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【連載】フィジカルアセスメント症状別編

動悸のアセスメント

解説 山内豊明

名古屋大学大学院医学系研究科 教授 医学博士/看護学博士/医師/看護師/保健師/米国・登録看護師、診療看護師

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目次

STEP1 まずは、これを考えよう

主観的な訴えをアセスメントする

 患者さんに現れる症状には、患者さん自身にしかわからない主観的なものがあります。動悸もその一つで、患者さんは多くの場合、「胸がドキドキする」や「ときどき胸が(心臓が)ドクンとする」などという表現をします。

 胸がドキドキするというのは、例えば運動をしたときや、緊張したり興奮したときなどには、誰でも体験することです。

 しかし、こういう場合は原因が自覚できるので、胸がドキドキしてもバクバクしても異常とは感じません。ところが、このような理由がないのに胸がドキドキしたりドクンとしたら、どうでしょう。「あれ? おかしいな」となんだかいやな感じがするのではないでしょうか。

 心臓は年中無休で働いていますが、私たちは心臓の存在もその働きも意識することなくすごしています。しかし、心拍数が変化するとか、拍動のリズムが乱れたり強くなったりすると、普段はまったく意識しない心臓の拍動を実感します。動悸とは、このように普段は意識しない心臓の拍動を感じ、しかもそれを不快に感じている状態です。

 動悸の原因は、心臓が起因しているのか、心臓以外の原因で起きているのかに大別できます。心臓が原因で起きる動悸には、不整脈(心臓弁膜症などさまざまな心疾患による)・心不全・心筋炎・肥大型心筋症といった心疾患などがあります。

 そして、心臓以外の原因で起きる動悸には、貧血・発熱・甲状腺機能亢進症・慢性肺疾患・糖尿病などの疾患や、不安、ストレスなどの精神的要因などがあります。また、薬の副作用として生じる場合もありますし、煙草を吸ったときや、酒の飲み過ぎ、コーヒーなどカフェインを多く含んだ飲み物を飲んだときにも起こり得ます。

 では、どうしてこうした原因が動悸の引き金になるのでしょうか。動悸の原因はこれとこれ、というようなマニュアル的な覚え方ではなく、「なぜ?」にも目を向けてみましょう。

Action1 動悸が起こるメカニズムを理解する

 患者さんが動悸を感じるのは、心拍数の変化、拍動のリズムの変化、鼓動の強さの変化など、普段とは異なる状態が起こったから、といえます。どんな疾患で起こるのか、また動悸以外の症状にはどんなものがあるのかを、知っておくとよいでしょう(表)。

動悸のアセスメントと主な原因の表

●心拍数の変化:心拍数は年齢や個人によって差がありますが、正常な場合は1分間に60~100回といわれています。心臓は自律神経に支配されているので、運動や緊張、興奮などで普段よりも多くの血液需要がある場合は、自動的に循環血流量が増えて心拍数が増えます。

 入院中の患者さんが激しい運動をすることはないはずなので、心拍数が増えた場合には発熱しているか、不安、緊張、ストレスなどの精神的な原因が考えられます。
  
 また、糖尿病の場合、低血糖状態になると交感神経が緊張するので、心拍数が増えます。カテコラミンや甲状腺ホルモンも心臓の収縮を亢進させるので、それらが増加すると心拍数が増えます。
  
 このほかに、いわゆる頻脈や徐脈など、心臓の拍動が正常域を逸脱した場合にも動悸を感じます。ただし、頻脈やリズムが乱れている状態に比べると、徐脈は感じにくいといえるでしょう。

●リズムの変化:不規則な拍動が1回ドキンと打つのを感じていたら、期外収縮などの不整脈が起こり、動悸を感じるようになっている可能性があります。
 
 心臓が血液を全身にめぐらせるポンプとして機能しているのは、心臓を収縮させたり拡張させたりする作業心筋と、作業心筋が一定のリズムで働くようにコントロールする特殊心筋の絶妙のコンビネーションによるものです。右心房の上のほうには洞結節という特殊心筋のかたまりがあり、ここから作業心筋に電気信号による指令が伝えられています。
  
