【連載】フィジカルアセスメント症状別編

悪心・嘔吐のアセスメント

解説 山内 豊明

名古屋大学大学院医学系研究科 教授 医学博士/看護学博士/医師/看護師/保健師/米国・登録看護師、診療看護師

【目次】


STEP1 まずは、これを考えよう!

嘔吐中枢からの命令で起こる悪心・嘔吐

「吐きそう」「むかむかする」「気持ちが悪い」。このような言葉で表現されることが多いのが「悪心」で、「吐き気」ともいいます。

これに対して、実際に吐き出してしまうのが「嘔吐」。胃、および十二指腸の胃に近い部分から、食べたものや水分、消化液などが、口から急激に吐き出される現象です。「吐いた」とか「戻した」という言葉で表現されることもあります。

寝ながら食べても、あるいは食べてすぐ逆立ちしても、胃袋に収まったものが口から飛び出したりしません。そういう仕組みがあるのに、どうして悪心や嘔吐が起こるのでしょうか? まずは、口から入ったものがたどる消化の道筋から考えてみましょう。

私たちが食べ物を口に入れると、咀嚼するところから消化活動が始まり、最終的に不要なものが尿や便として排泄されます。このルートでは、通常ならば逆流は起こりません。なぜなら、ゴックンと飲み込むとき、食道から胃に送られるとき、そして胃から腸へという具合に、食べ物が消化されながら次の器官へと送り届けられる際には、しっかりと連結部分が閉じられているからです。

ところが、何らかの原因で身体に異常事態が発生すると、それが刺激として脳の延髄にある嘔吐中枢に伝えられます。すると、嘔吐中枢から、胃、食道、横隔膜、そして腹部の筋肉に「吐け!」という命令が伝えられるのです。

命令を受けると、胃の出口である幽門が締まり、食道との連結部分であり胃の入り口ともいうべき噴門が開きます。そして、横隔膜や腹部の筋肉が収縮して、勢いよく胃の内容物が口元へと飛び出してきます。場合によっては胃に近い十二指腸から飛び出してくることもあり、その場合には吐瀉物に黄色い胆汁や緑色がかった膵液などが混ざっている状態がみられます。

「悪心」も同様に、嘔吐中枢からの命令で起こるものですが、悪心が嘔吐の前触れという場合もありますし、悪心を伴わないで嘔吐する場合もあります。

Action1 悪心・嘔吐のメカニズムを理解する

悪心・嘔吐は、嘔吐中枢が何らかの原因で刺激され起こります。

ここで注意しなければならないのは、嘔吐中枢を刺激するのは消化器系の疾患だけではないということです(表)。

表 嘔吐の分類とメカニズム
嘔吐の分類とメカニズムの表

嘔吐中枢を刺激する原因をいくつかに分けると、次のようになります。

●脳疾患:脳の疾患などにより嘔吐中枢が直接刺激されます。くも膜下出血や脳梗塞、脳腫瘍、髄膜炎、頭蓋内圧亢進など、生命にかかわる重篤な疾患である場合が少なくありません。

●感情や感覚など:ストレスを感じたり、不快なものを見たり、異臭を感じたりすると、感情や感覚の刺激が大脳皮質を介して嘔吐中枢に伝わります。味覚、視覚、臭覚などでの不快感、ストレス、うつ病などによる例が考えられます。

●有害物質:嘔吐は悪いものを体外に出そうという生体防御反応の一つという考え方もあります。代謝異常や薬物中毒などによって、何らかの有害物質が体内にあると、それが血流に乗って脳内に届き、CTZ(第四脳室にある化学受容体引金帯)という部分が刺激され、ここからさらに嘔吐中枢にも信号が伝わります。糖尿病などの代謝異常、抗がん剤の副作用や薬物中毒、感染症などのほか、飲み過ぎや二日酔いなどもこのカテゴリーに含まれます。

●平衡感覚の異常:三半規管など平衡感覚を司るところに異常がある場合は、CTZの手前の部分を刺激するため、やはり最終的には嘔吐中枢に伝わって悪心や嘔吐を招きます。メニエール病、乗り物酔い、中耳炎などがその例です。

