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小児医療基礎講座「こどもの薬・こどもに多い感染症・こどもの薬剤耐性対策」について

解説 具 芳明

国立国際医療研究センター病院 AMR臨床リファレンスセンター 情報・教育支援室長

解説 松永展明

国立国際医療研究センター病院 AMR臨床リファレンスセンター 主任研究員

解説 藤友結実子

国立国際医療研究センター病院 AMR臨床リファレンスセンター 主任研究員

編集 ナースプレス編集部

Webサイト「ナースプレス」編集部

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Gakkai report

2017年9月23日(土)、一般社団法人知ろう小児医療守ろう子ども達の会による「第1回小児医療基礎講座」が開催されました。その講座の1つとして、小児の薬の基礎知識や薬剤耐性対策など小児の薬をテーマに、国立国際医療研究センター病院AMR臨床リファレンスセンターに所属する医師3名による講義が行われました。AMR (Antimicrobial Resistance)とは、薬剤耐性のこと。薬剤耐性菌の増加によって、さまざまな医療が困難になることから、昨今、非常に大きな問題になっており、日本政府では薬剤耐性(AMR)アクションプランを2016年4月に発表、その対策を推進する機関として、同センターが17年4月に設立されました。
ここでは、同講義の様子をレポートします。


『小児の薬の基礎知識』松永展明先生

最初に小児科医師の松永展明さんが「小児の薬の基礎知識」の講義を行いました。松永さんはまず「小児と成人では、どちらが薬の量が多いか」と会場に問いかけます。総量はたしかに成人のほうが多いものの、小児の場合は体重によって投与量を算出するため、体重あたりの量は成人よりも多くなると、私たちの認識の落とし穴を指摘します。その理由として、体内の水分量が成人は60%であるのに対し、小児は65~70%と多く薬の成分が薄まりやすいこと、また薬剤は肝臓や腎臓で代謝されますが、それら臓器の機能が成人とあまり変わらず、排泄量も多いことなどを挙げました。そのため、成人と同じ効果を出すには、体重あたりの量は小児のほうが多くなると松永さんは説明します。

そうした小児の薬物動態の特性を踏まえながら、松永さんは「“飲んでいますか?”“飲めていますか?”ということは小児にとって、とても大切です」と服薬アドヒアランスの重要性を話します。抗てんかん薬を処方していたにもかかわらず、発作を繰り返していたケースでは親が服用させていなかったという例を挙げ、医療従事者がしっかりと服用したかどうかの確認をする重要性を強調しました。また、服薬アドヒアランスを向上させるために役立つ知識も紹介しました。

 例えば、顆粒剤や散剤が飲みにくい場合は、シロップやドライシロップを処方する、あるいは濃度の高い製剤にして少量にする、シロップが飲めない場合は少量の水を加えて固めて頬の内側に入れる、形状を問わずゼリーやコンデンスミルク、アイス、はちみつ(一歳未満はボツリヌス菌の影響がるため厳禁)と一緒に服用させるなどがあります。しかし、何よりも大切なのは「保護者のリラックス」と松永さんは話します。「“薬を飲ませなきゃ”と身構えていると、子どもは敏感に察知します。子どもの注意がそれているときに口に入れてもいいし、アイスと一緒でもいい。それも指導のポイントだと思います」

 逆に、美味しいからと勝手に子どもがシロップを飲んでしまう例を紹介し、その場合は、ドライシロップとシロップを別に処方することで誤飲を防ぐことができると松永さんはアドバイスします。
 さらに、保護者から多い質問についても解説しました。小児でよくあるのが服用後の嘔吐です。服用後30分後の嘔吐、あるいは吐物にそのまま薬剤が残っている場合は再投与が可能で、再投与の際は少量の水を投与し嘔吐しないことを確認してから服用することが重要だと話します。嘔吐が薬剤の副作用の場合もあり、医療従事者はその見極めも大事だと加えました。

服用後にすぐに嘔吐した場合の対応
30分以内の嘔吐であれば再投与は可能
吐物にそのまま薬剤が残っている場合は再投与可能
少量の水分を投与し、嘔吐しないことを確認してから服用
嘔吐が副作用の場合もある

 また、抗てんかん薬、内分泌疾患治療薬、抗不整脈薬、免疫抑制剤など、治療や日常生活を送るのに欠かせない薬は、薬が飲めなかった場合、医療機関に対応を確認すべきだと話します。他にも、受診時に薬剤に関して医師に聞くべきこと、重篤な感染症の症状のみ方など、保護者・保育者への指導に役立つポイントを紹介し、講義を終えました。

『小児の感染症』具 芳明 先生

 次に、具芳明さんが「小児の感染症とは」というテーマで講義を行いました。そもそも、感染症とは病原性の微生物が人の体内に侵入して引き起こす疾患であり、病原性微生物には大きく分けて細菌、ウイルス、真菌、寄生虫の4つがあります。中でも頻度が多いのがウイルス、次いで細菌であることを示しました。また、“感染=発症”ではなく、私たちがもっている免疫や常在菌と病原性微生物とのバランスが崩れ、病原性微生物が増殖したときに発症に至るという感染症の基本を解説しました。

