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【連載】酸素の上げどき?下げどき?

CO2ナルコーシスにつながる危険なケース[うまくいかなかったCASE]

執筆 伊是名若菜

北里大学東病院 慢性呼吸器疾患看護認定看護師

O2updown

酸素の上げ下げを考えるとき、患者さんが低酸素状態になっているかどうかを見極めなければなりません。ここでは、うまくいかなかった事例から見極め方を解説します。


事例紹介

84歳男性肺炎
**喫煙歴:20 ~ 80歳頃まで1箱/日程度、身長165cm、体重50kg、BMI18*

●入院に至る経過
2~3年前から慢性的な咳嗽と喀痰があった。1カ月半程前から咳嗽がひどくなり膿性痰が出ていたが、発熱がなかったため、風邪だと思い、市販の風邪薬を内服し様子をみていた。徐々に食欲低下・活動低下がみられ、入院当日は、朝になっても起きて来ずぐったりしていたため家族が付き添い、受診となった。肺炎と診断され、肺炎の治療目的で入院となった。

●入院時の状態
[バイタルサイン]
体温37.4℃、脈拍120回/分、血圧140/92mmHg、呼吸回数32回/分、SpO2 94%(室内気下)
[画像検査] 胸部X線右肺野に2/3の陰影、胸水貯留なし
[採血データ] WBC 19000/μL、CRP 23mg/dL
[動脈血液ガス検査] 未実施
[身体所見] 呼吸困難感なし、喘鳴あり


COPD(慢性閉塞性肺疾患)とは
肺気腫と慢性気管支炎が統一して定義された疾患概念。有毒な粒子やガスの吸入によって生じた肺の炎症反応に基づく進行性の気流制限を特徴とする疾患です。

気流制限は、通常進行性で、有害な粒子やガスに対する肺の異常な炎症性反応と関連しています。COPDの危険因子には喫煙・大気汚染などの外因性危険因子と、患者さん側の内因性危険因子があります。

喫煙はCOPDの最大の外因性危険因子であり、日本人のCOPDの原因のほとんどは喫煙です。他に職業上の粉塵や化学物質(蒸気、刺激性物質、煙)、受動喫煙、呼吸器感染などがあります。

主な症状は、労作性の呼吸困難、慢性の咳嗽、喀痰です。これらの臨床症状がある場合や、喫煙歴など危険因子を有する中高年者であれば、COPDを常に疑うべきです。

COPDに典型的な身体所見は重症になるまで出現しないことが多く、気管支拡張薬投与後の呼吸機能検査で1秒率が70%未満でればCOPDと診断されます。ただし、他の気流閉塞をきたす疾患を除外することが必要です。進行すると低酸素血症、高二酸化炭素血症、低栄養状態、体重減少などが生じ、予後不良の因子となります。

酸素化と酸素療法の経過(図)

酸素療法の経過

●入院当日

 痰が多いものの、呼吸が浅表性で咳嗽力が弱く、患者さんはうまく自己喀痰できませんでした。看護師が適宜吸引で痰を除去していましたが、スッキリ引けませんでした。日中のSpO2は92~94%を維持。

 22時にSpO2 76%に低下。咽喉元に痰の貯留がみられました。促しても自己喀痰できなかったため、吸引を行いましたが、拒否が強く、このときも痰はスッキリ引くことがでませんでした。呼吸困難感の訴えはなく、呼吸回数24回/分。主治医から「SpO2が90%以下のときは酸素を1Lから開始。それでもSpO2が90%以上に上昇しないときは1Lずつ増量」と、指示がありました。

 22時30分に単純酸素マスクで酸素を1Lで開始しましたが、22時45分にSpO2 78%のため、酸素を2Lへ増量。

 23時に酸素3Lに増量したものの、SpO2 88%までしか上昇しなかったので、その後、1Lずつ増量し、23時45分に酸素6Lまで増量。SpO2 91%に上昇したため、6Lを流し続けました。

●入院2日目

 1時に吸引後、SpO2が94%まで上昇していたので6Lを継続しました。

 2~6時まで1時間ごとにラウンドして、SpO297 ~ 99%を維持していることを確認。患者さんは入眠中で6Lのまま流し続けました。

 8時の声かけ時に反応がなく、意識レベル低下を発見。下顎呼吸で自発呼吸が弱く、大量の発汗がみられたため、すぐに主治医へ報告しました。

 動脈血液ガス検査の結果、PaO2 117Torr、PaCO287.3Torr、HCO3 29.6、pH7.153であり、意識レベルの低下とともに呼吸が停止し、挿管。人工呼吸器管理となりました。

うまくいかなかったワケ

●潜在的なCOPDのⅡ型呼吸不全であった

 喫煙歴や慢性的な咳嗽や喀痰がみられていたことから、患者さんは潜在的なCOPDだったと考えられます。そして、肺炎になる以前から、COPDによるⅡ型呼吸不全(低酸素血症・高二酸化炭素血症)の状態であったと予測されます。このような患者さんの場合、正常な呼吸刺激(PaCO2のわずかな上昇による呼吸数上昇)による呼吸の調節が失われ、異常な呼吸刺激(PaO2 < 60Torrのような低酸素状態による呼吸数の確保)によって呼吸が保たれています。

 この症例では、SpO2が95%(PaO2 > 60Torr)を超えても酸素吸入を継続したため、低酸素による呼吸刺激が出なくなり、呼吸が停止しました。

[下げどきはココ!]CO2 ナルコーシスの防止
適切な酸素吸入を実施するために、患者さんが「潜在的なCOPDのⅡ型呼吸不全である」ことに、生活習慣、症状などから気づくべきであった。安定期のSpO2 値を予測し、目標値として設定する必要があった。基本的には、医師がそれに気づいて上限つきの酸素投与指示(例:90<SpO2<95%)をするべきだった。

