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【連載】酸素の上げどき?下げどき?

SpO2が測定できないときのアセスメント[うまくいかなかったcase]

執筆 和田 希

地方独立行政法人 神奈川県立病院機構 神奈川県立循環器呼吸器病センター 慢性呼吸器疾患看護認定看護師

O2updown

酸素の上げ下げを考えるとき、患者さんが低酸素状態になっているかどうかを見極めなければなりません。ここでは、うまくいかなかった事例から見極め方を解説します。


事例紹介

79歳男性急性肺炎敗血症ショック
既往:パーキンソン病、誤嚥性肺炎

●入院に至る経過
5年前よりパーキンソン病を発症し、ADLは全介助が必要で、施設に入所されている。抗パーキンソン病薬を内服すると覚醒がよくなり発語もみられ、食事も介助で経口摂取されている。

数日前より、食欲がなく食事が摂取できず、抗パーキンソン病薬の内服もできていなかった。入院当日、呼名に返答がなく意識状態が悪化。救急車を要請して当院を受診。救急隊到着時のSpO2 75%。酸素5L投与にて95%まで上昇。急性肺炎にて緊急入院となる。

●入院時の状態
誤嚥性肺炎との診断で抗生剤治療を開始、モニターを装着する。
[バイタルサイン]体温36.0℃、脈拍112回/分、血圧102/65mmHg、呼吸回数26回/分、SpO2 95%(室内気下)、意識レベルⅢ-200、苦痛に顔をしかめる程度であった。
[画像検査]胸部X線右肺炎、右下肺野浸潤影
[採血データ]CRP16.193mg/dL、WBC11,800/μL、プロカルシトニン41.79
[動脈血液ガス検査]pH7.386、PaCO2 49.5Torr、PaO2 76.3Torr、HCO3 29.0、BE3.4


肺血症と重症度分類
●敗血症(sepsis)とは
 感染を起こすことによって生じる全身性の炎症反応症候群を敗血症(infection-induced SIRS)といい、その定義は次のようになっています。

  • 体温が38℃以上または36度未満
  • 呼吸回数が1分間に20回以上またはPaCO2が32Torr未満
  • 心拍数が1分間に90以上
  • 末梢血白血球が12,000/μL以上または幼若白血球が10%以上

これらのうち2つ以上が該当するときを敗血症としています。

●敗血症の重症度について
 敗血症は、その重症度により重症敗血症と敗血症ショックに分類されています。
重症敗血症とは、臓器障害や臓器の灌流低下、血圧低下を示している病態です。また、敗血症ショックとは、急速に輸液や昇圧剤を投与しても、低血圧(収縮期血圧が90mmHg未満または通常よりも40mmHg以上の低下)が続いている状態をいいます。

 敗血症は重篤化するものが多く、生命余後に影響を与えるため、迅速な対応が望まれます。そこで正しい知識を身につけ、正しくアセスメントしていくことが大切です。

酸素化と酸素療法の経過(図)

酸素療法の経過

●入院当日

 入院当初はSpO2の測定も可能でしたが、23時ごろよりSpO2が測定できないことが度々ありました。たまに数秒間だけ95%と測定値が出たので、酸素投与はフェイスマスクで5Lのままで経過をみていました。

●入院翌日

 翌朝5時30分にパルスオキシメータのアラームが鳴っていたため訪室すると、末梢冷感があり、SpO2が測定できませんでした。バイタルサインを測定したところ、呼吸回数16回/分、努力様呼吸となっており、体温35.0℃の低体温であり、血圧も68/40 mmHgとなっていたため当直医へ連絡しました。呼吸は徐々に下顎様となり、心拍数20~30台と低下。酸素を15Lリザーバーへ変更しましたが、敗血症ショックのため、経口挿管し、人工呼吸管理と昇圧剤の開始となりました。

うまくいかなかったワケ

●入院時にすでに敗血症であった

 パーキンソン病の進行では、嚥下障害により誤嚥性肺炎を起こすことが多くあります。この患者さんは、意識レベルの低下や抗パーキンソン病治療薬が内服できていないことにより、嚥下機能低下が進行し、不顕性誤嚥を起こしていました。

 検査データでCRPやプロカルシトニンの上昇を認め、バイタルサインで発熱、呼吸数の増加、心拍数の増加がみられました。これらのことより、入院時すでに敗血症の病態であったことが考えられます。

●低酸素血症をきたしていた

 敗血症における急性呼吸不全の病態は、肺血管内皮細胞や肺胞上皮細胞の障害による非心原性肺水腫です。つまり、炎症によって水分が引き寄せられて、間質と肺胞内に水分があふれている状態です。

