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【連載】山内先生の公開カンファランス

第130回 【解説編】冠動脈造影で入院している80歳代の女性患者さん

解説 山内豊明

名古屋大学大学院医学系研究科 教授 医学博士/看護学博士/米国・登録看護師、診療看護師/保健師

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今月の事例
[ほんとけーきさんから提供された事例]
心不全の既往もあり、治療薬も服用中でした。入院時や冠動脈造影前後の血圧は100~120mmHgでした。翌日、血圧が80~90mmHg台と低く、また治療前から治療翌日までに輸液を2000mL入れていますが、腎機能がやや悪いからか、尿量は少なめでした。
体重を測定すると入院時より1kg程度増加しているものの、本人には特に自覚症状はなく、血圧以外に心不全の症状はないため、主治医に報告するか、もう少し経過観察したほうがよいか判断に迷いました。


心機能と腎機能の低下が互いに相関し合っている

 質問を見ながら、事例について考えていきましょう。Q1では、この患者さんのリスクについて聞きました。事例を見てみると、もともと心不全の既往があり、腎機能がやや悪いという情報があります。患者さんに冠動脈造影を行っていますが、造影剤の副作用に腎不全が挙げられます。ですから、患者さんの腎機能に負担がかかっているかもしれない、ということを頭の片隅に入れておいてください。

 さらに、患者さんの状態について見てみると、造影剤使用後に2000mLの輸液を行っているのにもかかわらず、尿量が少なく、血圧が低下しているとあります。これらから次のようなことが考えられます。

心不全の既往 → 造影剤を使用 → 腎機能に負担 → 輸液を開始 → 腎機能低下 → 尿量低下 → 循環血液量増加 → 心機能に負担 → 心拍出量が低下 → 腎臓への血流量低下 → 尿量が低下 → 循環血液量の増加(以下、繰り返し)

 今回のことは上記のように、心不全と腎機能の低下が絡み合って起こったことと考えられます。Q1の回答では、心機能と腎機能の低下(心不全・腎不全)を挙げられるとよいですし、実際両方を挙げている人が多くいました。どちらか1つしか書いていない人でも、Q2以降の回答を見ると頭の中では両方を想定しているのだろう、というのがわかる人がほとんどでした。

 アセスメントを行う際、その後のケアを考えるためには、原因はなるべく少なく絞ったほうがよいというのはいうまでもありません。何度かこの連載でも取り上げましたが、オッカムの剃刀という考え方があります。オッカムの剃刀とは、「ある事柄を説明するためには、必要以上に多くを仮定するべきではない」という考え方で、フィジカルアセスメントに当てはめると、できるだけ原因が少なくなるように考えることになります。ただ、必ずしも病態と症状と原因が1対1対1になるとは限りません。ですから、間違えないでほしいのは、“できるだけ少なく”であり、“1つにする”ということではありません。

 ちなみに、複数のことが関係して起こっているのではなく、偶発的に起こっていると考えることをヒッカムの格言といいます。こちらの場合は、患者さんの症状を解消するためには、1つの原因を取り除くのではなく、関係しないいくつかの原因を取り除く必要がある、ということになります。

カンファランスについてはいろいろな考え方がある

 さて、今回の事例ですが、みなさんは情報が少ない、と思いつつも、その中で考えられることはなにかを一生懸命考えて、回答してくれたのだろうと思います。カンファランスというと、必要な情報がすべてそろっていて、そこでどう対応するかを考える場、というイメージをもっている人もいるかもしれません。ですが、カンファランスは「ここまでしかわからない。情報が足りないかもしれないけど、他の人がどう考えるかを聞いてみたい」という段階で、他のスタッフと共有し、さまざまな考え方に触れる機会であってもよいのではないでしょうか。

 フィジカルアセスメントは目的をもって行うものです。カンファランスにかけるために、やみくもに情報を収集していては、時間を無駄に使ってしまうことになりかねません。しかも、その間に患者さんの状態が悪くなることも考えられます。もちろん、病棟や施設によってカンファランスの定義は違うでしょう。それでも、カンファランスはどのようなことを追加で情報収集すればよいのか、仮説・検証をする場であってもよいと思います。みなさんにはうまく活用してほしいですね。


事例つづき
結局、主治医に報告し、輸液と利尿剤を追加しました。さらに、尿量の計測、体重測定を開始することとなりました。



公開カンファランスでは、事例を募集しています。
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