お気に入りに登録

【連載】酸素の上げどき?下げどき?

労作時のサチュレーションの低下は危険信号[うまくいかなかったcase]

執筆 小室圭子

草加市立病院 慢性呼吸器疾患看護認定看護師

O2updown

酸素の上げ下げを考えるとき、患者さんが低酸素状態になっているかどうかを見極めなければなりません。ここでは、うまくいかなかった事例から見極め方を解説します。


事例紹介

75歳男性間質性肺炎
合併症:非結核性抗酸菌症(NTM)、肺アスペルギルス症

●入院に至る経過
2年前に間質性肺炎の診断を受けたが、呼吸状態は安定していた。外来フォロー中に合併症が出現し、内服治療を開始した。血痰の喀出は認めるものの、止血剤の内服でコントロール良好であった。しかし、1週間前から咳嗽と喀痰が増加したため、受診したところ炎症反応が上昇。喀痰よりNTM検出、浸潤影の増大を認め、NTM感染の疑いにて入院となった。入院時は、「咳が出るとなかなか止まらないからつらい」と話すが、ADLは自立していた。

●入院時の状態
[バイタルサイン]
体温36.0℃、脈拍109回/分、血圧93/61mmHg、呼吸回数16回/分、SpO2 96%(室内気下)
[身体所見]
呼吸音正常、両側肺野fine crakles(+)、右上肺野coase crakles(+)、血痰(+)、咳嗽(+)[画像検査]胸部X線網状影、CT 蜂巣肺


間質性肺炎とは
間質性肺炎は、肺の間質(狭義では肺胞隔壁、広義では小葉間間質、胸膜近傍などを含む)を炎症の場とする疾患で、さまざまな原因によって肺胞壁に炎症を起こし、壁が厚く硬くなり(線維化)、呼吸をしてもガス交換に時間がかかります。

 肺胞壁は保たれていても、小葉間隔壁や肺を包む胸膜が厚く線維化して肺が膨らむことができなくなる病態も知られるようになりました。線維化が進んで肺が硬く縮むと、蜂巣病変(嚢胞)ができて胸部CTで確認されます。

 特徴的な症状は、歩行中や入浴・排便などの日常生活の動作の中で感じる労作時呼吸困難、乾性咳嗽。長年かけて次第に進行してくるため、自覚症状が出るころにはかなり病態が悪化していることが多いですが、風邪様症状の後に急激に呼吸困難となる急性増悪で病院に搬送されることもあります。

 男性に多く、発症は通常50歳以降であり、危険因子として「喫煙」がもっとも重要です。原因を特定できない間質性肺炎を「特発性間質性肺炎」と呼び、特定疾患治療研究事業対象(公費対象)の疾患となっています。

酸素療法の経過(図1)

酸素療法の経過

●入院10日目

 患者さんのSpO2が87%となっていたので、アセスメントしたところ「トイレに行ってきた。行きはいいけど帰りはフラフラしちゃうからつらいよ。入院して体力が落ちたよ」とのこと。会話中にSpO2は93%まで上昇しました。
 SpO2モニターを装着して、トイレ歩行を実施(図1)。室内気下で歩行を開始すると、SpO2が85%まで低下したため、酸素2L(カニューラ)を開始して排泄行動を行いました。しかし、SpO2はさらに80%まで低下したため、酸素流量を5Lまで上げ、動作を止めて呼吸を整えました。SpO2 95%(BorgCR-10スケール:7→1)まで上昇したところで排泄行動を再開すると、SpO2 84 ~ 86%で経過しました(Borg CR-10スケール:4)。

 ベッドへ戻り安静にし、1分後にSpO2 98%(酸素5L /カニューラ)のため、酸素を1Lずつ減量しました(Borg CR-10スケール:0.5)。2分後のSpO2は95%(室内気下)(Borg CR-10スケール:0)、3分後のSpO2は97%(室内気下)(BorgCR-10スケール:0)でした。

 24時間SpO2モニターを継続すると、SpO2が83 ~ 97%(室内気下)を繰り返し、日中のSpO2の変動が多いことがわかりました。また、夜間に持続的なSpO2の低下(90%以下)を認め、酸素1ℓを開始すると、就寝時SpO2は95 ~ 97%をキープできました。

●入院11日目

「酸素をしたらよく眠れた。体が楽だ」という発言がありました。

 就寝時(酸素1L)、日中(酸素3L)、食事・トイレ歩行時(酸素6ℓ)に酸素を使用すると、SpO2が90%以上と安定し、少しの体動でSpO2 80%台となるものの、30秒程度でSpO2 90%台へ回復しました。しかし、酸素を使用せずにトイレ歩行を行うと、SpO2 60 ~ 70%に低下することが度々発見されました。

BorgCR-10スケール

うまくいかなかったわけ

●ベッド上で安静時の測定だったので本当のSpO2のデータがわかっていなかった

 患者さんは2年前より間質性肺炎の診断があり、網状影や蜂巣肺を認めていました。間質性肺炎の増悪期には「間質に炎症が起こって厚さが増す」ことによって、肺胞気にある酸素がヘモグロビンに到達するまでの時間がとても長くなり(拡散障害)、低酸素血症になります。

