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【連載】臨床で使える精神科看護

精神疾患の患者さんの家族を理解しよう

執筆 荻野夏子

東海大学健康科学部看護学科 講師

Seisinkango

精神科看護における家族理解

 看護ケアを実践するとき、家族を含めた支援を考えることはとても重要です。患者さんにとって家族の存在は大きく、日々の実践の中で重要性を感じることができるでしょう。今回は、精神科患者さんの家族ケアに必要な視点を整理します。
 
 まずは、臨床的にみられる特徴について、精神科患者さんの身体管理をするうえでどのようにみていけばよいのか考えてみましょう。

精神疾患を発生させる家族タイプは存在しない

 精神科疾患には、歴史的に多くの誤解や偏見がありました。現在も多くの誤解や偏見がみられます。その1つとして「精神疾患を発生させる家族タイプがある」というものがあります。これは科学的に否定されているもので、看護者もしっかり理解しておきましょう。どんな家族であっても、精神的に健康な人が育ち、また精神疾患が発生する可能性があります。精神科疾患が発生しやすい特定の家族タイプがあるわけではありません。

精神科患者さんの家族を理解する視点

 精神科患者さんと家族の相互作用の研究はすでに多く発表されています。今回は代表的な2つの視点を整理しましょう。さまざまな立場の家族の気持ちを受容し、理解することから看護ケアを行っていきましょう。

①感情表出理論(Express Emotion:EE)からの視点
 イギリスで退院後の統合失調症患者さんを調べたところ、家族と過ごすよりも一人暮らしのほうが再発しにくいことが発見されました。そこで、家族のどのような面が再発につながるのかを調査したところ、家族の患者さんへの接し方に課題があることがわかりました。特に、家族の感情表出が注目されています。

 感情表出とは、相手に対してどのように感情を表すかということです。不安や不満を本人にぶつける、何も言わないなど、いろいろな感情表出のスタイルがあります。統合失調症が再発しやすい感情表出は、「批判」「敵意」「過度の感情的巻き込まれ」などが強くみられる場合で、これを「EEが高い(高EE)」といいます。そしてそれ以外を「EEが低い」といいます。

 精神科患者さんの場合、精神症状や情緒的な混乱、入退院を繰り返すなど、家族の生活に多大な影響を与える病気の状態像があります。すると、家族は心配や不安が強くなり、患者さんの言動に過敏に反応したり、細かく注意したり、過保護になってしまったりするでしょう。患者さんに対して批判的な感情をぶつけてしまう陰には、心配や戸惑いなどの家族の気持ちがあることを知っておきましょう。

②機能不全家族という考え方からの視点
 機能不全家族という考え方は、アルコール依存症の家族理解の視点で発達しました。現在も家族の状況を理解する1つの考え方として用いられています。

 機能不全家族とは、主に「子どもが健全に育つための家族機能を十分に果たせない家族」を指しています。その原因は、親のアルコールや薬物などの嗜癖の問題、配偶者や子どもへの暴力など家庭内暴力の問題などです。子どもの健全な成長には、家族の中で安心や安全を感じられるような安定した環境が必要です。親が自分のことで精いっぱいで、子どもを子どもらしく扱えない状況では、子どもは親に頼れず、人間関係の基礎となる基本的信頼関係を十分に経験できません。それが、子どもが社会で親しい人間関係を築くことが難しくなるなどの問題を生じさせます。

 身体疾患で入院してくる精神科患者さんの中には、すでに高齢で、子ども世代がキーパーソンになっている人も多くいることでしょう。場合によっては、病気をもつ親への態度が不自然だったり、意外なほど親子の関係性が希薄にみえる家族に出会うかもしれません。その場合「親は何より大切に思うものでしょう」などと決めつけた単純な見方では、家族の複雑な思いを理解できないかもしれません。大切でありながら、一方でほかのたくさんの感情を整理できないまま併せもっていることだってあるのです。家族の理解に役立てていきましょう。

精神科患者さんの家族へのアプローチ

 精神科看護では、患者さんの家族に対しては、それぞれのケースに合わせたアプローチの仕方があります。

心理教育(家族教室等)

 精神科患者さんの家族に対して、心理教育を行っている医療機関は多くあります。主な内容は、病気や症状に対する正しい知識や対処方法を知る、患者さんへの接し方を知る、また家族同士のつながりを作るといった教育的なプログラムです。