 これにより、シャントや換気血流比不均衡、拡散障害、肺胞低換気などの低酸素症の原因が肺の中に混在し、低酸素血症をきたしています。

[上げどきはココ!]低酸素血症
呼吸回数増加や心拍数増加、チアノーゼを呈している場合は、低酸素血症を疑う必要がある。パーキンソン病特有の四肢の振戦などでパルスオキシメータで正確に測定できない場合には、動脈血液ガス検査で確実な評価のもとに酸素療法を行うことが重要。

●敗血症が重症化し、敗血症ショックを起こしていた

 敗血症は重症化すると、重症敗血症や敗血症ショックへ移行します。そして、敗血症ショックの進行に伴い、臓器還流の低下や組織酸素代謝障害により代謝性アシドーシスが進行しやすくなり、多臓器不全へと移行します。

 敗血症ショックの初期は,血管拡張物質の産生により,体血管抵抗が減少した血液分布異常性ショック(distributive shock)が特徴です。末梢血管が開くため、皮膚に触ると温かい状態のwarm shock(ウォーム・ショック)状態を呈します。

 敗血症ショックが進行すると、末梢血管は収縮して体血管抵抗が増加し、後負荷の増大から心拍出量は減少するため、皮膚温が下がり、cold shock(コールド・ショック)の状態に陥ります。

[上げどきはココ!]敗血症ショック
急性呼吸不全(Ⅰ型)のSpO2の一般的な目標は90%以上である。しかし、敗血症ショックの場合は、組織の酸素需要に酸素供給が満たない状態であり、十分な酸素投与が必要となる。目標とするSpO2は95%程度と高めに維持する場合もあるため、医師への確認が必要。

[上げどきはココ!]コールド・ショック
コールド・ショックの状態になると、末梢血管の血流が低下して一層パルスオキシメータで正確に測定できなくなる。まず温罨法で対応し、それでも測定できなければ動脈血液ガス検査で評価する。全身状態の変化が激しいため、バイタルサインの測定を頻回に行い、医師に報告して酸素化の目標などの方針をその都度確認する必要がある。

どうケアすればよかった?

●敗血症ショックが進行すると、パルスオキシメータの測定が不安定になる

 呼吸器感染症が重症化し、敗血症へ移行するケースは少なくありません。呼吸不全の進行や敗血症ショックへ移行する可能性を予測しながら、患者さんを観察することが重要です。

 敗血症ショック早期は、よくあるショックとは異なり、ウォーム・ショックで末梢が温かいことが特徴です。しかし、進行とともに指先などの末梢の冷感が出現すると、末梢の脈拍が低下してコールド・ショックになり、パルスオキシメータでの測定が不安定となります。SpO2の数値だけで評価していると、低酸素血症の発見が遅れてしまうので注意が必要です。

 パルスオキシメータの測定が不安定になったときは、危険が迫っている可能性があるため、ときどき出る数値に安心してはいけません。末梢冷感の有無やその他の呼吸不全症状、動脈血液ガス検査を含めた全身の観察を行い、評価するようにします。

●パルスオキシメータの数値だけでは評価できないこともある

 今回のケースでは、低酸素血症を早期に発見し、改善することが必要でした。

 パルスオキシメータは低酸素血症の早期発見に必要不可欠な測定器具です。しかし、数値だけで評価するのではなく、バイタルサインや呼吸状態を観察し、呼吸不全悪化の徴候を早期に発見していくことが重要です(表)。

低酸素血症の診療症状

 今回も、パルスオキシメータの数値だけでは評価できないことを早期に判断し、医師へ状態の報告を行い、動脈血液ガス検査を依頼することが必要でした。そして、酸素投与量が増加し、リザーバーマスクなどによる酸素療法だけで酸素化が不十分な場合は、人工呼吸器管理に移行することを考えて準備をすることも必要となるでしょう。


敗血症ショックとは

 ショックは、その病態により大きく、循環血液量減少性ショック、心原性ショック、血液分布異常性ショック、心外閉塞・拘束性ショックの4つに分類されます。

 敗血症ショックは、血管の特定箇所が何らかの異常により拡張した結果、相対的に循環血液量が減少し起こる循環血液量減少性ショックに分類されます。敗血症ショックの多くは、グラム陰性桿菌やグラム陽性球菌、カンジダなどの真菌によって引き起こされ、免疫機能が低下した患者さん、慢性および消耗性疾患患者さんなどに合併します。

 初期の段階では、心拍出量の増加、末梢血管抵抗の低下による血管拡張が特徴で、状態が進行すると、心拍出量の低下、血圧の低下といった通常のショックと同じ症状が現れます。敗血症ショックとなった場合は、ICUなどでの集中管理が必要となります。


【参考文献】
●日本呼吸器学会肺生理専門委員会、日本呼吸管理学会酸素療法ガイドライン作成委員会編:酸素療法ガイドライン、メディカルレビュー社、2011.
●道又元裕編:ICUケアメソッドクリティカルケア領域の治療と看護、学研メディカル秀潤社、2014.

(ナース専科マガジン2015年3月号より転載)

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