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グローバルに活躍できる研究者の育成を目指す ーグローバルナーシングリサーチセンター記念講演会ー

編集 ナースプレス編集部

Webサイト「ナースプレス」編集部

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Gakkai report

 2017年10月11日に、東京・学士会館にて東京大学大学院医学系研究科附属グローバルナーシングリサーチセンター(以下、GNRC)記念講演会が開催されました。GNRCは、異分野融合型イノベーティブ看護学研究の推進、およびケアイノベーションを先導することを目的とした、日本初の看護系研究センターです。ここでは、その記念講演会の模様をお伝えします。

看護科学の発展と次世代の看護専門家の育成を目指したセンターが誕生

 最初に、東京大学大学院医学系研究科研究科長・宮園浩平さんがお祝いの言葉を述べました。ここでは、GNRCが医学教育国際研究センター、疾患生命工学センターに続き、東京大学大学院医学系研究科の3つ目の研究センターであることを紹介。そして、5年間の期限付きのプロジェクトとしてスタートし、KPI(Key Performance Indicators、重要業績評価指標)で評価されることを伝え、次期につなげるためにも皆様のご協力とご支援をお願いしたいと呼びかけました。
 
 次に行われた来賓の挨拶では、GNRCの設立にあたり協力した参議院議員の石田昌宏さん、文部科学省高等教育局医学教育課看護教育専門官の斉藤しのぶさん、日本看護科学学会 理事長鎌倉やよいさんが檀上に立ちました。石田さんは看護師国家資格をもつ参議院議員であり、しばらくは看護師の数を求める政策が続くが、団塊の世代である高齢者の減少に伴い医療費も減少することを指摘。そうなれば、看護の質を求める政策が中心となるとし、質を向上させるためには、研究や技術による看護の劇的な変化が必要だとGNRCの設立に期待を寄せました。

 斉藤さんは、少子超高齢化を迎え、“治す医療”から“支える医療”への転換の必要があり、そうした背景がありGNRC設立に至ったと説明。鎌倉さんは看護学について看護方法論を確立し標準化することが課題とし、いずれもGNRCへの大きな期待を述べました。

 次に米国国立看護研究所所長パトリシア・グレーリーさんのビデオメッセージが披露され、各講演が始まりました。なお、すべての講演は、GNRCが目指すグローバル性を重視し、英語によって行われました。

グローバルに活躍できる若手研究員の育成を目指す

 最初の演者は、GNRCのセンター長である真田弘美さんです。真田さんは、GNRCの必要性、理念を紹介しました。超高齢社会を迎えた現在、看護職の不足に対応するには、コミュニケーション技術、人工知能の活用など、異分野融合型のイノベーティブの看護学の研究が必要であると示しました。また、近年では看護学系の大学が増加するとともに、若手研究者が実習指導に多くの時間を費やし、自らの研究を行う時間がないという現状を指摘しました。このままでは、看護学の研究者不足という事態に至りかねないとし、ポスドクの研究機関が必須であると訴えます。これらのことから、GNRCは異分野融合型イノベーティブ看護学研究の推進、およびケアイノベーションの先導を目的に設立されたことを強調しました。

 GNRCの設立にあたっては、真田さんをはじめ教員が諸外国の実践、実例から学ぼうと13の海外の看護系大学や研究所を訪問したと話します。本講演では、その中で優れた機関として、ペンシルバニア大学(アメリカ)、米国国立看護研究所を紹介。ペンシルバニア大学では、ポスドクが研究に注力することの重要性、米国国立看護研究所では、最先端の技術・研究装置による看護の基礎研究の重要性など、さまざまな学びがあったことを報告しました。

 こうした諸外国からの知見を踏まえ、真田さんは、日本は世界に先んじて少子高齢化の影響を経験していることから、特にポスドクのような若手研究員が国際的に先端的な看護学をけん引していく可能性があると、GNRCの4つの戦略を挙げました。それは、ポスドク育成のための教育プログラムの提供、他校からの研究者の受け入れ、物理的な研究設備を設けること、海外の研究者の招聘です。

