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超高齢社会における「まさか」に備えた肺炎予防 ~インフルエンザパンデミック、東日本大震災との関連から考察する~

編集 ナースプレス編集部

Webサイト「ナースプレス」編集部

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Gakkai report

4月3日に丸ビル・コンファレンススクエアにて、MSD株式会社によるメディアセミナーが開催されました。肺炎と、肺炎球菌感染症の定期接種制度の実績と今後の課題について、さらに東日本大震災や定期接種制度がワクチン接種に与えた影響について、順天堂大学医学部総合診療科の内藤俊夫先生が講演しました。そのセミナーをレポートします。

肺炎の原因菌のトップは肺炎球菌

 内藤先生はまず、かつての日本の三大死因は、がんと心疾患、脳血管疾患でしたが、最近は死因の第3位が脳血管疾患から肺炎に変わったと、「日本における死因別にみた死亡率の年次推移」のグラフを示しました。

 また、内藤先生の個人的な見解として、「がんで入院しても肺炎で亡くなることはよくあること。心疾患やがんの中に、結構な率で肺炎で亡くなっている人がいるので、肺炎の与えるインパクトは大きい。特に高齢者が肺炎で命を落とすことが多い」と述べました。

 感染症を起こすものにはウイルスと細菌があり、内藤先生は毎日の外来で細菌感染の人を見つけ出し、抗菌薬を使うことが外来医師の大切な仕事で、ウイルス感染で命を落とすことはまずないので、細菌感染のほうが100~1000倍怖いといいます。

 また、高齢者が肺炎にかかると、認知症が進んだり、入院によって足腰が衰えるなど、いろいろな問題が起こります。

 肺炎で一番多い病原菌は図1のように、肺炎球菌で約2割を占めます。しかし、実際には肺炎球菌が4~5割を占めるのではないかという研究もあります。

肺炎で一番多い原因菌
日本呼吸器学会成人肺炎診療ガイドライン2017作成委員会,編:市中肺炎.成人肺炎診療ガイドライン2017.2017,p.10.

 一般的に細菌やウイルスに感染しないためには、「マスク、手洗い、うがい」と言われていますが、内藤先生は「うがいは効果が期待できず、マスクの防御効果もゼロ、大切なのは口腔ケアで、口の中の菌を減らしておくことが肺炎の予防には大切だ」とし、それに加え、肺炎球菌ワクチンとインフルエンザワクチンの両方の予防接種を受けることだといいます。
 そして「よくインフルエンザが怖いと言われるが、インフルエンザにかかると、気道や肺がボロボロになり、細菌性肺炎を起こしやすくなることが怖い」と述べました。

肺炎球菌ワクチン接種による医療費削減効果は大きい

 ワクチン接種による社会的負担の軽減効果を、さまざまなワクチンと比較した結果、肺炎球菌ワクチンの削減効果が他のワクチンに比べ、桁違いに高いことを示しました。

 また、60歳以上の人に肺炎ワクチンを接種すると、肺炎の罹患率は約20%低い水準となり、重症化予防により1人あたりの医療費は未接種の118万円に対し、接種した場合は35万円と、3分の1の水準になることを経済財政諮問会議の調査で紹介しました。

 欧米諸国の高齢者肺炎球菌ワクチン接種率は、イギリスが約7割、アメリカが約6割、オーストラリアが約5.5割なのに対し、日本は約2割と低く、「日本ではワクチン自体が遅れている」といいます。

 そして公費補助と接種率の関係をみると、公費助成がゼロの場合の接種率は14%、全額補助する場合は50%とアメリカ並みになるとして、肺炎球菌ワクチン接種の普及には、公費助成の有無が重要な役割を果たすことを示しました。

 こうしたデータを背景に、平成26年度から高齢者の肺炎球菌感染症の定期の予防接種が始まり(図2)、65歳以上の人から5歳きざみで定期接種が行われています。この定期接種により、65歳の全国平均接種率は4割となり、「来年には8割ぐらいになるのではないか」と内藤先生はみています。

高齢者の肺炎球菌感染症
1.政令第247号 予防接種法施行令の一部を改訂する政令より抜粋
2.健発0716第31号「予防接種法第5条第1項の規定による予防接種の実施について」の一部改正についてより抜粋
3.厚生労働省令第80号 予防接種実施規則の一部改訂より抜粋

肺炎球菌ワクチン接種の普及のために

 次に東日本大震災が接種率にインパクトを与えた話として、内藤先生が参加した支援活動を紹介しました。
内藤先生はプライマリ・ケア連合学会の要請で、単独で気仙沼に行き、医療支援として必要なものを調査しました。そして肺炎予防のワクチン接種を提案し、MSDからワクチンの無償提供を受け、気仙沼市の約5000人の65歳以上に接種を開始。その後、日本赤十字により宮城県、岩手県、福島県で高齢者肺炎球菌ワクチン接種費助成事業が行われました。その結果、現在の全国接種率が約6割に対し、東北3県は約8割となっており、東日本大震災と接種率の関係、接種費助成事業などの効果を示しました。

 では、予防ワクチンはいつ打てばよいのでしょうか。インフルエンザは毎年敵(ウイルスの型)が変わるため、ワクチン接種も毎年打つ必要があります。一方、肺炎球菌ワクチンは敵は同じですが、ワクチンの効果が5年ほどで落ちるため、5年ほど経過したらもう一度打つ必要があり、季節はいつでもよいとされています。

 また、肺炎球菌ワクチン再接種のガイダンスを示し、「そこでは65歳以上で打ったかどうかわからない人は打ちましょう」として、打たないことのリスクのほうが、2回打つリスクよりも大きいと説明しました。
そして、接種率を上げるために、「我々がカルテにチェックするだけでも、接種率が増える」として、順天堂大学病院の電子カルテを紹介。転倒転落リスクなどとともに、肺炎球菌ワクチンを打ったかどうかのチェック項目がテンプレートにあることを示しました。

 最近ではQI(クオリティ・インディケーター)の指標として、肺炎球菌ワクチン接種率が使われるようになってきたことも紹介しました。

 最後にまとめとして、「災害が起きたからワクチンを打つのではなく、普段からどのタイミングで打つかを、電子カルテのテンプレートに入れておくとよい」として、①定期接種の案内がきたとき、②初診時、③健康診断時、④退院時、⑤インフルエンザワクチン接種時、の5項目を挙げました。

 特にインフルエンザワクチンワクチンの接種に来た65歳以上の人には、そのときに肺炎の話もして、一緒に打つように勧めることが効果的であると話し、講演を結びました。

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