 入院時の検温は、ベッド上で安静にしているときに測定したため、酸素必要量が少なくガス交換が十分行え、SpO2の低下が認められなかったと考えられます。

[上げどきはココ!]排泄行為
トイレに行くときはSpO2の低下はなかったが、ズボンを下げるなどの動作ではSpO2の低下が認められ、トイレからベッドへ戻るときにはSpO2が著明に低下していた。排泄行動では、一連の動きによるSpO2の変動を確認し評価することが大切である。

●低酸素血症に身体が慣れてしまっていた

 今回、合併症を起こして血痰や咳嗽などの症状が出現しており、間質の炎症や線維化はさらに進行していたと考えられます。

 2年前から肺の炎症や線維化は認められており、患者さん自身がコントロールしながら日常生活動作を行っていましたが、低酸素血症に身体が慣れてしまっていたため、「苦しい」と感じられず、「フラフラする」という表現になった可能性があります。

 また、トイレ歩行などの労作で血流速度が早まると、酸素化されない血液が増えて、SpO2が低下したと考えられます。

●入眠中の低酸素血症は早くから出現していた

「酸素をしたらよく眠れた。身体が楽だ」という言葉から、拘束性換気障害、肺容積減少により、入眠中の低酸素血症は入院前より出現していたものと考えられます。

 夜間の酸素投与開始により、肺胞気酸素分圧(PAO2)を高く保つことで、体動時の低酸素血症を改善することができました。

[上げどきはココ!]就寝時
就寝時は見落としがちであるが、全肺気量の低下に加えて体動による低酸素血症が頻発してSpO2の低下が起こる。一般的に拘束性換気障害では、酸素投与によるCO2ナルコーシスを考慮する必要がなく、吸入気酸素濃度を高めることにより酸素化を保つことが大切である。酸素流量は低流量から開始し、SpO2が90%以上となるように調節していくことが重要。

[下げどきはココ!]SpO2 98%以上が続くとき
就寝中または日中でも安静時にSpO2が医師の指示以上の数値となり、長時間(例えば30分以上)下がらなかった場合には、PaO2が不必要に上昇していると考えて酸素流量を減らすべきである。医師から指示がなくても、SpO2 98%以上が続く場合には減量すること。

●日常生活動作により身体は低酸素症の状態が度々起こっていた

 歩行する以外でも、日常生活は、着替え・食事・飲水・洗面など常に身体を動かしていることが多く、身体は低酸素症の状態が度々起こっていたと考えられます。

 ここで、酸素療法が開始されたことにより、少しの労作で起こる低酸素症に対しての酸素化も改善されて呼吸が楽になりました。しかし、残念ながら患者さんは「トイレくらいは酸素がなくても行ける」と考えるようになってしまったのではないでしょうか。酸素を使用せずに歩行すると、低酸素血症によるSpO2の低下が著明であり、その度に、低酸素症に逆戻りしていることになります。

[上げどきはココ!]日常生活動作時
間質性肺炎の患者さんでは、安静時のSpO2の低下や息切れ、呼吸苦の訴えがなくても、fine craklesやcoase craklesを認めている場合、日常生活動作(食事・排泄・洗面・更衣など)による低酸素血症が出現していることが多い。

*間質性肺炎は痰が少ないのでfine craklesのみが一般的であるが、このケースでは、合併症のNTMと肺アスペルギルス症があるためにcoase craklesがある。

今回も、入院直後からこのような状態が続いていたのではないかと考えられた。

どうケアすればよかった?

●労作ごとの低酸素血症の程度を評価する

 日常生活では、食事、洗面、更衣やトイレなどの運動量が多い労作と、ベッド上でお茶を飲む、字を書く、身体の向きを変えるなどの軽労作があります。

 看護師は、患者さんの生活パターンを観察し、労作ごとの低酸素血症の程度をSpO2の値を参考に評価を行う必要があるでしょう。

●酸素量を調節する

 初期酸素投与量は、SpO2が90%以上となるように投与量を調節します。一般に酸素カニューラの場合は、酸素流量が1L/分増えるごとにFiO2は4%上がるとして設定します。

 また、酸素流量は、運動量が多い労作は多く、軽労作では減量します。日中の生活は軽労作によるSpO2の低下が頻発するため、SpO2のモニタリングを行いながら安定した酸素化が得られる酸素量を見極めることが看護師の大切な役割です。

●SpO2の数値の変化を

 患者さんとともに確認する「低酸素血症が酸素療法によって改善されている」ということを可視化するために、室内気下で安静時と労作時のSpO2の数値を患者さんとともに確認をしましょう。

 酸素を開始してSpO2値が上昇するところを患者さんとともに確認をすることは、患者さん自身が「酸素療法は必要な治療である」と理解することにつながり、正しく酸素療法が行えるための第一歩になります。


COLUMN 正しい呼吸法の指導

一般的に拘束性肺疾患の患者さんの労作時の適切な呼吸法は、呼気が長い口すぼめ呼吸ではなく、1:1の割合で鼻から吸って口から吐く早い呼吸です。

口すぼめや深くゆっくりとした呼吸では、呼吸のタイミングが合わずに息切れが増悪することもあります。酸素化の改善につながる正しい呼吸法を指導することが大切です。

(ナース専科マガジン2015年3月号より転載)

ページトップへ