 そして、基礎研究に必要な設備、エンジニアリング、インフォメーションテクノロジー、看護学の臨床シミュレーションなど、すべてがそなわった世界初の看護研究センターとして機能し、若手研究者の育成にあたることがミッションだと述べました。

 実際に、若手研究者育成の仕組みとして、異分野融合型のセミナー、個別的な研究指導コース、英語ライティングコース、産官学連携研究コース、そして外部にも公開しているセミナーとして、基礎的および量的研究方法など研究方法の指導やアジア圏における看護研究のリーダーシップのセミナー、看護理工学入門セミナーなどを提供していることを紹介しました。

 次に、真田さんは現在までの実績の一部を報告しました。すでに、7本の英語論文を執筆、また国際共同研究を継続しているといいます。国際共同研究の一つは、真田さん自身がかかわっている研究です。そのテーマは、日本の褥瘡評価のプロトコールが海外でも対応可能かというもの。日本は、もっとも褥瘡の発生率、罹患率が低い国であり、そのエビデンスもあります。真田さんらはステージⅡの褥瘡をもっている患者さんに対して、エコーとサーモグラフィを使って、褥瘡評価を行うという手法を導入しました。この評価法は真田さんらが新しく開発したものです。導入においては、ノッティンガム大学で行われた夏期講習を利用し、5つのグループに分けて、それぞれ日本人とイギリス人の研究者が合同で実施しました。

 真田さんは、「日本の若い研究者が、同じような経験が得られるべきだと強く感じています」と話します。そして、この夏期講習を来年GNRCでも実施することを報告しました。

 さらに、革新的な研究例を紹介しました。その研究とはエコーと人工知能によるシステムを使った不顕性誤嚥の評価です。不顕性誤嚥は、早い段階で発見することが難しいとされています。このシステムの開発では、誤嚥による残留物を画像によって示すことで不顕性誤嚥の早期発見を目指しているとのこと。

 最後に、日本の看護系大学の約7割において英語による発表を実施していない現状を指摘し、「このことは看護の研究において、若い研究者を看護科学の研究者として高めていかなければならないということを示しています。GNRCは、若い研究者のモデルになるような組織であり、今後の看護研究においても新しい場を作りたいと考えています」と将来の展望を述べ講演を終えました。

GNRCが行う革新的な取り組み

 続けて、GNRCの2つの部門について、大江真琴さんがケアイノベーション創生部門を、副センター長の山本則子さんが看護システム開発部門を紹介。ケアイノベーション創生部門は「各個人の健康障害による日常生活不利を緩和するケアプロダクトの開発・普及」を行うことを目的とし、ロボティクスナーシング分野、バイオロジカルナーシング分野、ビジュアライズドナーシング分野、クリニカルナーシングテクノロジー分野、リバーストランスレーショナルリサーチ分野の5つの分野があります。

 看護システム開発部門は、「文化・社会的存在に対する看護実践の解明と質の高い実践を支える日本発の看護理論の構築並びに政策提言」を行うことを目的とし、ヘルスクオリティ・アウトカムリサーチやケアクオリティ・マネジメントの分野を有します。コミュニケーションロボットの活用やコンビニエンスストアとのコラボレーションによる研究などを例に、それぞれ革新的な取り組みを行っていることを紹介しました。

 また、同講演では研究員2名と助教1名という若手研究者による講演もあり、研究員の福田真佑さんは自身の研究テーマである糖尿病足潰瘍に関する研究を発表、同じく研究員の目麻里子さんはポスドクとしてのモチベーションや自身が経験しているポスドクのプログラムについて紹介しました。助教の臺美佐子さんは、自身の研究であるリンパ浮腫の管理において、GNRCで得た先端的な異分野融合型研究方法やテクノロジーをもとに新しいアセスメント方法を開発していることを発表しました。

 海外からは、香港理工大学看護学部名誉教授であり創設理事であるClaudia Kam Yuk Laiさん、ノッティンガム大学教授のChristine Moffattさんが講演を行い、GNRCのグローバル性を印象づけました。講演会の最後は、副センタ―長である上別府圭子さんが謝辞を述べ、閉会となりました。

※ポスドク:博士号(ドクター)を取ってすぐ後の研究者をさす


グローバルナーシングリサーチセンター