●普段から低酸素血症の状態であった

 COPDは換気血流不均等分布のために低酸素血症が生じ、病態が進行すると気腫化や気道狭窄による換気障害から肺胞低換気となり、Ⅱ型呼吸不全が起こります。進行が遅いため、患者さんの中には、徐々に低酸素という状態に適応していき、SpO2が低くても呼吸困難感を感じずに生活をしている人もいます。呼吸困難感の訴えがなかったのは、普段から低酸素に慣れていたことが考えられます。

 さらにCOPDの急性増悪期には呼吸困難・咳嗽・喀痰などの症状が日常の生理的変動を超えて急激に悪化するために、換気血流比の不均等ばかりでなく、部分的なシャントや、間質の肥厚によるガス交換障害などが起こってさらに低酸素血症が悪化します。

 患者さんは入院時には、SpO2 94%と低酸素状態ではありませんでした
が、それは、肺炎のために呼吸回数が増加し、SpO2値が普段よりも高くなっていたためであり、普段は低酸素血症の状態であったと考えられます。

[上げどきはココ!]低酸素血症への対応
患者さんが普段から低酸素血症の状態であったことをもっと早く気づくべきであった。入院するほどの肺炎であれば、日中落ち着いていたとしても夜間に呼吸状態が変化することが予測できる。短い間隔でSpO2を測定するか、持続モニターを使用して早く低酸素血症に気づき、酸素投与を開始したほうがよかった。

●呼吸回数の増加による呼吸筋疲労があった

 慢性呼吸器疾患でⅡ型呼吸不全のある、やせ型の患者さんにとって、急性増悪による呼吸回数の増加が数日持続することは呼吸筋の負担になります。この患者さんは入院前から食欲低下もみられ、たんぱく・エネルギー栄養障害が示唆されていました。

 普段より大きな呼吸筋の運動が必要な状態で経過したため、入院時すでに呼吸筋疲労があったと考えられます。

[上げどきはココ!]呼吸筋疲労
患者さんは、普段からギリギリ酸素が不足しない最低限の呼吸回数で生活していたと考えられる。しかし、発熱により必要酸素量が増えると、呼吸回数を増やす必要が生じてやがて呼吸筋疲労になることがある。やせ型のCOPDの患者さんが、数日間続く呼吸困難や食欲不振で入院した場合には、特に低酸素症に注意が必要である。

●酸素の過剰投与によりCO2ナルコーシスに至った

 患者さんは、COPDで慢性的に低酸素血症・肺胞低換気の状態が続いていたところへ感染症を合併して、さらに換気血流比の不均衡が進行したため、低酸素血症で酸素吸入が必要となりました。

 酸素吸入開始後、徐々に低酸素血症が改善したため、呼吸状態が安定しましたが、そこで酸素吸入を同じ量のまま継続したために、SpO2が普段の上限である95%を超えて100%に近い状態まで上昇しました。低酸素による呼吸刺激がなくなったため自発呼吸が低下し、意識レベル低下、つまりCO2ナルコーシスに至ったのです。

[下げどきはココ!]意識レベルの低下
看護師は高二酸化炭素血症に早く気づくことが必要であった。この患者さんはPaO2(またはSpO2)が高すぎる状態であったため呼吸回数が低下し、高二酸化炭素血症になって意識状態が悪化した。夜間で意識レベルの確認は難しいかもしれないが、入院したばかりの重症患者さんであり、遅くとも早朝に意識レベルを確認する必要があった。

どうケアすればよかった?

●酸素吸入量を調整する

 低酸素血症の改善と肺循環における低酸素性血管攣縮の防止のため、酸素吸入時の目標PaO2は、60Torr以上、あるいはSpO2 90%以上になります。同時に、Ⅱ型呼吸不全の患者さんの場合はSpO2は高値であればよいというわけではなく、自発呼吸を維持できる酸素吸入量(SpO2 95%以下)で調整することが重要です。

●身体所見の観察や意識レベルを評価する

 酸素吸入中は、SpO2値のモニターだけでなく、頻脈・発汗などの身体所見の観察が重要です。SpO2が上昇したと安心せずに、モニタリングは確実に行いましょう。

 また、夜間でも定期的に呼吸回数と意識レベルを確認することが重要です。

●酸素投与する器具を正しく選択する

 単純酸素マスクでは吸入酸素濃度の調整が難しく、条件によっては、高濃度になります。一般的にⅡ型呼吸不全の患者さんには、適切な酸素化を保つために、鼻カニューラで流量は0.5 ~ 6L/分で開始するか、酸素濃度が調整できるベンチュリーマスクが適しています。

 また、十分な薬物療法や酸素療法などを行っても呼吸状態の改善がない場合、呼吸筋疲労による低換気の改善を図るために、NPPVでの換気補助が必要です。


【参考文献】
●日本呼吸器学会肺生理専門委員会、日本呼吸管理学会酸素療法ガイドライン作成委員会,編:酸素療法ガイドライン.メディカルレビュー社,2011.
●日本呼吸器学会COPD ガイドライン第4版作成委員会、日本呼吸ケア・リハビリテーション学会COPDガイドライン解説書作成委員会,編:COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン 第4版.メディカルレビュー社,2014.

(ナース専科マガジン2015年3月号より転載)

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