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【連載】酸素の上げどき?下げどき?

夜だけSpO2が下がってしまう患者さんの酸素のウィーニング[うまくいかなかった!]

執筆 伊藤幾代

国立病院機構 西埼玉中央病院 慢性呼吸器疾患看護認定看護師

O2updown

酸素の上げ下げを考えるとき、患者さんが低酸素状態になっているかどうかを見極めなければなりません。ここでは、うまくいかなかった事例から見極め方を解説します。


事例紹介

70代男性心不全・肺炎
既往:高血圧・心房細動

●入院に至る経過
入院2週間前頃より咳嗽・痰が出現し、近医にて感冒薬を処方されたが症状が改善しなかった。数日前より労作時の息切れや全身の倦怠感とともに、下肢や顔面にむくみが出現してきた。また、咳嗽もひどくなり夜間なかなか寝つけないようになった。
その後も症状が改善せず、呼吸苦も強くなりトイレまで歩くのもつらくなってきたため、心配した家族に付き添われて外来を受診。肺炎を合併した心不全と診断され、心不全の治療目的にて入院となった。

●入院時の状態
誤嚥性肺炎との診断で抗生剤治療を開始、モニターを装着する。
[バイタルサイン] 意識清明、体温37.8℃、脈拍130回/分・リズム不整、血圧156/88mmHg、呼吸回数25回/分、SpO2 88%(室内気下)。右上肺野で吸気時coase craklesを聴取、また心尖部に収縮期雑音が聴かれた。下腿に浮腫著明。
[画像検査]胸部X線CTR65%、肺うっ血あり、胸水貯留あり[採血データ]WBC 11,600/μL、CRP 4.25mg/dL
[動脈血液ガス検査]pH7.426、PaO2 56.4 Torr、PaCO2 35 Torr、HCO327.8
[Nohria/Stevenson分類]Wet&Warm

※Wet&Warm=肺うっ血があり(Wet)、血圧が維持(Warm)された状態で、左室拡張末期圧が高いものの心拍出量が維持されている状態


慢性心不全と睡眠時無呼吸症候群
心不全になると、体内の血液循環が障害され、全身の器官に十分な酸素が行き渡っていない状態になります。
主な原因には、心筋症、弁膜症、心筋梗塞や狭心症などの虚血性心疾患、先天性心疾患や高血圧、甲状腺疾患などが挙げられます。

慢性心不全となると、慢性の心筋障害による心臓ポンプ機能の低下が長時間続き、代償機転ではカバーしきれなくなり破綻してしまった状態となっていると考えられ、主な症状として、全身倦怠感、呼吸困難、運動耐容能低下、食欲不振、浮腫などが見られます。

心不全患者さんは、睡眠時無呼吸を併発している人も多く、また、閉塞性睡眠時無呼吸は心不全の原因となることもあります。

酸素化と酸素療法の経過(図1・2)

モニターの波形

SpO2の変化のグラフ

●入院当日

 肺うっ血による低酸素血症に対し、利尿薬と血管拡張薬の持続投与、単純酸素マスクにて5ℓの酸素投与が開始されました。その後、利尿薬の効果が得られ、心不全はすみやかに改善し、動脈血液ガス検査の結果からも、酸素化の改善が認められました。

 主治医からは「SpO2 95%以上で酸素1Lずつ減量、off可、SpO2 95%以上をキープする」という指示が出ていたため、指示通りに酸素投与量を減量していきました。

●入院5日目

 患者さんは、1L/分鼻カニューラでSpO2 98~100%を保持できており、呼吸状態も安定していたため、日勤の看護師が酸素投与を中止しました。同日に食事も開始となりましたが、SpO2の低下はみられませんでした。

 同日23時ごろ、夜勤の看護師がアラームに気づきモニターを確認すると、SpO2が80%台に低下していました。訪室すると患者さんは入眠中で、特に異常な呼吸は認められませんでした。自然にSpO2が90%台に上昇したため様子を観察していましたが、その後もモニターのSpO2値が一時的に80%台に低下する状態を繰り返したため、心配になった看護師が酸素投与を再開しました。

●入院6日目以後

 翌日、覚醒後の日中ではSpO2 99~100%で経過したため、日勤の看護師が酸素を中止しました。
 しかし以後も、昼間は問題ないが夜間になるとSpO2の低下が起こり酸素を再開するという経過が続き、酸素を切れない状態でした。

うまくいかなかったワケ

●睡眠時無呼吸症候群を併発していた

 この患者さんの場合、睡眠時無呼吸症候群(SAS)を併発していたと考えられます。SASは、一晩(約7時間)の睡眠中に無呼吸(10秒以上の口と鼻での気流の停止)が30回以上出現するか、あるいは、1時間あたり5回以上の無呼吸が出現する病態と定義されています。

