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【連載】Newsのツボ

今見直したい薬剤耐性(AMR)の現状と対策ー看護師に求められることを考えよう

解説 具 芳明

国立国際医療研究センター病院 AMR臨床リファレンスセンター 情報・教育支援室長

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院内感染対策が業務の中で日常的に行われるようになっている今、看護師の皆さんは薬剤耐性(AMR)をどのように捉えていますか。その背景には抗菌薬の適正使用にかかわる問題があるとされているため、処方を行う医師の課題と考えがちですが、看護師も無関心ではいられない現状があります。国立国際医療研究センター病院AMR臨床リファレンスセンターの具芳明さんに、最新の動向をうかがいました。


薬剤耐性と抗菌薬には切っても切れない関係があります

 ペニシリンの発見以来、感染症の治療に大きく貢献してきた抗菌薬。その開発には薬剤耐性(AMR)がかかわっており、新たな耐性をもった菌に対抗するため新たな抗菌薬が開発されるということが繰り返されてきました。結果、多くの種類の抗菌薬が開発され、さまざまな感染症が「不治の病」ではなくなったわけです。しかし、1980年代以降抗菌薬の開発が減少すると、新たな薬剤耐性菌による影響が問題になってきました。現在、世界では薬剤耐性が原因で70万人が死亡し、2050年にはその数が1000万人に達するともいわれています。

 薬剤耐性は、抗菌薬から生き延びた病原菌の一部が、抗菌薬に対して抵抗力をもつ菌へと変化することで生じます。また、わずかですがもともと薬剤耐性菌が体内にいることもしばしばあります。薬剤耐性菌は、体内にあってもすぐに感染症が引き起こされるわけではありません。しかし、抗菌薬を必要以上に使用し続けることで、人間が本来必要とする細菌が死滅し、薬剤耐性菌が増殖しやすい環境になって、感染症の発症するリスクが高まってしまいます。

 直接感染だけでなく、手術や医療機器に関連した医療関連感染症(HAI)でも薬剤耐性が問題になっています。

日本では「MRSA」に代わり「大腸菌」が問題に

 2006年の医療法改定で医療機関における院内感染対策(指針の策定、委員会の設置、講習会の実施など)が義務づけられて以来、各医療機関は真摯に対策に取り組んできました。その一連の流れの中で、看護師の皆さんがよく耳にしてきた薬剤耐性菌「メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)」は、ヨーロッパ諸国と比較するとまだ多いものの、これまでの対策によって日本では減少傾向にあります。その一方で増えているのが薬剤耐性のある「大腸菌」です。これまで、大腸菌が原因となる尿路感染や膀胱炎などには、フルオロキノロン系抗菌薬が用いられてきましたが、今や大腸菌の約40%がフルオロキノロン耐性菌になっています。これが、高齢者や術後患者さんに対する治療や副作用対策において選択肢を減らすことにつながっています。

 このように、薬剤耐性は感染症の拡大だけでなく、治療面にも影響しています。抗菌薬が使用できないと、術後感染予防ができなくなり手術のリスクが高まったり、抗がん薬や免疫抑制薬による治療で感染症の合併に備えることが難しくなるなど、治療の幅が狭められることになってしまいます。この傾向は医療機関内に止まらず、市中にも広がる傾向をみせており、これまで治せていたものが治りにくくなる、これまで起こらなかったことが起こるといったことが生じています。例えば、小児に多い中耳炎の原因菌(肺炎球菌、インフルエンザ菌)で薬剤耐性が進み、治療が長引くことで難治性になることもあります。

 薬剤耐性菌が増えるということは、使える抗菌薬が減り、治療および感染予防の選択肢が減るということです。ここ数十年で医療は進歩し、さまざまな新しい治療方法が生まれてきましたが、その中には治療の過程で免疫力を低下させるものも少なくありません。抗菌薬が使用できないことで、それら治療法が根底から崩れてしまう可能性もあるのです。それは、私たちがこれまで受けてきた医療の恩恵を手放すことにもつながりかねません。

薬剤耐性への対策は「正しく使う」「広げない」の2つです

 薬剤耐性を防ぐためには、「正しく使う」「広げない」の2点しかありません。「正しく使う」──これは抗菌薬を適正に使用するということです。抗菌薬は、本当に必要かどうかを見極め、使用量や使用期間などを評価してから用いるようにしなければなりません。さらに、「念のため」の投与(処方)や誤った抗菌薬の選択をなくすことも必要です。一方「広げない」は、文字どおり感染を拡大させないことです。こちらに関しては、院内感染対策などにより、すでに医療機関内で行われており、その継続と徹底が求められます。

