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メルケル細胞がんと、新たな薬剤が登場したメルケル細胞がん治療の最前線

編集 ナースプレス編集部

Webサイト「ナースプレス」編集部

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Gakkai report

11月6日大手町サンケイプラザにて「がん免疫と治療」プレスセミナーが行われました。解説は、国立がん研究センター研究所 腫瘍免疫研究分野 先端医療開発センター 免疫トランスレーショナルリサーチ分野 分野長 西川 博嘉先生と、国立がん研究センター中央病院 皮膚腫瘍科科長 山﨑 直也先生です。新たに抗PD-L1抗体が承認されたことにより、これまで治療困難であったメルケル細胞がんが治療可能になりました。2医師は、免疫療法について研究、臨床の立場からそれぞれ解説しました。その様子をレポートします。


メルケル細胞がんとはどのようながんなのか

 メルケル細胞とは、皮膚表皮層の最下部に位置している、神経内分泌細胞の一種です。感覚ニューロンと接しており、軽触覚に不可欠です。メルケル細胞がん(以下MCC)は、メルケル細胞から発生する皮膚がんで、一般的に悪性度が高いといわれる悪性黒色腫よりも悪性度が高いとされています。外観が特異的でない(痛みを伴わない、ドーム形、赤・紫・皮膚色、大きさが20mm未満)ため、生検前にMCCが疑われることはまれです。好発部位は日常的に日光に曝されている部位で、90%は白人に発症します。

 米国国立がん研究所 SEER dataでは、MCCと診断された患者はこの十数年で増加傾向にあります。リスク因子には、年齢(66歳以上)、日光曝露、免疫抑制などの他に、MCCの発症に関与しているといわれるメルケルポリオーマウイルスというものがあります。このウイルスには、4〜8割の日本人が感染しているのではないかといわれていますが、不顕性であり感染は幼少期の頃と考えられるため、正確な数は不明です。また、感染しても必ず発症するわけではありません。

これまでのMCCの治療と訪れた変化

 MCCは悪性度が高く、進行期における標準治療は確立されていません。遠隔転移がなければ50%の確率で、手術±放射線治療で根治が可能です1)。しかし、残りの50%では再発し、転移があれば1〜2年以内に死亡します1)。MCCの再発までの時間中央値は約8カ月で、90%が2年以内に生じるとされています2)

 化学療法の奏効率は55%ですが、MCCはすぐに耐性ができてしまうため奏功期間の中央値は85日と短くなっています3)。化学療法に使用する薬剤も、これまではMCCとタイプの似ている肺小細胞がん用の薬剤を使用していました。しかし、国内では唯一のMCC治療薬であるバベンチオが承認されたことで、これまでとは違い、MCCに対してより有効な治療が可能になったのです。

画期的な薬剤「バベンチオ」

 臨床試験では、他の薬剤と比較して奏効までの時間が短く、かつ奏効期間が明らかに長いことがわかり、腫瘍サイズも多くの患者さんで縮小がみられました。全ての患者さんに有効なわけではありませんが、効果がみられた場合にはさまざまな点においてこれまでの治療薬よりも有効なことがわかりました3)4)5)6)7)

 バベンチオは有効性の高い薬剤ですが、一方で72.6%に副作用が認められました7)。これは、免疫の働きを活発にしたことにより、がん細胞だけでなく体内のさまざまな部位を攻撃してしまうことによって起こります。バベンチオの副作用は5回目以降減少することがわかっているため、4回目までの使用は特に注意が必要となります。

 今後、バベンチオによりさまざまな治療アプローチが可能となることが考えられ、治療成績の変化・向上が期待されます。

免疫チェックポイント阻害剤を用いたがん治療

 がん治療には手術療法、放射線療法、薬物療法、免疫療法とありますが、免疫療法という治療法はあまり広く知られていません。薬物療法、免疫療法ともに薬剤を使用しますが、薬物療法はがん細胞を倒すためできるだけ多く使用し、免疫療法は必要なときに必要な量を使用します。がんについての普及が進んだ現在も、免疫療法において日本はやや遅れてしまっており、現在、研究が進められている分野です。

