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【連載】臨床で使える精神科看護

[幻覚・妄想]精神科患者さんにみられる症状を学ぼう❸

執筆 北村周美

東海大学健康科学部看護学科 助教

Seisinkango

幻覚とは

 知覚とは、感覚器の刺激から外界や自分を知ることで、見る、聞くなどのほか、においや手ざわりなどがあります。そして、感覚器が刺激を受けていないのに知覚を生じることを「幻覚」といいます。主に表のような幻覚が現れます。一方で、もう1つの知覚の変化として「錯覚」がありますが、これは対象や刺激を誤って知覚することで、幻覚とは異なります。

 精神疾患では、アルコール依存症、統合失調症、うつ病、薬物依存症、心因反応、認知症などの症状として、幻覚がみられることがあります。また、身体疾患によって知覚の変化が起こる場合があり、幻味や幻臭などが挙げられます。

妄想とは

 「妄想」は思考障害の1つです。思考障害は「思考の流れ、形式の障害」と「思考内容の障害」に分類されますが、妄想は思考内容の障害にあたり、主に自分に結びつく誤った確信で、訂正不能のものを指します。統合失調症、妄想性障害、うつ病などでよくみられます。

幻覚妄想状態とは

 幻覚妄想状態とは、精神疾患の特徴的な状態像の1つで、幻聴や妄想に支配され、生活行動が変容している状態です。例えば、「おまえ無能だ」という幻聴が聞こえ、「常に監視されている」と訂正不能な妄想をもち、カーテンを閉め切った部屋に閉じこもりがちになり、人付き合いを極端に避けるなどの状態に陥ります。

幻覚・妄想の治療

 幻覚や妄想は、疾患の治療を行うなかで、症状が緩和されたり消失したりします。
例えば統合失調症の急性期では、休息をとりながら、抗精神病薬などの代表的な薬物療法と心理社会的治療などを併用していきます。そのうえで、セルフケアを維持し、リハビリテーションを行うなどして、急性期にみられた妄想が消失あるいは軽減することを目指します。または、幻覚や妄想といった精神症状が消失しなくても、そのような症状をもちながら対処したり、サポートを受けたりしながら社会生活が送れることを目標にします。

幻覚・妄想に対する看護

 幻覚・妄想に対する看護の1つに「否定も肯定もしない」というキーワードがあります。看護師は、客観的立場にあるため、患者さんがないものをあるものと認識していると、「それは起きていない」と否定したくなります。しかし、患者さんはそれを現実と認識しているため、否定することは無駄であり、患者さんの不信を招きます。その一方、肯定するとますます確信を強めてしまいます。「否定も肯定もしない」とは、幻覚や妄想の内容よりも、症状をもっている患者さんのありのままの体験を受け入れ、患者さんの気持ちを理解することを重要視します。

 具体的には、看護師は、病的体験を通じて不安や苦痛などをもつ患者さんを理解し、セルフケアの維持や気分転換などを用いて病的体験を軽減させ、さらに現実的な体験の獲得を促すことが大切です。

 前述の幻覚・妄想状態の例でいえば、幻聴や妄想に伴う苦痛や生活のしづらさを理解しながら、食事や清潔ケアなど日常的な場面から援助を進めていきます。さらに、医療者に慣れることから患者さんの人づきあいを広げ、生活行動範囲の拡大を目指します。この場合、強引に進めると患者さんの不安感や緊張感が増すので、看護師が行動を共にしながら、安心して取り組める課題を用意することも大切です。

 患者さんは、環境に慣れてくると表情や言動の変化がみられます。そのような変化を、患者さん自身に肯定的にフィードバックし、患者さんが自尊感情や自己効力感を高め、自信がもてるように援助します。


参考文献
厚東篤生,他監:よくわかる! 脳とこころの図解百科.小学館,2008.
大熊輝雄,原著:現代臨床精神医学.現代臨床精神医学 第12版改訂委員会,編.金原出版,2015.