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60歳以上の男性の2人に1人が罹患、前立腺がん診断・治療の最前線〜がんのみを治療、機能温存によるQOLの向上を目指す〜

  • 公開日: 2018/4/19

2018年1月31日、東海大学校友会館にて「60歳以上の男性の2人に1人が罹患、前立腺がん診断・治療の最前線~がんのみを治療、機能温存によるQOLの向上を目指す~」をテーマにプレスセミナーが行われました。演題は「前立腺内部の3次元的がん局所診断とがん局所療法(フォーカルセラピー)」、講演は東海大学医学部付属八王子病院泌尿器科 准教授 小路直先生です。その様子をレポートします。


60歳以上の男性の2人に1人が罹患する前立腺がん

 前立腺は排尿・性機能に関係する臓器であり、日常生活にも大きくかかわっています。前立腺がんは、早期であれば症状がないことがほとんどで、まれに症状が出た場合には精液に血液が混じる、尿が細くなるといった症状がみられます。
前立腺がんには、肉眼でがんを観察できないこと、前立腺内部にがんが多発するという特徴があるため部分治療を行うことが困難です。近年増加傾向にあり、たとえがんが早期で見つかった場合でも、多発していることが少なくありません。

がん発見のためのこれまでの流れ

 まずPSA検査を受け、4.0ng/ml以上の場合を高値とし、前立腺生検が実施されます。PSA検査は採血のみの検査であり、自治体のほとんどが健診に入れているものです。生検とは、病理診断のために組織の一部を採取する検査方法で、現在一般的に施行されている前立腺生検は系統的前立腺生検といい、前立腺全体に均等になるよう針を刺していきますが、局在診断を行うことは事実上不可能です。また、生検には出血、感染症、痛み、がんの見逃しの可能性というリスクがありました。

進歩する画像診断

 前立腺がんの予後に関して、Significant cancerという概念があります。これは、実際に患者さんの予後に影響を及ぼすがん病巣は体積0.5㏄以上のがんであり、特にindex lesionという前立腺の中で最も大きくあるいは悪性度の高いがん病巣が、がんの進行にかかわるという考え方です。これまではPSA4.0ng/ml以上の場合はそのまま生検をするという流れになっていました。生検の前に3㎜スライスの核磁気共鳴画像(MRI)で撮影し、MRIで評価することでがんが疑われるかどうかの判断ができます。さらにSignificant cancerの多くが見つかるようになりました。

早期発見のための当院における検査の流れ

 前立腺がんを早期発見するために、まずPSA検査をします。従来のやり方では、PSA4.0ng/ml以上であればそのまま生検を行うという流れになっていました。しかし、当院ではその後にMRIを用いた評価をします。そして、がんが疑われる場合にのみ前立腺生検を行います。

 たとえPSA4.0ng/ml以上の場合であっても、がんが疑われないこともあります。その場合はPSA10ng/ml未満であれば、3カ月後にPSAの再検査ということになります。

より精度の高い生検を可能に

 検査でがんが疑われた場合は生検を行うことになりますが、生検自体もこれまでより精度の高い核磁気共鳴画像-経直腸的超音波画像融合画像に基づいた前立腺生検という方法で行います。この生検技術では、MRI画像とTRUS(超音波)を組み合わせた融合画像を使用することで前立腺がんの場所・形状・悪性度を知ることができます。このように新しい生検を行った結果、前立腺がんの検出率が向上し、がんの有無だけではなく、より詳細な情報を得ることができるようになりました。

早期前立腺がんの治療と患者さんの負担

 早期前立腺がんの治療には、根治的治療と無治療監視療法があります。前者は外科的切除や放射線治療を行い、がん根治を目指しますが排尿や性機能への影響は不可避であり、これは海外の論文でも証明されています。一方、後者は機能を温存しますが、がんと共存することに対する不安は残ります。また、経過をみるために3カ月に1回血液検査を行い、PSAの数値の上昇がないかを確認する必要があります。どちらの治療であっても、患者さんの負担は避けられないものでした。

画期的な治療法の登場

 そこで新たに登場した治療法がHIFU(高密度焦点式超音波治療法)を使用した前立腺部分治療(フォーカルセラピー)です。特殊な治療器を使用して、超音波エネルギーを小さな領域に集中させ、熱凝固で狙った領域のがん細胞を壊します。適応は、体積が小さく神経を治療せずに尿道や前立腺を残せる場合です。フォーカルセラピーは身体にメスを入れずに行うことができ、がんとその周囲のみを治療することが可能なため、排尿や性機能に影響する部分を可能な限り温存することができます。治療は1時間以内で行われ、24時間に退院することができ、治療後の排尿・性機能への影響も少なくてすみます。

 このように前立腺がんの治療は、これまでとは全く違った新しい診断技術により発展をみせています。より患者さんに負担や不安の少ない治療のため、生検・MRIの精度を高める研究が続けられています。

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