくらいまでできるかの確認。介護保険サービスも含め検討 ちょこさん
退院後の自宅での生活における血糖測定とインスリン注射をどのように行うか。脳虚血疾患で後遺症が残った場合の、同居する長男のインスリン注射を今までどお女性が行えるのか? 自身への血糖測定とインシュリン注射を行えるように、訓練する。脳虚血疾患の後遺症が残らないよう、リハビリを行う にこさん

Q3.患者さんにアプローチする際に、どのような状態になることをゴールとしますか。

●最もよいのは、血糖コントロールができて自分でインスリン管理ができること。もしくは、血糖コントロールがついて、インスリン注射ではなく内服でコントロールできること(ゆいさん)

●血糖は高め安定で、腎機能悪化が進行していなければ外来でフォローしていく(Yumejiさん)

●自己で血糖測定とインスリン注射ができる。食事を3食、均等に食べられること(こりんさん)

●厳密なコントロール、できないので、健康を害さない程度に適度なコントロール(かめさん)

●血糖コントロールができる(あみ、さん)

●食事のコントロールができ、インスリンを自分に打つことができるようになる(CITYさん)

●社会資源を活用しながら長男と自宅で生活できること(ニョニョさん)

●自己で血糖測定ができてから、インスリン注射もできる。できなかった場合は、医師と相談し内服に切り替えてもらう(はるさん)

●自分で栄養管理出来るようになることと、それを訪問看護師にチェックしてもらう体制を整える(りんさん)


【事例つづき】
管理栄養士から食事指導がありましたが、しっかりしている方なので「わかってはいるけ
ど、もう高齢だし好きなようにさせてほしい。間食については自制するが、まったく食べな
いということはできない」と言われました。


Q4.患者さんに事例のつづきのように言われた場合、あなたなら、どう対応しますか。

●間食については自制するということで、患者さんとしては最大限の譲歩だと思われるため、無理に指導はしない(かけるさん)

●根気よく、食事療法の必要性について説明する。また、次男からも説得してもらう。患者本人が、血糖コントロールが悪ければ、長男のインシュリンの注射もできなくなる可能性について、話をする(CITYさん)

●食事は本人のQOLも踏まえれば、やや緩い制限でもいいと思う。その代わり血糖測定やインスリン注射はなんとかがんばってもらう。食事の制限を緩めるか血糖・インスリンをがんばるか、食事制限をきっちりして血糖・インスリンを回数を減らす(持続型メインにする)(ゆいさん)

●医師にどれぐらい間食していいかきき、妥協点を探る(あわさん)

●高齢者であり、いままでの生活スタイルをいきなり変えることは難しい。どこなら変えられるかを一緒に考えていく。神経症状等気をつけてほしいことを説明していく(Yumeji さん)

●間食を急にやめるのは難しいため、回数を減らしてみてはどうかと提案する。間食をやめるのは難しいという思いを傾聴・共感する。食事量や内容の差が大きいと、血糖変動しやすく身体もつらく感じてしまうことを説明する(こりんさん)

●我慢する必要なないことをベースにして、患者さんの言う「すきなように」とはどのような状態や事柄なのかを聞き出すように努める(ハニハニさん)

●患者さんだけであれば、自由にしてもいいと思うが、長男も糖尿病のため、一緒に食事療法をしたほうが、長男のためにもなるし、食事を自由にすると、いつまでたっても、インシュリン注射は、中止にならないと思うということを伝える(ひなこさん)

●無理に制限することは強制しないが、起こりうる合併症など説明する。もし少しでも変だなと思ったらすぐに外来受診することを伝える(ぴーひゃらさん)

●患者さんの意思を尊重しつつ、血糖コントロールができないと、今後どのようなことが起こるのか説明し、長男のサポートもできなくなることを合わせて伝えていく(44さん)

●息子のためにも、コントロールすることの必要性を説明し、考えてもらう(ちょこさん)

