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【連載】山内先生の公開カンファランス

第134回 【解説編】既往歴に脳梗塞と高血圧がある、脱水で入院してきた患者さん

解説 山内豊明

名古屋大学大学院医学系研究科 教授 医学博士/看護学博士/医師/看護師/保健師/米国・登録看護師、診療看護師

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今回は、既往歴と入院してきた症状とその後の治療から、どのようなリスクが想定できるかを考えてもらいました。


【事例】
[S・Nさんから提供された事例]
脱水で入院してきた80歳代の男性。既往歴には脳梗塞と高血圧があります。小柄な方で、1日に点滴を1500mL入れていました。輸液の指示が出たときは脱水だったのですが、症状が改善しても減量はされませんでした。
→あなたならどう考える?


リスクのリストアップと重み付けの考え方

 今回は、事例を読んでどんなリスクが想定できるのかを考えてもらいました。この事例で考えられるリスクをすべてリストアップするというのは、ある程度の知識があればできるでしょう。

 想定できるリスクがリストアップできないということは、知識が不足していると考えられます。これは、知識を増やすことで解決できます。

 リストアップしたものすべてに関して、観察を継続することはできません。ですから、今、気をつけるべきことはどれかを考えていかなければなりません。リスクの考え方で難しいのは、この部分です。

 どんなに起こる確率が低くても忘れてはいけないものもあれば、よくあることではあるけれど今回はリスクとして挙げなくてもいいというものもあります。リスクと考えるかどうかの明確な線引きはありません。その患者さんの状態、状況から考えて重み付けをしていきます。

 このとき、気をつけたいのが経験によってバイアスがかかってしまうことです。1度、同じような事例に遭遇していて、そのとき苦い経験をしているとどうしてもその経験に引っ張られてしまうことがあります。そういうこともあると頭の隅に入れておき、バイアスがかからないように注意してください。

キーワードは減量せずに続けている輸液

 では、事例を見てみましょう。事例では、80歳で既往には脳梗塞と高血圧があり、脱水により入院となっています。脱水の症状改善のため、輸液を1500mL/日を行った結果、現段階では脱水の症状は改善されていると書かれています。

 80歳の人が起こしそうなものを全部挙げるときりがありませんね。まずは、今回入院することとなった脱水の部分に注目してみましょう。「症状は改善されたが、輸液は減量せずに続けている」というところがキーワードとなるのではないでしょうか。ここから、水分が過剰になる=心不全や肺水腫の可能性が考えられると気づけるとよいですね。それと、脱水を起こした原因を解消できたのかどうかが事例からはわかりません。根本が治っていなければ、再度脱水になるかもしれないというのもあってもいいかもしれません。そのほか、今回の入院と切り離して考えると、もちろん再梗塞というリスクもあるでしょう。

 みなさんの回答を見てみると、多くの人が心不全をリスクに挙げています。患者さんの状況を見て、しっかりとリスクを考えられているといえるのではないでしょうか。さらに、Q2では「この患者さんのどんなところに注意して観察するか」を聞いています。ここで大切なのは、Q1とQ2の回答が連動しているかどうか。観察は目的をもって行います。ここでの観察の目的は、Q1で挙げたことが起こりそうか、起こっていないかを確認することです。そこを踏まえて、回答できるとよいでしょう。


事例つづき
点滴が始まってから4日くらいで、ときどき喘鳴や咳嗽がみられ、微熱もありました。そのほか、バイタルには異常はありませんでした。


まずは1つの原因に起因していないかから考える

 何度か紹介していますが、患者さんにいくつかの症状が見られたとき、起こっていることはすべて1つの原因からきていると考えるオッカムの剃刀という考え方と、原因が1つとは限らないと考えるヒッカムの格言という考え方があります。

 まずは、オッカムの剃刀的な考え方で、同じ原因に起因していないかどうかを考えましょう。考えた結果、どうしても同じ原因とするには無理がある場合には、いくつかの症状が同時多発的に起こっているけど、原因は違うと考えるほうにシフトします。

 まずは脱水とそれに付随することから起こっていると考えてみましょう。この事例の患者さんは、脱水の症状が改善しても輸液を続けていて、過剰な水分投与となっている可能性があります。さらに、喘鳴・咳嗽を心不全・肺水腫の徴候ととらえると、Q1で挙げてくれた心不全かもしれないと考えられます。

 ちなみに、高齢者、喘鳴、咳嗽、微熱といわれて、1番に思いつくのは肺炎かもしれません。さらに、どれくらい脳梗塞の後遺症があるのかわかりませんが、嚥下機能が障害されていたら、誤嚥性肺炎かもしれないと考えてもよいかもしれませんね。


事例つづき
この状況を医師に報告し、心不全と診断されました。


患者さんの背景が大きな手がかりとなることもある

 多くの人がQ1で予想したとおり、患者さんは心不全になっていました。いくつもあるリスクを患者さんの背景と照らし合わせていくとよいという事例でした。

 さて、ここで医師の報告時に使うとよいとされるみなさんご存じのSBARを思い浮かべてください。
S(Situation) どういう状況で
B(Background) この患者さんはどういう背景があるのか
A(Assessment) アセスメントした結果どうなのか
R(Recommendation) どうしたいのか

これでもやはりBの背景が入っています。判断する手がかりとして、そもそもこの患者さんにはどういう背景があるのか、というのは欠かせない情報であることがわかりますね。ですから、みなさんもリスクを考えるとき、患者さんの状態が変化したときには、患者さんの背景も含めて考えるようにしてください。


【次回の事例】
クロイツフェルト・ヤコブ病の70歳代の患者さん。車椅子移乗軽介助の状況で、食欲不振で入院してきました。ある日の夜中、身障者トイレまで介助し、終わったらナースコール押すよう説明して退出。物音がして行くと顔面から倒れていました。腫脹が強くあり、内出血もしていますが、バイタルに大きな変化はありませんでした。
→あなたなら、どうアセスメントするかを教えてください。
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