●消化器系疾患:消化のルートに胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃がん、虫垂炎、イレウスなどの消化器系疾患があると、迷走神経や交感神経を経由して嘔吐中枢が刺激されます。これらのほかに、食道の噴門部の開閉障害であるアカラシア、食道がんなどのように消化管の狭窄・通過障害により起こる機械的嘔吐があります。

●心疾患:心筋梗塞、狭心症、うっ血性心不全などの心疾患でも、迷走神経や交感神経を経由して嘔吐中枢が刺激され、悪心や嘔吐がみられます。

STEP2 緊急性の判断と原因を精査しよう

これまでに述べたように、悪心や嘔吐の原因は多岐にわたります。ですから、バイタルサインのチェックを行い、消化器系の情報だけでなく頭痛や胸痛など随伴症状の有無や服薬、既往歴なども問診で確認しましょう。女性の患者さんの場合は、妊娠しているかどうかを確認するのも欠かせません。

また、吐瀉物の内容や量も大切な情報です。胆汁や血液が混ざっていないかといった色の確認や便臭がしないかといったにおいの確認に加え、消化の程度などを確認します。脱水の恐れがある場合には、輸液が必要になります。

しかし、頭蓋内圧亢進や心筋梗塞などに起因していれば、生命危機につながるので、待ったなしで緊急処置が必要です。特に患者さんがショック状態を起こしているようであれば、ドクターコールと救命救急のABCが不可欠です。したがって、緊急性の判断が求められます。

Action2 問診で原因を推定しながら想定リストを精査する

患者さんから話が聞ける状態なら、問診で原因精査に役立つ情報を得ることができます。実際には、緊急度の
判断と同時に行います。

問診の流れ

01 悪心や嘔吐の状態を聞く
「いつから気持ち悪くなりましたか」

【こんな質問で絞り込もう】
●いつから始まりましたか?
●どんなきっかけで吐きたくなりましたか?
●まだ続いていますか? 
●繰り返し吐いていますか?
●吐いたものはどのようなものでしたか? 
●血液は混じっていませんでしたか?

【アセスメントのヒント】
●突然の嘔吐や激しい嘔吐、長く続く嘔吐は、緊急処置を必要とすることが多いので注意しなければなりません。
●飲食が悪心や嘔吐のきっかけになる場合には、消化管の閉塞や食道・胃粘膜の異常が考えられます。特に食直後の悪心、嘔吐では、胃炎、食道炎、胃潰瘍、食後数時間後では十二指腸潰瘍、胃がん、幽門狭窄などが考えられます。
●吐瀉物が血液の場合には「吐血」といい、食道や胃、十二指腸などの消化器系の疾患で出血が起こっていると考えられます。


ここがPOINT! 吐瀉物の性状と疑われる疾患や病態
吐瀉物の性状によっても、原因となる疾患を推測することができます。
●大量の胃液:十二指腸潰瘍、ゾリンジャー・エリソン症候群
●食物残渣を大量に含む場合:急性胃炎、幽門狭窄など
●胆汁を含む場合:十二指腸乳頭部以下の閉塞(イレウス、腸重積)、胃の手術後など
●コーヒー様残渣の場合:胃がん、消化性潰瘍など
●糞便臭がある場合:イレウス、腹膜炎


02 原因を聞く
「何か思い当たることはありませんか?」

【こんな質問で絞り込もう】
●何を食べましたか?
●胃炎や胃潰瘍などの既往歴はありませんか?
●頭をぶつけたりしませんでしたか? 
●妊娠の可能性はありませんか?

【アセスメントのヒント】
●食事が原因の場合、食中毒などが考えられます。
●胃液が多く出すぎて粘膜で胃壁を守れなくなると、胸やけやげっぷなどがよく出るようになり、悪心や嘔吐が起こります。
●頭をぶつけたりしたときには、外傷がなくても、脳内出血で頭蓋内脳圧が亢進する場合があります。
●女性で妊娠可能な年齢の場合は、妊娠による悪心・嘔吐の可能性がないかどうか確認しましょう。悪阻は、空腹時や食事を摂取しようとするときに多くみられます。

03 随伴症状の有無を聞く
「ほかに気になる症状はありませんか?」

【こんな質問で絞り込もう】
●お腹が痛くないですか? 
●胸やけしていませんか?
●下痢や便秘はありませんか?
●頭痛やめまいはありませんか?