 拍動のリズムが乱れるのは、洞結節の機能異常、あるいは電気信号の伝達ルートの異常、もしくは洞結節以外から電気が生じてそれが作業心筋に伝わっている可能性があります。いずれにしてもこうした異常があると、心臓が正しく働かず、脈が乱れます。これが不整脈で、動悸を引き起こすことにつながります。

●拍動の強さ:リズムに乱れもなく心拍が早くも遅くもないにもかかわらず、ドクンと心臓の鼓動を強く感じるのは、1回拍出量が増えていると考えられます。妊娠初期に急に循環血流量が増えた場合、あるいは貧血や肺気腫などの低酸素状態が考えられます。

STEP2 緊急性の判断と原因を精査しよう

 動悸といっても表のようにその原因はさまざまです。心臓の異常を知らせるサインであるという可能性もあるので、まずは緊急性の判断が求められます。冒頭で述べたように、動悸はあくまでも患者さんの主観的な症状です。しかも、症状は一過性の場合も少なくないので、訴えがあったときには動悸が消えていて脈拍測定などでは確認できないこともあります。

 問診と身体所見を併せて、緊急性が高いのかどうかを精査していきましょう。


ここがPOINT! 不整脈のアセスメント
動悸の引き金が不整脈という可能性があります。しかし一口に不整脈といっても発生場所やメカニズムによっていろいろで、健康な状態でも見られる心配のないものから、致命的なものまでさまざまです。
 
しかも、脈や心音を確認しても、その瞬間に動悸が生じていなければ、客観的な異常を見つけることも緊急性を判断することも困難です。不整脈の精査には心電図、特に12誘導心電図が必須です。また、外来では日常生活の変化をみるために、ホルター心電図を装着してもらうこともあります。


Action2 問診で緊急度や原因を精査する

 既往歴とりわけ循環器系の病歴の聞き取りや、常用薬、精神状態、生活の変化などの情報収集は重要な手がか
りとなります。

問診の流れ

01 動悸の程度を確認する
「どんなふうに感じますか?

【こんな質問で絞り込もう】
●心臓の鼓動を強く感じますか? 
●リズムが乱れているように感じますか?
●1回だけドキッと強い拍動がありますか?
●突然止まる感じですか? 
●ドキドキがずっと続きますか?

【アセスメントのヒント】
●1回だけドキッと強い拍動がある、突然止まる感じがする場合は、不整脈が引き金と考えられます。
●ドキドキ…と連続して拍動を強く感じる場合には、狭心症、心不全、バセドウ病(甲状腺機能亢進)の疑いがあります。

02 始まりやきっかけを聞く
「どんなときに動悸を感じますか?」

【こんな質問で絞り込もう】
●どういうときにドキドキしますか?
●じっとしていてもドキドキしますか? 
●動くとドキドキが始まりますか? 
●いつも決まった時間に始まりますか?
●動悸が始まったころに、何か生活の変化や、ストレスや不安を感じるようなことはありませんでしたか?

【アセスメントのヒント】
●動くとドキドキするという場合は、労作性狭心症や貧血の可能性があります。
●動悸の始まった時期と生活の変化や不安、ストレスが重なる場合には、精神的な原因が考えられます。
●じっとしていても動悸を感じる場合は、不整脈の可能性があります。

03 随伴症状の有無を聞く
「ほかに気になることはありませんか?」

【こんな質問で絞り込もう】
●何かほかに具合の悪いところはありませんか?
●発熱はありませんか?
●胸痛や息苦しさはありませんか?
●胸が苦しいと感じますか?
●めまいはありませんか?
●指先が冷たくなったりしませんか?
●手の震えや眠れないという症状はありませんか?

