お気に入りに登録

【連載】臨床で使える精神科看護

[救急病棟および救急外来]精神科病棟・外来以外での精神科患者さんへの対応❶

執筆 荻野夏子

東海大学健康科学部看護学科 講師

S seisinkango  1  min

救急での対応

 救急の現場では、精神科患者さんへの対応が求められる場面が多くみられます。皆さんご存知のように、救急といっても生命にかかわるケースだけではなく、診断のための検査が必要という場合や、生命にはかかわらないものの治療が急がれる場合などがあります。そのため、身体的な治療と患者さんへのメンタルケア対応は常に同時展開が必要で、精神疾患を有する患者さんの場合特に重要になります。身体的なケアを優先しすぎて患者さんとのコミュニケーションをおろそかにすると、患者さんが恐怖心から防衛的になってしまったり、情緒的に不安定になってしまうこともあるでしょう。患者さんの特性に合わせた対応を行うことは、質の高い医療を効率よく提供するうえで大切なことになります。

 地域で暮らしている精神科患者さんは近年非常に増加していますが、その一方で総合病院での精神科病棟は減少しています。そのため、精神科患者さんが身体的な問題で受診したとき、精神科疾患への対応経験の少ないスタッフがケアを行い、アセスメントやケアに困難を感じる場面が多くなっているようです。救急領域では、複合的な問題をもつ患者さんへの対応が求められるため、精神科患者さんの特性を理解したうえでの看護ケアを目指しましょう。今回はその対応を整理します。

患者さんを理解する[受診理由の整理]

 患者さんがどのような理由で受診しているのか、精神科的背景をもとに整理しましょう。

精神疾患以外の身体症状が受診理由である場合

 身体症状としては、持病の悪化、外傷などが多くなります。

 統合失調症の場合、死因の上位に自殺および心疾患が挙げられます。糖尿病の有病率も高く、高(低)血糖症状を呈する患者さんも少なくありません。外傷の場合は、交通事故や自殺・自傷などの理由が多く、特に自殺企図への介入は患者さんの命にかかわる問題で深刻です。

 また、救命救急への受診や入院が、患者さんにとって予期せぬ出来事であった場合、情緒的な混乱や治療の拒否などの反応がみられることもあり、精神的なケアを含めた対応が必要です。

身体症状か精神症状かわからないまま受診する場合

 精神症状の中には、身体的な訴えを強く示す症状があります。

 代表的なものはパニック発作です。パニック発作の場合、患者さんは自律神経症状(動悸、冷汗、胸痛、死の恐怖など)を呈し、意識がもうろうとなるなどの身体的な症状が現れますが、検査では身体的な問題は発見されません。
 転換性(解離性)障害の患者さんは、軽微な症状を通常以上に強く訴えることがあります。逆に興奮状態を呈している患者さんが軽度の脳炎で、精神疾患ではなかったと診断されることもあるでしょう。

 身体的治療ニーズが低い患者さんに対して、医療者は「人騒がせで迷惑だ」などネガティブな感情をもちがちですが、患者さんは確かに身体の不調を体験しています。患者さんへの理解を深め、ケアにつなげていきましょう。

疾患による行動面の問題から身体症状が生じる場合

 精神疾患による行動に起因して身体症状が現れる場合も多くなります。

 アルコール依存やその他の物質依存による問題行動では、嗜癖している物質の急性中毒状態、意識障害等に陥る場合があります。また統合失調症、うつ病、人格障害などの疾患からくる行為としては、自傷行為、自殺企図があり、外傷や処方薬の過量服薬などを繰り返す患者さんもいます。自傷行為につながる精神症状は多岐にわたりますが、例えば、幻覚・妄想状態を呈している場合などでは、患者さんへの対応や治療行為が難しくなることもあるかもしれません。また、人間関係のトラブルやストレスをきっかけに行動面の問題が繰り返し起こるような人の場合は、本人のつらさだけでなく、周囲の親しい人間が振り回され疲弊してしまうこともあります。

 身体的な問題としては小さくても、それを繰り返して行動化したり、徐々に行動がエスカレートした結果、命にかかわる危険な行動になってしまうケースもあります。そのような可能性を念頭に、リスクの査定や精神科治療機関との連携など配慮も必要になります。