【アセスメントのヒント】
●腹痛が伴う場合には、急性胃炎・慢性胃炎・胃がん・胃潰瘍・十二指腸潰瘍などが想定できます。特にみぞおちの辺りが食後に痛む場合は胃潰瘍、空腹時に痛む場合には十二指腸潰瘍の可能性が高いと考えられます。
●胸やけがあるようなら、逆流性食道炎の疑いがあります。
●下痢を伴うときは、食中毒いわゆる食あたりが考えられるでしょう。
●便秘を伴い、悪心が続いたり、嘔吐を繰り返したりしているようなら、腸閉塞の可能性も考えられます。
●めまいを伴う場合には、脳出血、脳震盪のほかにメニエール病などが想定できます。

Action3 緊急度を判断する

悪心や嘔吐で生命危機につながる恐れがある原因疾患を精査するには、それぞれの症状の特徴を理解しておくとよいでしょう。

ショック症状を確認する

血圧が低下していないか、頻脈はみられないか、呼吸状態は正常かどうかなどを確認します。ショック症状がみられ、胸痛があると心筋梗塞などの疑いがあります。

意識レベルを確認する

意識レベルが低下していると、脳疾患の疑いがあります。血圧が上昇していないか、徐脈がみられないかどうかを確認します。また、対光反射や麻痺がないかどうかもチェックします。

脱水症状の確認をする

嘔吐により脱水を起こしていないかを確認します。ツルゴール、口渇感はないか、唇や口腔の乾燥がみられないかを確認します。

STEP3 アセスメントを看護につなごう

悪心も嘔吐も身体に異常があるために起こるものです。緊急性のある場合にも、経過を見ながら治療する場合にも、医師の診断に基づき、根本原因を解消することが治療の基本になります。

こうした原因疾患の治療だけではなく、悪心や嘔吐に必要なケアがあります。

例えば、誤嚥予防もその一つ。嘔吐がみられる場合には、吐瀉物の誤嚥で窒息しないようにしましょう。寝ている状態なら顔を横に向けるよう側臥位に、座位なら前傾姿勢にします。

また、嘔吐だけでも心身を疲弊させるので、さらに誤嚥まで誘発するのは絶対に避けたいものです。特に、吐き出す力の弱い高齢者や乳幼児は窒息という危険につながりやすいので注意しましょう。

Action4 緊急性のある看護の場合

激しい頭痛や血圧上昇、麻痺などを伴う場合には、くも膜下出血などの脳血管障害や、脳腫瘍などで頭蓋内圧が亢進していると考えられます。すぐに減圧を図らないと脳ヘルニアを起こし、生命の危機につながるので迅速に対応しましょう。

胸痛や血圧降下を伴い顔色が青白くなっているような場合には、心筋梗塞、解離性大動脈瘤などの可能性があります。いずれも生命危機につながる重篤な疾患ですが、心電図モニターやパルスオキシメーターの装着などを行うことはもちろん、どちらの疾患であるのか精査する必要があります。また、激しい腹痛を伴う場合、消化管穿孔などの疾患が考えられます。外科的緊急処置が必要なので、医師へ速やかに連絡しましょう。

Action5 緊急性のない場合の看護

身体を締め付けるような衣服は緩める、強いにおいのするものを遠ざける、患者さんの不安を軽減するように声をかけるなど、心身をリラックスさせるケアを心がけましょう。こうしたケアの中でも特に重要なのが脱水症への対応です。

大量に嘔吐したり、嘔吐を繰り返す場合には、胃液などの体液も吐き出されるので脱水症に陥る恐れがあります。脱水症のケアは、経口による水分摂取のほかにも輸液管理で電解質のバランスに配慮する必要があります。

また、悪心や嘔吐は食欲の低下を招くため、栄養状態にも悪影響を及ぼすことがあります。低栄養は褥瘡にもつながるので注意しましょう。

まとめ

物事は全てAだからBという単純明快な図式ではありません。悪心や嘔吐も、消化器系だけではなく脳疾患や心疾患にも由来しているケースもあります。原因精査やそれぞれの疾患に対応したケアをアセスメントする際には、AにはBのほかにもCやDがあるかもしれないというプラスαを忘れずに。

(「患者さんのサインを読み取る! 山内先生のフィジカルアセスメント【症状編】」より転載)

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