 また、SASは上気道の閉塞に起因する無呼吸が優位の閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)と、呼吸中枢のコントロールの乱れに起因する中枢性睡眠時無呼吸(CSA)に分けられます。CSAでは、中枢性無呼吸(低呼吸)と過呼吸とが周期的に繰り返され、換気量の漸増漸減が認められるチェーンストークス呼吸がみられることもあります。SASと循環器疾患は深く関連しており(図3)、心不全患者さんにおけるOSAの合併率は11~37%、CSAの合併率は21~ 40%と報告されています。

睡眠時無呼吸合併頻度
日本循環器学会,他:循環器領域における睡眠呼吸障害の診断・治療に関するガイドライン.Circulation Journal 2010;74,Suppl II:970.
http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2010,momomura.h.pdf(2018年5月閲覧)

[上げどきはココ!]無呼吸による低酸素状態
図1のモニターの波形を見てみると、ECGモニターの胸郭運動の波形からチェーンストークス様の呼吸パターンが認められ、それに呼応するようにSpO2の低下が起きている。つまり、このケースでは、無呼吸が起こって夜間に低酸素状態を生じていた可能性がある。夜間の無呼吸をとりあえず改善するために、医師の指示通り酸素投与を開始した。

[下げどきはココ!]SpO2が高すぎてもダメ
慢性呼吸器疾患合併の患者さんには、CO2ナルコーシスの危険があるため慎重に酸素投与を行う。一時的にSpO2が98%以上になってもすぐまた下がるなら継続しても構わないが、30分以上持続する場合には95%を目安に酸素吸入量を減らす。

どうケアすればよかった?

●いびきの程度、SpO2・脈拍数のモニタリングを実施する

 OSAの基本症状に“いびき”があります。いびきが強かったり途中でいびきが止まったりする場合はSASを疑い、数日間SpO2や脈拍数をモニターでチェックします。特に夜間の反復するSpO2の低下がどのくらいの頻度で起こっているかは、睡眠呼吸障害の程度を把握する上で重要な情報となります。

 また、無呼吸時の低酸素血症により交感神経が亢進することで脈拍数の急激な変動が起こりやすくなるため、合わせて観察します。

 いびきがない場合でも、治療抵抗性の高血圧・起床時の高血圧・慢性心不全・心房細動など、睡眠呼吸障害の合併が強く疑われる患者さんの場合は、モニタリングを実施するとよいでしょう。モニタリングの結果は医師に報告し、SASの簡易検査を依頼します。

●覚醒時と睡眠時の症状を観察する

 SASの症状は、日中の過眠や呼吸障害による起床時の頭痛・頭重感などの「覚醒時の症候」と、いびきや不眠・中途覚醒などの「睡眠時の症候」があります(表1)。日中の眠気は、昼寝をしている場合、過度の眠気としてとらえられないケースも多いため注意が必要です。

睡眠時無呼吸症候群の症状

 また、睡眠呼吸障害の合併症として、高血圧・虚血性心疾患・肺高血圧症・右心不全・不整脈・糖尿病・脳血管障害・多血症・過眠・精神症状などがあります。これらの徴候がないかを観察していきます。

 SASの自覚症状のうち、眠気についてはJESS(Japanese version of the Epworth Sleepiness Scale;エプワース眠気尺度)を使用して評価する方法もあります。

●酸素療法は低酸素血症への対症療法として有効である

 今回のケースのように、夜間の無呼吸で低酸素状態が起こると、交感神経の活動が活発になり、睡眠中にも弱った心臓に負担をかけ続け、心不全を悪化させたり不整脈を起こしたりして、生命予後を悪化させてしまいます。

 酸素療法はSASの治療法ではありませんが、とりあえず低酸素血症への対症療法として有効です。このような患者さんでは、検査によりSASが確定した場合は、SASの治療として陽圧呼吸療法(CPAP、ASV等)が必要になることを知っておきましょう(図4)。

アルゴリズム
日本循環器学会,他:循環器領域における睡眠呼吸障害の診断・治療に関するガイドライン.Circulation Journal 2010;74,Suppl II:1018.
http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2010,momomura.h.pdf(2018年5月閲覧)
*SDB:睡眠無呼吸障害、CSR-CSA:チェーン・ストークス呼吸を伴う中枢性睡眠時無呼吸、AHI:無呼吸低呼吸指数


【参考文献】
●陳和夫監:1からおさらい睡眠時無呼吸症候群の治療とケア、呼吸器ケア12(11)、2014.
●森山美知子ほか編:エビデンスに基づく呼吸器看護ケア関連図、中央法規出版、2012.
●日本呼吸器学会肺生理専門委員会、日本呼吸管理学会酸素療法ガイドライン作成委員会編:酸素療法ガイドライン、メディカルレビュー社、2011.
●北風政史編:心不全診療skill upマニュアル、羊土社、2008.

(ナース専科マガジン2015年3月号より転載)

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