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【連載】Newsのツボ

AIは医療分野でどのように活用されていくのかー期待される働きと課題を確認しておこうー

解説 横田慎一郎

東京大学医学部附属病院 企画情報運営部 特任講師(病院)

家庭用犬型ロボットやコンピュータ将棋、そして最近ではAI家電なども登場し、私たちにもぐっと身近に感じられるようになった「AI」。さまざまな分野においてその活用方法が研究されており、医療分野もまた例外ではありません。それでは、AIは医療でどのように活用されようとしているのでしょう。東京大学医学部附属病院企画情報運営部の横田慎一郎さんに話を聞きました。

「AI」とは意外に曖昧で、幅広い意味をもっています

「AI」とは「Artificial Intelligence」の略で、日本語では「人工知能」といいます。この言葉は、実はとても曖昧で、幅広い意味をもっています。入力したデータを一定のルールで処理して答えを出すコンピュータプログラムを指すこともあれば、コンピュータによって行う知的な処理についての研究分野全体を指すこともあるのです。例えば、洗濯物の重さによって洗剤や水の量を調節する洗濯機に生かされている場合もあれば、多様な情報に基づく自動車の自動運転機能にもAIが生かされています。さらに、ビッグデータを活用し、コンピュータによって複雑な判断を行うシステムの研究を指すこともあります。

 AIというとアンドロイドのようなロボットをイメージする人がいるようですが、AIは身体も心も必要としません。現在1つの作業に特化したAIは多くあり、人間の能力を超えるものは少なくありません。しかし、人間のようにいろいろなことができる汎用性をもったAIはまだ登場していません。

AIはいくつかのタイプに分けられます

 AIは、その機能からいくつかの種類に分けられます。ここでは、主な3つについてお話しします。

【記述した知識を使うタイプ】

 これは、「赤信号は止まれ、青信号は進め」のように人間が決めたルールに基づいて機能するものです。そのためには、まずコンピュータが理解できるような形で記述することが必要です。

 医療分野でいえば、ある疾患の診療ガイドラインをコンピュータに理解させ、検査結果、患者状態などの情報を加えることで、AIが診療内容を提案するという可能性が考えられます。

 ただし、これを行うためには、コンピュータに理解できるような記述方法を整理し標準化することが必要です。当大学の大江和彦教授らは、その研究に取り組んでおり、現在、これまでに開発した疾患概念や人体解剖構造について記述した知識の活用について研究を進めています。

【データから学習するタイプ】

 すでにあるデータを正解情報として学習するものです。例えば、大量のネコの画像に「これはネコである」という正しい解答をつけてコンピュータに学習させ、他のネコの画像を識別できるようにします。

 この機能を活用して、私たちが開発したAIがあります。看護師は、入院患者さんに対する転倒リスクのアセスメント・評価を行っており、患者さんの状態の変化に伴って、毎日でも行うことが求められます。開発したAIは、毎日の看護記録データから翌日の転倒リスクを判別するものです。

 そのほか、大江教授らが、胸部レントゲン画像から所見を自動的に抽出するシステムや腎臓の病理検査画像を自動的に分類するシステムなどの開発に取り組んでいます。

【多様な大量のデータから分類・識別するタイプ】

 正しいデータをもとに学習を行うのではなく、さまざまなデータの中から、何らかの仮説を発見するものです。データマイニングとも呼ばれます。

 現在私がかかわっている研究に、自動血球計測装置のデータと電子カルテデータを結びつけ、検査に影響を与える有用な変動要素を探し出すというものがありますが、これもこのデータマイニング技術が用いられています。

医療分野で活用がスタートしている例もあります

 AIが医療分野でどのように活用されているかというと、一部実用化しているものもありますが、全体としてはまだまだスタートしたばかりといえるでしょう。今後の研究の余地は広く残されています。現在実用化された、または実用化に近い事例をご紹介します。

 米国に本社のあるIBMが開発した、A I(IBMでは「Augmented Intelligence:拡張機能」として定義)の技術を活用した仕組み「Watson」を使用して、治療法を提案するシステムが開発されています。2016年には、なかなか治療効果の出ない急性骨髄性白血病の患者さんに対し、Watsonが新たに疾患のタイプを分析し、提案した薬剤の変更を取り入れたことで、治療が進んだというケースが報告されています。

 筑波大学の研究者らによって設立されたCYBERDYNEが開発したサイボーグ型ロボット「HAL®」もセンサーで人間の動きを読み取り、自動制御するという意味でAIが活用されているといえます。医療や福祉の分野ですでに使用されています。

 前項で紹介した転倒リスクを判別するAIについては、データ処理の部分は出来上がっているので、次は、どのように電子カルテに組み込むか、表示をどうするか、機能を加えるかなどを検討している段階です。

実用化を困難にする多くの課題もあります

 AIを実際に医療分野で活用するにあたっては、いくつかの課題があります。

 第一に挙げられるのが、答えが導き出される過程がみえない、いわゆるブラックボックスの中にあるということです。理由はわからないが答えは正しい(と思われる)となると、根拠を前提とする医療では実践が難しいのです。例えば、AIによって治療方法が提案されても、患者さんや家族が納得できるように説明することができません。またそれ以前に、導き出された情報が正しいのかという部分での責任の所在において、倫理的、法律的に問題が生じることも考えられます。

 次に、コンピュータによる処理可能なデータとして、臨床での記録がそのまま活用できないことです。臨床で書かれる診療記録や看護記録などは、書き手によって言葉使いや表現など書き方が異なります。「記述した知識を使うタイプ」の中でも説明したとおり、コンピュータに理解させるには、それに適した形の記述方法を探り、整え、標準化する必要があります。その作業が膨大であり、また医療者によるその使用を徹底する必要があります。ちなみに、現在でも看護記録の標準化のために、厚生労働省による「保健医療情報分野の標準規格」として、医療情報システム開発センター(MEDIS-DC)による「看護実践用語標準マスター」がまとめられています。これからの普及に期待がかかっています。

 また、稀少疾患など、データとして活用できる正確な情報自体が少ないカテゴリーがあるという問題もあります。特に、看護現場のケアについては、明確な根拠をもつものばかりではなく、難しい面が少なくないといえるでしょう。
 

これからの看護はAIをうまく活用することで変わリます

 AIの話題になると、よく「いつか仕事が奪われる」などという言葉が聞かれますが、看護において当面はそのようなことはないと思います。ご安心ください。看護においては、適切な看護技術や知識を提供するだけでなく、患者さんに寄り添って思いをくみ取り、患者さんが精神的な癒しや安心を得られるよう支援することが重要になります。これは、AIにはまだまだ難しいこと。現在は人間にしかできないことといえるでしょう。

 それでは、今後看護とAIの接点はないのでしょうか。それはNoです。例えば、画像から情報を得ようとするとき、見落としを防いだり、的確な見方をガイドしてもらうなどしてAIにサポートしてもらえば、より正確な画像診断が可能になります。そのほか、エラーを探す、多くのデータの中から正確な情報を探し出すなど、AIの機能をうまく活用することで、よりよい看護の実現も期待できます。看護師の場合、異動などにより新たな診療科の看護を一から勉強することになったり、経験年数によって同じ病棟でも能力にばらつきが出ることがあります。AIとうまくつきあうことで、そんな問題も解消され、より少ない労力で、正確な看護提供が実現できるようになるかもしれません。


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