 そして、具さんは「感染症は“どんな人に”“どの臓器に問題が起きているか”“どの微生物が原因か”の三角形で診る必要があります」と、感染症の捉え方について、小児がよくかかる感染症である感冒、いわゆる風邪を例に解説を進めました。風邪といっても、人によってイメージはさまざまで、患者さんの“風邪っぽいんですが”の訴えは要注意だと指摘します。そこでまずは、咽頭痛、鼻汁、咳の症状のうち、どの症状が強いか、つまりどこに問題が起きているかを整理することが重要だと言います。そもそも咽頭痛、鼻汁、咳の症状がないものは風邪ではない可能性があり注意が必要だとも指摘しました。

 咽頭痛など咽頭症状が強ければ急性咽頭炎、咳などの下気道症状が強ければ急性気管支炎、鼻汁・くしゃみなどの鼻症状が強ければ急性鼻副鼻腔炎の可能性が高くなります。3つの症状が同じくらいであれば感冒である可能性が高く、原因となるのはウイルスが多いと説明します。ここで具さんは、「ウイルスには抗菌薬は効果がありません」と感冒に対し抗菌薬を処方するという考え方が誤りであることを示しました。

 急性咽頭炎は、咽頭痛や嚥下痛が主症状であり、これもウイルスが原因であることが多いものの、A群β溶連菌が原因のこともあり、その際は抗菌薬治療の対象となります。急性鼻副鼻腔炎は、感冒に合併することが多く、ウイルスやアレルギーが原因です。稀に遷延性、重症化する例があり、その場合は細菌性感染が疑われるため、抗菌薬投与を考慮します。他に急性中耳炎も小児の耳管の構造上、小児に多い感冒の合併症であり、軽症であれば経過観察、中等症や重症の場合は抗菌薬投与を考慮します。
「問題を起こしている場所は症状でわかります。すると、おのずと病原菌が推定でき、対処方法や治療の見通しもわかる」と具さんは強調します。

 さらに小児がかかりやすい感染症として、インフルエンザを挙げ、抗インフルエンザ薬や受診方法のアドバイスを紹介しました。

『抗菌薬について知ってほしいこと』藤友結実子先生

 最後の講義は、藤友結実子さんによる「抗菌薬について知ってほしいこと」です。藤友さんはまず、抗菌薬と抗生物質・抗生剤がほぼ同義であることを示し、これらは細菌に対する薬であることを強調しました。また、細菌は単体で増えていくことができる複雑な構造であるのに対し、ウイルスは人に感染しないと増えることができない単純な構造であると説明し、同じ病原性微生物であっても細菌とウイルスは全く違うという認識をもつよう促しました。

抗菌薬
細菌を壊したり、増殖を抑えたりする薬で、人工的に合成されたもの
抗生物質・抗生剤
微生物が作った、他の微生物の発育を阻害する物質のこと

 次に感冒の主な原因ウイルスについて紹介し、それぞれに流行シーズンがあると話します。続けて、藤友さんは「繰り返しになりますが、ウイルスが原因の感冒には、抗菌薬は効きません。中途半端に抗菌薬を使用すると、薬剤耐性菌を作り出すことにつながります」と、不適切な抗菌薬の使用が薬剤耐性菌を作る原因の一つであると訴えました。

 また現在、世界中で薬剤耐性菌が原因で亡くなっている人は、約70万人(2013年)、このまま何の対策も行わずにいると、2050年に1,000万人になるといわれていると薬剤耐性菌が重要な問題であることを指摘しました。

 不適切な抗菌薬の使用がなぜ薬剤耐性菌を作り出すのかについて、“大まかに”と前置きをし、藤友さんはこう説明します。抗菌薬に対し、細菌は自分を守ろうと細胞壁を厚くしたり、薬剤を排除しようとしたりなど変異します。また、抗菌薬は病原菌だけではなく常在菌も殺菌するため、いろいろな種類の常在菌がいることによって守られていた体内のバランスが崩れます。すると、常在菌の中にはもともと薬剤耐性をもっている菌もあり、そうした菌も増殖します。こうした現象が必ず起きるわけではありませんが、不適切な抗菌薬の使用によってその機会が増えてしまうのです。

 代表的な薬剤耐性菌として、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌、ペニシリン耐性肺炎球菌を挙げ、身近に耐性菌が多いことを藤友さんは示唆します。さらに、薬剤耐性菌がなぜ問題となるかについては、抗菌薬が効かないため感染症が治りにくくなる、特に抗がん剤療法などで免疫が落ちている患者さんではそのリスクが大きく、また、手術に際し予防的に抗菌薬を使用しても効果がなくなるなど、さまざまな医療が困難になってくると説明します。

 この薬剤耐性菌への対策として、藤友さんは「抗菌薬を処方されたときに、症状が軽くなったからといって勝手に服用をやめてしまうと病原菌が残ってしまう。医師が指示するとおりにちゃんと服用してください。また、同じ症状が出たからといって、残った抗菌薬を服用しないようにしましょう」と呼びかけます。また、“風邪をひいたから抗菌薬をください”という患者さんへの対処方法も具体的に紹介しました。

 最後に、藤友さんは基本的な対策として、“手洗い”“咳エチケット”“ワクチン”を挙げ、感染症の基本的な対策が薬剤耐性菌に対しても、もっとも重要であることを述べました。


一般社団法人知ろう小児医療守ろう子ども達の会
AMR臨床リファレンスセンター