免疫とはどのようなものなのか

 そもそも免疫とは何か、ということを日常生活で意識することはあまりないかもしれません。しかし、免疫は私たちにとって欠けがえのないものであり、重要な働きをしています。

 免疫には自然免疫と獲得免疫があり、自然免疫は感染に対する初期の免疫反応で、どんな動物にも元から備わっています。獲得免疫は抗原を記憶し特異的に反応する、ほ乳類になってから獲得した働きです。

 がん細胞に対して免疫サイクルが働くとき、まず自然免疫である抗原提示細胞(APC)が、がん細胞を捕捉し提示します。これにより獲得免疫のT細胞が活性化し、血液によってがん組織へ運ばれます。がん組織に到着すると、浸潤しがん組織を認識、破壊という流れになります。このように、がん細胞に対する免疫サイクルにおいて重要な働きをするT細胞ですが、通常は不必要に活性化することがないよう、共刺激シグナル(反応を促進する経路)と共阻害剤シグナル(反応を抑制する経路)によって調節されています。どちらの反応も、APCのリガント(特定の受容体結合するタンパク質)とT細胞の受容体が結合することによって起こります。

T細胞が免疫療法のキーとなる

 共刺激シグナル、共阻害シグナルはそれぞれいくつかの固有のリガントと受容体を持っています。がん細胞は、共阻害シグナルのPD-1と結合するPD-L1を発現することができるので、その作用によりT細胞の働きが弱まってしまいます。また、もともと身体に存在している樹状細胞もT細胞の働きをコントロールするための、働きを弱める作用の抗体も持っているので、免疫阻害剤ではそれらの結合を阻害して、T細胞を活性化させます。

 これまでの抗がん剤にはT細胞からの受容体のみを阻害する薬剤しかありませんでしたが、今回バベンチオが承認されたことにより、がん細胞の持つリガントも阻害できるようになりました。多くのがん細胞はPD-L1抗体を出していることが多く、この結合をブロックすることで抗腫瘍効果が得られ、生存率が改善することが認められています8)9)。

 バベンチオは、これまでにない画期的な薬剤です。今後は、これまで明確な治療法が示されていなかった希少な難治性がんへの新たな治療選択肢となり得る可能性があり、より多くの患者さんを救うための研究が進んでいます。


【引用・参考文献】
1)Rabinowits G:Systemic Therapy for Merkel Cell Carcinoma: What's on the Horizon?. Cancers 2014;6(2):1180-94.
2)National Comprehensive Cancer Network(2014) p.MS-6,col2,para4
3)Iyer JG,et al:Response rates and durability of chemotherapy among 62 patients with metastatic Merkel cell carcinoma. Cancer Med 2016;5(9):2294-301.
4)Kaufman HL et al:Avelumab in patients with chemotherapy-refractory metastatic Merkel cell carcinoma: a multicentre, single-group, open-label, phase 2 trial.Lancet Oncol 2016;17(10):1374-85.
5)CoweyCL,et al.Value Health.2016;19(7):Abstract A717.
6)Becker J,et al:Ann Oncol 2016;27(Suppl): :Abstract 1154.
7)国際共同第Ⅱ相試験(EMR100070-003試験)のデータ「バベンチオ®点滴静注200mg(アベルマブ(遺伝子組換え)製剤)添付文書 2017年9月作成(第1版)」より抜粋
8)Motzer RJ,et al:Nivolumab versus Everolimus in Advanced Renal-Cell Carcinoma.N Engl J Med 2015;373(19):1803-13.
9)Borhaei H,et al:Nivolumab versus Docetaxel in Advanced Nonsquamous Non-Small-Cell Lung Cancer.N Engl J Med 2015;37317):1627-39.