 このような薬剤耐性対策に取り組む柱として、2016年に厚生労働省によって「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン」が策定されました。これは、薬剤耐性に対し世界規模での取り組みを推進する世界保健機関(WHO)などの働きかけを受けてまとめられたものです。6つの目標(表)を掲げ、それらの進め方が記されています。感染という観点から、ヒトだけでなく、動物や環境も視野に入れた内容となっています。

 各目標をみてもらえればわかると思いますが、目標1〜4の内容はすでに院内の感染予防対策で行われていることです。皆さんの職場でも、感染対策についての講習会が行われ(目標1)、感染対策委員会が抗菌薬の使用状況のデータを集め(目標2)、手指衛生などの感染予防対策が実施され(目標3)、医師によって抗菌薬の適正使用が進められていると思います(目標4)。ですから、今まで行ってきたことを、見直し、きちんと続けていくことが大切だということになります。

(表)薬剤耐性(AMR)対策アクションプランの6つの目標

   
目標1 国民の薬剤耐性に関する知識や理解を深め、専門職等への教育・研修を推進する
目標2 薬剤耐性および抗微生物剤(抗菌薬)の使用量を継続的に監視し、薬剤耐性の変化や拡大の予兆を的確に把握する
目標3 適切な感染予防・管理の実践により、薬剤耐性微生物(薬剤耐性菌)の拡大を阻止する
目標4 医療、畜水産等の分野における抗微生物剤(抗菌薬)の適正な使用を推進する
目標5 薬剤耐性の研究や、薬剤耐性微生物(薬剤耐性菌)に対する予防・診断・治療手段を確保するための研究開発を推進する
目標6 国際的視野で多分野と協働し、薬剤耐性対策を推進する

( )内は編集部が付加
薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン(2018年5月16日閲覧)http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000120769.pdf

「抗菌薬適正使用支援チーム」の活動にも期待が寄せられます

 薬剤耐性対策をめぐる新しい動きとしては、「抗菌薬適正使用支援チーム」の活動があります。医療の進歩に伴って治療が多様化・複雑化するなか、すべての感染症患者さんを感染症の専門家が担当するのは現実的ではありません。そのため、感染予防・対策の面を支援する専門のチームが生まれたのです。感染症に詳しい医師、薬剤師、臨床検査技師、看護師などによって組織されます。このチームが横断的に活動することで、感染予防と抗菌薬の適正使用の面から入院治療をサポートしていくというわけです。

 ちなみに2018年診療報酬改定では、このチームの活動に対し、新たに「抗菌薬適正使用支援加算」が新設されています。同様に、小児科外来での抗菌薬適正使用を評価するものとして、小児科外来診療料と小児かかりつけ診療料に「小児抗菌薬適正使用支援加算」も新設されました。

看護師の皆さんも薬剤耐性対策チームの一員です

 看護師の方から「薬剤耐性対策といっても、私たちは何をすればよいのでしょう」という質問を受けることがよくあります。確かに抗菌薬の適正使用という面では、医師や薬剤師、臨床検査技師のように直接かかわることは少ないと思います。しかし、感染を予防する、感染拡大を防ぐという面では、看護師の皆さんに頼るところは大きいのです。先にも述べましたが、これまで行ってきた院内での感染予防対策をしっかり行うことこそが、薬剤耐性への対策にほかなりません。
具体的には、手指衛生の徹底が大前提です。さらに、患者さんに応じ適切なガウンテクニックを用いることも重要になります。そのうえで、清掃が適切に行われているかなど環境に目を向けましょう。最近では、手を洗う水道のシンクを清潔に保つことにも関心が寄せられています。

 また、末梢や中心静脈のルートや尿道カテーテルの管理など、日々の感染予防についてももう一度見直してみてください。感染が起こらなければ、その分抗菌薬を使用せずに済むのです。そういう意味では、細菌培養を行うため喀痰を採取するといった場面でも、きちんと奥から検体を採取することが大切になります。唾液を提出してしまうと、口内の細菌が混じってしまい、誤った抗菌薬の使用を招くことがあります。

 このように、日常的に行っている感染対策やケアを一つひとつ適正に行うことが、薬剤耐性対策に結びついています。看護師の皆さんも、感染対策、そして薬剤耐性対策を行うチームの一員であることを忘れずに、前向きに取り組んでいってもらえたらと思います。


★国立国際医療研究センター病院AMR臨床リファレンスセンター
ホームページ http://amrcrc.ncgm.go.jp

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