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【連載】山内先生の公開カンファランス

第132回 【解説編】胸部大動脈瘤の手術のために入院してきた70歳代の患者さん

解説 山内豊明

名古屋大学大学院医学系研究科 教授 医学博士/看護学博士/米国・登録看護師、診療看護師/保健師

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今月の事例
[Hさんから提供さんれた事例]
胸部大動脈瘤の手術後、HCUに移りましたが、もともと結核の既往があることから呼吸機能がよくなかったことと、夜間に自己排痰が不十分で、SpO2が低下することから、人工呼吸器を早期に離脱することができませんでした。このような状況から挿管期間が長期になることが予測されたため、気管切開を行いました。
その後、SpO2は特に低い数値を示さず、その他のバイタルサインにも異常がないことから、日中だけ人工呼吸器を外したところ、患者さんが息苦しさを訴え興奮してしまい、その結果、脈拍が上昇し、SpO2の低下が見られました。そのため、実際の呼吸評価が難しくなり、離脱が進みませんでした。
→こんなとき、あなたならどうする?


かかわりがなくても知っておきたい開始基準

 では、みなさんの回答と事例をみていきましょう。Q 1は人工呼吸器の離脱の条件について聞きました。この質問は、普段人工呼吸器に触れていないと難しかったかもしれませんね。回答に看護的な視点や配慮がみえるかもしれないと思い、聞いてみたいと思いました。

 質問がどちらとも取れる聞き方をしてしまったせいかもしれませんが、みなさんの回答から2つの傾向がみられました。「離脱を進める」という部分をどういう意味と捉えたかで回答が分かれたようでした。「離脱を進める=離脱を開始する」と捉えた場合と、「離脱を進める=開始した離脱をスムーズに最後まで進める」と捉えた場合とでは答え方が違っていました。また、モードの設定など詳細に書いている人は、人工呼吸器の離脱に普段からかかわっているのだろう、と読み取れました。

 人工呼吸器の離脱に関しては、「人工呼吸器離脱に関する3学会合同プロトコル」というものがあり、開始基準や中止基準などが記載されています。ただ、現状は病院独自で決めたものがあるケースもあり、統一されていないことも多くあります。また、一般病棟に勤務していると人工呼吸器の離脱だけではなく、人工呼吸器そのものにかかわる機会がほとんどない、という人も多いでしょう。

 そうはいっても今後はICU在室日数が減り、一般病棟に人工呼吸器を着けたまま転棟してくることが増えると考えられます。さらに、実際に自分が実施するのではなくても、離脱を開始した患者さんがどういう状態にあるのか、といったことを知っておくことは必要です。例えば、自発呼吸があることは、人工呼吸器の離脱を行うための必要条件ではありますが、必要十分条件ではありません。つまり、自発呼吸があればすぐに外せるというわけでもないのです。離脱の実施については、看護師が決定するものではありませんが、自施設では、どのようになっているのかを確認しておくことは大切です。今回のように術後の患者さんで人工呼吸器を着けて転棟してきたときは、自発呼吸の有無だけでなく、アラームが鳴ることがあったかどうか等を含めた呼吸のアセスメントを行いますが、そのとき、離脱の条件を頭の片隅に入っているとよいでしょう。

離脱時にできることを考える

 次にQ2について考えてみましょう。人工呼吸器の離脱は基本的に医師が進める、というところが多いでしょうから、看護師がかかわることはほとんどないかもしれません。ですが、そのような場合でも、看護師として何ができるのかを考えてケアをしてほしいと思います。

 この患者さんの状況を考えてみましょう。まず、日中だけでも人工呼吸器を外すことを試みていますから、状態は安定していると考えられますし、Q 1でみなさんが必要条件として挙げてくれたように、自発呼吸もあるのでしょう。さらに、離脱時に息苦しさを訴え、興奮していることから、この患者さんは意識がある状態で、離脱を進めているということもわかります。私は、ここがキーとなると感じました。意識がある状態で、今まで呼吸を補助してくれていた人工呼吸器を取るということで、「呼吸が止まってしまうのではないか」と患者さんは相当な恐怖や不安を感じているはずです。ですから、離脱に関して直接できることはほとんどないとしても、患
者さんの恐怖や不安に寄り添い、軽減するための働きかけを看護師にはしてほしいと思います。

 こういったケースでは、離脱の実施の補助や観察など技術的なことをサポートしていくことも大切ではありますが、精神的なケアといった視点を、看護師であればなくさないでほしいと思いました。

どう説明すれば患者さんが安心するのか

 Q3はQ2で挙げてもらったものをうまく進めるためにどう工夫するかを聞いています。うまく進まない原因の1つに患者さんの不安があることは間違いないでしょう。精神的ケアに関して書いている人が少なかったのですが、前述したとおり、息ができない、というのはとても恐怖や不安を感じることです。こういった症例を何件も体験していると「大丈夫」と思うかもしれませんが、本人にとってはそうではありません。しつこいほどに説明する姿勢や患者さんへの丁寧なフォローが必要となるでしょう。この部分は工夫できるところです。どういう説明をすれば、患者さんが安心できるのかを考えてみてください。


事例つづき
もともと数値に異常がないときの呼吸困難の訴えは、メンタル的なものと考えられたため、数値をみせて大丈夫なことを伝えたり、散歩などで気持ちを紛らわすようにしました。その後、人工呼吸器を外すことができ、痰を吸引するだけでよくなったため、一般病棟へ転棟となりました。


客観的なデータや根拠で患者さんの不安を軽減

 事例を出してくれた人がいる病棟は、情報共有がしっかりとできているのでしょうね。患者さんが、今どういう状態なのか、といったことが把握できています。患者さんの身体所見は悪くないのであれば、きっと精神的なものだろう、ということに思い至っています。
 これに対してのケアとして、客観的な数値をみせて安心してもらったり、散歩で気を紛らわせたりしています。とてもよい対応だと思いました。このように客観的なデータをみせて大丈夫だと伝えること、さらに、何かあったらすぐに対応できるよう準備していることなどを伝えておくとよいでしょう。

 今回の事例は、身体的な離脱の条件を整えるだけでなく、精神的ケアが離脱のカギを握っているといえます。繰り返しになりますが、離脱のプロトコルを知っておくことはもちろん大切なのですが、私たちは看護師ですから、不安に寄り添う、とう気持ちはなくしてほしくないと思います。



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