進行乳がん治療におけるパラダイムシフトとは

解説 ナースプレス編集部

Webサイト「ナースプレス」編集部

11月20日、ベルサール八重洲にて「新規の乳がん治療薬、パイブランス®の承認取得 本邦初のCDK4/6阻害剤で進行・再発乳がんに新たな治療選択肢 進行乳がん治療におけるパラダイムシフトとは」をテーマにプレスカンファレンスが開催されました。今回の講演では主に、CDK4/6阻害剤はどのような薬なのか、また、乳がん治療にどのような変化をもたらすのかということを中心に説明されました。その模様をレポートします。


 まず、昭和大学医学部乳腺外科学教授中村清吾先生が「転移・再発乳がん治療の変遷と展望」について講演されました。

乳がん治療の変遷

 医学の発展は日々進み、乳がん治療も同様に変化してきました。1900年代初頭は、診療にものさしを使用し治療は外科手術が主流でした。それが1980年代には、化学療法・ホルモン療法へと移行し、2000年以降は分子遺伝学的アプローチが取られるようになりました。

 そして現代では、啓蒙活動が進んでいることと、子供が少ない、初潮が早く閉経が遅い、など強いホルモンに晒される女性が時代とともに増え、乳がん患者さんは増加しています。早期発見できる乳がんも増えましたが、再発する患者さんも増えています。私たちは、早期発見だけに注目するのではなく、転移・再発した乳がんについても考えていかなくてはなりません。

転移・再発乳がんと初期乳がんは違うもの

 転移・再発乳がんは、乳がんの病期分類のステージⅢC~Ⅳを指します。ⅢB期までは、生存確率が比較的高く、リンパ節の転移がなければ9割は治癒するとされています。一方、転移・再発乳がんの5年生存率は約34%と低くなっています。しかし、Ⅳ期の乳がんの5年生存率は前立腺に次いで髙いため、その他の同期がんと比べると長い予後が期待できます1)

乳がんの病期分類

「初期乳がんの治療目的=がんを治す」ですが、「転移・再発乳がんの治療目的=がんと付き合いながら自分らしく生きる」ことと考えています。根治は難しいですが、乳がんはQOLを維持しながら延命することが可能ながんです。治療方針は、腫瘍の場所や特性だけではなく、症状や、患者さんの価値観、人生観などをふまえて決定します。

乳がんの特性に合わせた治療

 乳がんには、ホルモン受容体(ER)陽性乳がんと、HER2陽性乳がんという2通りの増殖メカニズムがあります。ERとHER2が、陰性または陽性かどうかによって乳がんのタイプが分けられ、治療法が変わります。中でもER陽性かつHER2陰性のものは乳がん全体の70%を占め、これらはルミナルタイプと呼ばれ、この度承認されたパルボシクリブ(イブランス®)の適応となります。

乳がんのサブタイプに合わせた治療

乳がん治療に訪れた変化

 長年ホルモン治療を主流としてきた乳がん治療ですが、2012年のエベロリムス(免疫抑制剤)の登場以降、ホルモン療法に薬剤を併用する併用療法という治療法が増え、年々生存率は上昇しています。また、海外において、パルボシクリブ(イブランス®)はパラダイムシフトを起こすであろうと期待されています。この薬剤の登場がターニングポイントとなり、今後はこれまで以上に生存率が上昇することが期待されています。

 続いて、愛知県がんセンター中央病院 副院長兼乳腺科部長岩田広治先生が「世界初CDK4/6阻害剤がもたらす新しい希望」について講演されました。

パルボシクリブ(イブランス®)という薬

 通常、薬剤が米国で承認されてから日本で承認されるまでには長いドラッグラグがあることが多いのですが、この薬剤においては、2017年3月に米国で正式承認されてから間もなく日本でも承認されました。このことからも、この薬剤がいかに期待されているのかということがわかります。

 手術不能又は再発乳がんで、ER陽性かつHER2陰性の患者さんが対象となります。1日1回125mgを3週間投与し、1週間休薬を1サイクルとして、副作用などで投与困難とならない限り投与を続けます。

パルボシクリブ(イブランス®)が承認に至るまで

 パルボシクリブ(イブランス®)の承認に向け、PALOMA-2、PALOMA-3という臨床試験が行われました。

 試験内容は、まず、定められた登録基準に達した人種や年齢ともにさまざまな患者さんを無作為に注出し、ホルモン療法を単独で使用する群と、ホルモン療法にパルボシクリブ(イブランス®)を併用する群に分けます。PALOMA-2は、一次治療または一次治療で再発のある患者さん、PALOMA-3は二次治療以降の患者さんを対象とし、薬剤を使用しました。

 結果は、PALOMA-2、PALOMA-3ともに無増悪生存期間、奏効率、臨床的有用率など、どの面からもパルボシクリブ(イブランス®)の使用が有用であることを示されました。その上、主な副作用は好中球減少、倦怠感であり、QOLが大きく低下することはありませんでした。

納得できる治療のために

 すでにアメリカでは、ASCOガイドライン2016年版にパルボシクリブ(イブランス®)の記載がありますが、日本のガイドラインにパルボシクリブ(イブランス®)が記載されるまでは、まだ少しの時間を要すると思われます。医療は日々進歩し、治療内容も変化するため、患者さんは受け身になるのではなく、臨床試験のデータやガイドラインをもとに医師と相談をするなどし、幅広い選択肢の中からより良い治療を受けられるようになることが望まれます。自身で選択をするということが、納得できる治療に繋がるのです。


【引用文献】
1) 日本乳癌学会編:乳癌取扱い規約 第17版 金原出版:2012年
2) がんの統計’16

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