 病気についてさまざまな知識を得ることは、家族の戸惑いや不安、ストレスを緩和する効果があります。家族には、病気の人との暮らしの中で使えるような、自分なりの対処方法をみつけていくことがとても重要です。精神科疾患では、一般的に情報が乏しい背景あり、正確な情報をもとに家族の準備性を高めることが必要になります。

家族療法

 家族全体を治療の対象としてかかわる精神療法を家族療法といいます。これは、家族の相互作用に焦点を当てます。例えば、母親と摂食障害の娘が病的に密着している家族の場合、母だけ、娘だけを治療しても十分な効果が得られないことがあります。この場合、父親などほかの家族メンバーを含めた家族全体の相互作用を見直すことが必要です。

 とはいえ家族というグループには、形を保つ、バランスを維持するという無意識の恒常性が働いていて、不健康な状態であっても現在の安定を維持しようとする無意識の働きが存在します。家族療法では、家族面談を行い、家族の状態を見直して新たな健康的バランスをとれるように支援していきます。

ピアグループ活動

 多くの地域に家族会という組織があります。場合によっては、精神障がい者の兄弟の会、配偶者の会など特色のある組織で活動を行っているケースもあるでしょう。精神科患者さんの場合、疾患に誤解や偏見もあり、家族が身近な相談者をみつけられないことがあります。社会的な孤立は家族にとってとても深刻な問題です。仲間がいること、同じ経験を分かち合えること、先を行く先輩をみて自分の将来を想像できるようになることなど、ピアグループ活動からはさまざまな恩恵を得ることができます。

 地域でのピアグループ活動の情報は、市町村の保健センターや保健所で得ることができます。

精神科患者さんの家族への接し方

 精神科患者さんが何らかの身体症状を呈して受診・入院してきた場合、家族に対するかかわりも重要になります。これまでに述べてきた精神科看護の視点を踏まえて、どのように接していけばよいかをまとめます。

関係性の構築を図ろう

 日常的な看護場面では、家族の話をよく聞き、受容的・共感的な態度を心がけましょう。些細なことでも相談しやすいように、積極的に声をかけることが大切です。また、家族にはそれぞれの立場や考えがあります。それぞれの家族の思いに耳を傾けましょう。

家族の負担を知ろう

 日本の家族の概念では、病気や介護の場面では家族に重い負担がのしかかります。精神科疾患をめぐり家族が負う負担やプレッシャーは想像以上に大きく、そのうえで身体疾患を治療する事態においては、家族が疲弊して十分に機能できないことがあるかもしれません。家族の立場への理解を示し、看護師が相談役となれるような関係づくりを心がけましょう。

家族内の関係性や機能に注目しよう

 どの家族内にも人間関係があります。特別に仲のよいペアや、相性がよくなく折り合いが悪いペアがいることもあるでしょう。同様に精神科患者さんの家族内にもさまざまな人間関係があります。例えば、主たる介護を行っている人、話がしやすく気持ちを聞き出せる人、説明が上手で調整が得意な人などがいる一方で、患者さんの感情を刺激してしまう人、妄想の対象になってしまう人、無理なことを言われても止められない人などもいます。だれがどのようにかかわることが効果的なのか、情報収集を行い、判断していきましょう。

家族外のサポート資源も活用しよう

 精神科患者さんの地域生活を支えているのは、家族だけではありません。訪問看護や福祉事業所で支援を受けていたり、相談支援の事業所につながっていたりする場合があります。家族や患者さんと信頼関係ができている人と積極的に連携し、チームでかかわる視点をもちましょう。

家族への継続支援体制を構築しよう

 家族にとって経済面や制度面でのサポートも重要です。精神科患者さんが身体疾患になった場合、身体疾患から生じる経済的負担、介護負担など、より複雑な問題が新たに加わります。そのような状況に耐えうる継続的な支援体制を構築できるよう、多職種でチーム作りをすることが大切になります。


参考文献
●杉下知子 編著:家族看護学入門,メヂカルフレンド社,2000.
●井上令一 監:カプラン臨床精神医学テキスト 日本語版第3版,メディカル・サイエンス・インターナショナル,2016.

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