【アセスメントのヒント】
●発熱を伴う場合には、肺炎などの感染症や心筋炎の疑いがあります。
●胸の痛みや息苦しさがある場合には、心筋梗塞や狭心症などの虚血性心疾患が考えられます。
●息苦しさを伴うようであれば、心不全や頻脈などの不整脈に起因していることがあります。
●めまいを伴う場合には、心不全など心臓のポンプ機能が低下して、脳への酸素供給が不足していると考えられます。
●手の震えや不眠などの症状を伴う場合には、バセドウ病の可能性があります。眼球突出、落ち着きのなさ、体重減少などの症状の有無も確認しましょう。

Action3 緊急度を判断する

 動悸を引き起こす原因の中で緊急度が高い可能性があるのは、不整脈です。不整脈の中でも心室細動、心室頻拍、発作性上室頻拍、心房細動、心房粗動は治療が必要となります。問診で不整脈が疑われる場合は要注意です。

バイタルサインを確認する

 全身状態の確認のために、まず行いましょう。発熱や脈拍、呼吸に乱れがないか確認します。脈拍数だけではなく脈のリズム状態の確認も忘れずに行いましょう。血圧の低下はショック状態となる危険性があります。

意識レベルを確認する

 定期的に意識レベルをチェックします。低下がみられる場合は、緊急性が高いと考えられます。

SpO2を確認する

 SpO2が低下している場合は、うっ血性心不全やショックで循環血流量が低下していると考えられます。

チアノーゼの有無を確認する

 チアノーゼがみられるとショックを起こしている可能性があります。

心電図をとる

 不整脈の特定には、心電図は不可欠です。緊急度の高い心電図の波形を覚えておくとよいでしょう。より詳しく精査するためには、12誘導心電図をとる必要があります。

血糖値を確認する

 低血糖により動悸を感じている可能性があるので、確認します。

血液検査を行う

 貧血や甲状腺機能亢進症が原因の可能性がある場合は、Hb、Ht、赤血球数、電解質、甲状腺ホルモン検査などの血液検査を行います。

STEP3 アセスメントを看護につなごう

 心拍の変化は最悪の場合、生命危機に直結します。不整脈があり、意識障害、ショック状態、胸痛、そして息苦しさやSpO2低下、四肢の浮腫などの心不全状態が、いずれか一つでもみられるようであれば、緊急対応が必要です。

 心疾患以外でも低血糖などは生命危機に直結するので、ブドウ糖投与が急務です。

 また、継続的に観察し、原因は何であれ動悸が増悪する場合にも、緊急対応と同様に速やかな医師への連絡と処置が求められます。特に薬の副作用と考えられる場合には、その旨をしっかりと伝えましょう。

Action4 緊急性のある場合の看護

 心室頻拍、心室細動など致死的な不整脈がみられた場合には、緊急対応が必要になります。その場合には、処置後も心電図モニターでの継続的な観察が不可欠です。

 こうした場合の観察の際には、心不全やショック症状、心筋梗塞、狭心症の発作が生じないか、意識レベルが低下していないかを注意して見守りましょう。漫然と観察していても、何もみえません。

Action5 緊急性のない場合の看護

 動悸は患者さんが心臓の拍動を不快に感じている状態です。実際には心臓に異常がなくても、患者さんが拍動を不快に感じれば動悸なのです。

 看護する側は緊急性が低いと判断しても、患者さんにとって動悸の出現は死につながる恐怖を感じさせることがあります。このような場合には、重篤ではないことを伝え、患者さんの不安が軽減するような、納得できるわかりやすい説明をすることも大切な看護です。


ここがPOINT! 精神疾患の可能性
 うつ病、適応障害などでも、動悸やめまいといった身体症状が表れることがあります。パニック障害では激しい動悸が生じます。
 
 入院生活は患者さんの心の負担になります。特にがんの患者さんでは、うつ病や適応障害になりやすいといわれています。
 
 血液検査や心電図検査などで異常がみつからない場合でも、こうした精神疾患の徴候はないか、患者さんの様子を見守るようにしましょう。


まとめ

 動悸は主観的な症状であり、症状の出現とタイミングが合わないと、脈拍測定や心電図でもデータが取れないことがあります。しかし、身体の仕組みからその原因を考え、動悸の引き金になる原因を精査すれば、決して重要な疾患を見逃すことはないでしょう。これまでに養った「考える力」を発揮しましょう。

(「患者さんのサインを読み取る! 山内先生のフィジカルアセスメント【症状編】」より転載)