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患者さんの生活に応じたてんかん治療

編集 ナースプレス編集部

Webサイト「ナースプレス」編集部

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Gakkai report

10月4日、「患者さんの生活に応じたてんかん治療」をテーマに、てんかんプレスセミナーが行われました。演者 渡辺雅子先生は、新宿神経クリニックの院長でてんかんの専門医です。日々の患者さんとのかかわりの中で、てんかんという疾患がどういうものなのか、十分に知られていないと感じているそうです。そこで、今回のセミナーでは、てんかんの基礎知識、高齢者のてんかん、妊娠可能女性のてんかん、てんかん医療連携について解説しました。その様子をレポートします。


てんかんについての正しい知識を知ってほしい!

てんかんとは、大脳の慢性疾患であり脳内の神経細胞が過剰に興奮することによって起こります。子供特有の疾患などと思われていることが多いですが、遺伝性ではなく、0〜100歳の全ての年齢層で発症し、年齢や性別は関係ないということがわかっています。

現在、てんかんに罹患している人は100万人ともいわれており、脳の神経疾患では最も患者数が多い疾患です。一方、パーキンソン病は、よく聞かれる疾患ではありますが中年以降に発症し、てんかんと比較すると患者数はかなり少なく、知名度とは比例していません。

また、てんかん専門医は都市部を除くと各県に数人ずつという少なさで、てんかん学会員は半数近くが小児科医のため、成人に対しての診療が不十分であるという状況です。そのため、小児以外の年代の患者さんが的確な診断や治療を受けられていないケースも多々あり、てんかんの治療は、専門家以外の協力が必要不可欠であるということを強調されました。

増えている高齢者てんかん

近年、高齢者てんかんの割合が増えてきています。高齢者てんかんの主な原因は以下になります。

1位:不明
2位:脳血管障害
3位:認知症、脳萎縮
出典:Hauser WA,et al:Incidence of epilepsy and unprovoked seizures in Rochester, Minnesota: 1935-1984.Epilepsia 1993;34(3):453-68

多くは原因不明とされていましたが、研究により若年者は海馬、高齢者は扁桃体に起因する割合が多いということがわかってきました。来年のてんかん学会で、扁桃体肥大とてんかんの関係についてのシンポジウムを行うことを提案しているそうです。

痙攣しないてんかんもある

一般的に、てんかんの症状というと全身の痙攣を想像することが多いのではないでしょうか。しかし、高齢者てんかんの多くは意識障害を伴った非けいれん性発作であり、症状も、ぼーっとしている・口をもぐもぐと動かす・辻褄の合わない会話など、一見するとてんかん発作だということがわかりづらいのが特徴です。このため、これまでは家族がある日突然変わってしまっても、原因も対処法もわからない、認知症と間違って診断されてしまう、ということが起こってしまっていました。また、記憶の一部分が抜けるなど認知症様症状であることで、より発見が難しくなっているといいます。脳波検査では1回で見つからないこともありますが、短時間でも一定期間睡眠時の脳波を取ることで、発見する確率が上がります。初期発作以降に2回目の発作が起きる確率が高いのも特徴です。

てんかんの診断名ではなく、発作の型あるいは状態を指すものとして、NCSE(非けいれんせい性てんかん重積状態)という言葉があります。著しく反応が低下し、カタトニア様(両上肢の屈曲・挙上)の姿勢がみられるなど、精神症状が悪化したような症状を呈し、これが数時間、長ければ何日も続きます。

こういった症状はてんかんに罹患していない人でも身体の状態によって陥る可能性があり、誘因となるものは、腫瘍、脳血管疾患などの器質的なものから、代謝障害、感染症、薬物・アルコール離脱などさまざまです。例えば、術後などICUで管理されている状態の患者さんは多くがこの状態にあるといわれています。この状態は他の疾患による症状とも考えられ、脳波などの検査を行わないと鑑別が難しいのです。

高齢者てんかんの薬物療法

てんかんに対して薬物治療を行う際は、年代によって使用する量・種類が変わります。特に、高齢者では副作用が出やすいため、低用量から開始します。
高齢者てんかんでは、下記に注意しながら薬物療法を行っていきます。

・部分発作が多いので、部分発作に有効な薬剤を使用
・合併症に対し薬剤を使用している患者さんには、相互作用を考慮し薬剤を選択
・骨折のリスクを減らすため、骨代謝への影響を考慮
・認知機能への影響の少ない薬剤を使用

妊娠とてんかん

妊娠において、てんかん患者さんはどのような点に気をつければよいのでしょうか。通常の妊娠においても、葉酸が催奇形率に影響していることは知られています。カナダでは、1998年より小麦粉やパスタなどの穀物類への葉酸強化を義務づけたことにより、その後の先天性心疾患の有病率が低下したという研究結果が出ています1)。抗てんかん薬を飲むと体内の葉酸が低下してしまうため米国予防医学専門委員会(The U.S. Preventive Services Task Force、以下USPSTF)では、妊娠の可能性がある女性は、妊娠前から0.4~0.8 mg(400~800μg)の葉酸を含む1日分の栄養を補助する食品を服用することを推奨しています。葉酸と催奇形率の関連が知られていないころは、抗てんかん薬による催奇形は問題となっていました。しかし、催奇形性の少ない抗てんかん薬もあるため適切な薬を選択し葉酸を補充すれば、てんかん患者さんでも問題なく妊娠・出産ができるのです。

おわりに

てんかんは、発症率の高い疾患であるにもかかわらず、正しい理解は十分には進んでいません。特に女性において問題となることですが、抗てんかん薬を使用していると脱毛を断られることが多いそうです。主治医による診断書がある場合であっても同様です。てんかんが、施術によって発現することはありません。渡辺先生は、誤解と偏見のために苦しんでいる人がまだまだ多いといい、てんかん患者さんであっても当たり前のことを当たり前にできる社会でないといけない、と結びました。

てんかん関連の啓発運動

●パープルデイ:毎年3月26日に紫のものを身につけ、てんかんについて知ってもらうという運動。
●てんかんをめぐるアート展:日本てんかん学会学術集会が主催する、てんかんがある人とそれを支える人の展示会。
●ヘルプマーク:みえない障害があり援助や支援を求める人が持つカードで、東京都をはじめ、いくつかの県で実施されている。
●妊娠と薬情報センター:てんかんについて疑問等がある場合は、セカンドオピニオン等でも使用できる。全国47都道府県すべてに拠点病院が設置されている。


引用文献
1) Liu S,et al:Effect of Folic Acid Food Fortification in Canada on Congenital Heart Disease Subtypes.circulation 2016;134(9):647-55.