患者さんへの具体的な対応

 障害の特性から精神科患者さんへのケアを考えてみましょう。

ストレス脆弱性への対応

 精神科患者さんの多くはストレスに弱く、ストレスに反応して、不眠や落ち着きのなさ、頻回に看護師を呼ぶなどの行動を呈します。

 まずは、治療環境がストレスフルな環境であることを念頭に置きましょう。痛みや身体拘束、知らないスタッフ、予期せぬ入院、環境の変化、先の見えない病状、いつもの生活行動の変化などが不安を増強します。

 患者さんにとって今何がつらいのか、何が気になっているのかを丁寧に傾聴し、できる限りのストレスの緩和を試みることが大切です。患者さんの体験的な文脈を大切にし、患者さんの気持ちに添った(共感的)態度を心がけましょう。

状況の認識がうまくいかない場合の対応

 精神科患者さんには認知機能の低下がみられる場合があります。認知機能とは、情報を適切に処理したり、段取りよく行動したり、情緒的な問題を整理したりする機能です。

 この機能が低下するため、一度に情報をたくさん与えられても理解できず、混乱してしまうことがあります。必要な説明はゆっくりわかりやすい表現で伝え、「ここまではわかりましたか?」など患者さんの理解状況を確認しながらかかわりましょう。行動を促すときは「ここまでできましたね。次は〇〇できますか?」と一つずつ指示をしましょう。

 精神科患者さんは、特に自分の状況を周囲に伝えることが苦手です。物事に対する視野が狭くなり、意外に些細なことにこだわっている場合もあります。思い込みを避け、患者さんが訴えやすいよう声をかけましょう。

自殺願望などによって治療に協力的でない場合の対応

 死にたい気持ちを理解することは困難なことかもしれません。命を粗末にすることは医療職の倫理的な感覚に触れる場合があり、さらに自殺をめぐる社会的タブーの感覚もあり、患者さんへの接近が困難に感じられることがあります。

 しかし命を守るためには、患者さんの内面的なケアが求められます。患者さんが危機に直面し、孤立無援な状況に置かれていることを理解しましょう。そのうえで、援助者がそばにいることを示し、共感的で温かい態度を示すことが大切です。

 自殺患者さんへの対応方法として、「TALKの原則」があります。覚えておきましょう。

TALKの原則

対応
T:tell 誠実な態度で話しかける 例)「おつらかったですね。私でよければお話しいただけませんか?
A:ask 自殺についてはっきり尋ねる 例)「今は死にたい気持ちがありますか?」
L:listen 相手の気持ちを傾聴する 例)「そんなことがあったのですね。そういうお気持ちなんですね」
K:keep safe 安全を確保する 例)再企図を防止する。危険物を除去する。看護師の視野に入るようにするなど。「死にたくてつらいときは黙っていないで、スタッフに教えてくださいね」などと提案しておく

精神症状を呈している場合の対応

 幻覚・妄想や精神運動興奮などを呈している場合、刺激を避け、患者さんが安全を感じられる環境を提供します。患者さんには静かで落ち着いた口調で話しかけ、訴えを傾聴し、共感的に接することが必要です。

 特に興奮状態を呈している場合は、患者さんと医療者の双方の安全を確保することが大切です。ルート等の安全確保、室内の危険物の除去や担当スタッフへの安全面でのサポートを行いましょう。

退院への援助

 身体的な課題が解決したら、スムースな退院に向けての援助が必要です。しかし精神科患者さんの場合、疾患を含めてその課題が多岐にわたるため、援助が困難になることもあります。

 例えば自殺未遂の場合、精神症状だけでなく深刻な生活上の問題を抱えているケースがあります。その場合、単に元の環境に戻すのではなく、入院をきっかけに、よりきめ細かなサポートにつなげることで、自殺の再企図を予防する必要があります。精神科の治療機関だけでなく、福祉や行政機関等との幅広い連携を行っていきましょう。


参考文献
・日本臨床救急医学会,監:救急医療における精神症状評価と初期治療 PEECガイドブック,ヘルス出版,2012.
・井上令一,監:カプラン臨床精神医学テキスト 日本語版第3版、メディカル・サイエンス・インターナショナル.2016.