山内先生の解説

顕在化している課題と潜在している課題

 まずは、事例をみながら、どこに課題があるかを考えていきましょう。元々の疾患は、一過性脳虚血発作です。認知症もなくADLも自立しているとのことですが、この疾患を発症した患者さんは、脳梗塞を発症する可能性もあります。一過性脳虚血発作の段階で治療を行っているため、脳梗塞発症のリスクは低下しているかもしれませんが、まったくゼロというわけではありません。ですから、今回の患者さんは、そういったリスクを抱えているといえます。

 次に、入院したことで発覚した糖尿病についてです。患者さんは血糖コントロールの必要性については理解していると思われますが、自己注射ができない、間食を完全に止めることができないといった問題があります。

 さらに、自宅には、ADLが自立しているとはいえ、糖尿病で全盲の息子がおり、患者さんが血糖コントロールを担っている状況です。

 まず、顕在化している課題を考えましょう。多くの人が書いてくれているように、怖くて自分で針が刺せない(自己注射、血糖測定ができない)、間食をしてしまうという血糖コントロールに関することが挙げられます。そして、潜在していた課題もみえてきました。現在は、認知症もなくADLも自立していますが、患者さんは80歳代と高齢です。脳梗塞を発症するリスクも少なからずありますし、今後体調を崩さないとは言い切れない状況です。そんな中で、長男の血糖コントロールも担っています。退院しても当分はこのまま過ごせるでしょう。ですが、いつこの状況が崩れるかわかりません。今回の入院を今後のことを考えるきっかけとして、遠方にいる次男にも来てもらい、今後どうするのか、何かあったときに地域で頼れるのはどこなのか、といったことを確認しておくとよいのではないでしょうか。

課題を捉えるときは視野を広く包括的に考える

 Q1は、この事例の課題を挙げてもらいました。ここでは、視野を広く患者さんを包括的に捉えて、前述したようなことが挙げられるとよいですね。事例のなかの看護師さんは、病棟勤務ですから、自分が主にかかわるとしたら、患者さんが自己注射をできるようにすること、血糖コントロールができるようにすることになるでしょう。そこが課題となることは間違いありませんが、自分が主にかかわる部分だけではなく、その前後にも目を向けられるとよいですね。

 Q2と3は、Q1の回答を踏まえて考えていくことになりますね。病棟で患者さんとかかわるのですから、Q2と3では、血糖コントロールのことがメインとなっていてもおかしくありません。回答してくれた内容をみてみると、患者さんの「怖い」という気持ちに寄り添った方法を考えてくれています。このあたりは、みなさんさすがですね。

 最後に、「事例つづき」に書かれている間食を止められない、という点についても考えてみましょう。糖尿病患者さんの血糖コントロールは非常に重要であり、良好なコントロールを行うためには食事制限も欠かせない要素です。ただ、患者さんが80歳代であるということを考えると、必ずしも徹底する必要はなく、どの程度制限してもらうとよいのかという、ちょうどよい加減を考えることが必要でしょう。


【事例つづき】
遠方に住む次男に相談しましたが、金銭的理由から母と長男を施設に入れることはできないし、近隣にサポートできる親戚もいないとのこと。何度も主治医へかけあって、患者さんのインスリンを内服薬に切り替えてもらい、自宅退院となりました。
認知症もなくADL も自立しているため、介護認定は受けていません。退院後が心配です。


入院を今後のことを考えるきっかけと捉える

 インスリンの自己注射ができない、という問題をクリアして退院していきましたが、事例提供者は「心配です」と言っています。今回入院したことで、潜在している問題も見えてきました。事例提供者もこういったことを含めて心配に思っているのでしょう。前述しましたが、この機会に町の相談室や、地域で相談できるようなところにつないでおくとよいのではないでしょうか。そうすることで、今後何かあった際に、すぐに対応できるようになるかもしれません。

 患者さんをみるときは、病棟で自分が手を出せる部分だけでなく、その人全体や生活に考えを広げるようにできるとよいですね。



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