お気に入りに登録

【連載】どの病棟でも押さえたい糖尿病の薬

糖尿病薬と治療を知ろう

執筆 藤田成裕

日本赤十字社長崎原爆病院 内分泌・代謝内科部長

%e8%97%a4%e7%94%b0%e6%88%90%e8%a3%95 photo

%e3%82%b5%e3%83%a0%e3%83%8d%e3%82%a4%e3%83%ab

 さまざまなタイプの糖尿病薬が次々に登場するとともに、血糖管理のエビデンスも明らかになり、糖尿病の治療は変わり続けています。いま、どのように糖尿病薬が使われているのか、また、糖尿病を併存する患者さんが入院して手術や検査を受ける場合には、どのような配慮が必要なのか、最新のポイントを紹介します。


目次


1. 糖尿病の治療は、いま

 わが国における糖尿病の人口は950万人といわれており、さまざまな疾患で入院する患者さんのなかに糖尿病を患う人がいることは、珍しくありません。血糖値がさまざまな病態や基礎疾患に影響を与えることがわかり、入院中を含む治療上の血糖コントロールの必要性が重視されてきています。
 
 糖尿病治療においては、さまざまな病態が解明されると同時に、糖尿病薬の発達はめざましく、ここ10~15年で多くのタイプの薬剤が開発されてきました。糖尿病薬には大きく分けて、インスリン製剤とそれ以外の薬剤があり、それ以外の薬剤には、現在、経口血糖降下薬が7タイプと注射製剤が2タイプあります。これらの薬剤の組み合わせによって、病態に適した治療上のメリットの高い多くの治療方法が存在しています。

2. 進歩を続ける糖尿病の薬

SU薬が中心の治療が長く続いていた

 まずは、さまざまなタイプの糖尿病薬について、進歩の道筋から整理していきましょう。
 
 最も古い経口血糖降下薬は1950年代に登場したSU薬(スルホニル尿素薬)で、次いでビグアナイド薬が加わりました。しかし、ビグアナイド薬には乳酸アシドーシスのリスクがあることが知られると、使用される機会が減っていき、経口血糖降下薬としてはSU薬だけが使われる期間がしばらくありました(図1)。
 
 この間は血糖コントロールに対する指標はなく、自己管理の方法も限定的なものでした。

経口血糖降下薬数のあゆみ

αグルコシダーゼ阻害薬が登場し、血糖管理の目標値が定まる

 1990年代に入ると、αグルコシダーゼ阻害薬の登場を皮切りに、インスリン抵抗性改善薬、グリニド薬(速効型インスリン分泌促進薬)が相次いで発売されました。糖尿病の治療目標として重要なのは合併症の予防ですが、これを達成するためのHbA1cの目標値が、いくつかの大規模臨床試験によって明らかになってきました。
 
 この時期に、血糖自己測定に用いる器具の進歩によって、日内の血糖の高低差などが把握できるようになり、同時に、血糖変動への関心が高まりました。経口血糖降下薬が発達したことと相まって、食後の高血糖などを是正する厳格な血糖コントロールが管理と方法の両面で、急速に実現可能となりました。
 
 また、それまで敬遠されていたビグアナイド薬については、エビデンスが確立するとともに作用機序が解明され、しだいに見直されて再度使用されるようになりました。

低血糖リスクに配慮したより厳格な血糖コントロールへ

 その後は、持続血糖モニター(continuous glucose monitoring:CGM)などが開発されたことにより、これまでは確認することが困難だった、夜間を含めた日内の血糖変動を見つけることができるようになりました。これにより、HbA1cだけを目標とする血糖コントロールでは、低血糖を生じさせる危険性がわかってきたのです。
 
 一方、北米のACCORD Studyなどの大規模臨床試験により、HbA1cだけを目標にするのではなく、低血糖発症のリスクを考慮する必要性が明らかになりました。低血糖は生命予後にも影響し、特に高齢者は重症低血糖の頻度が高いことなどから、高齢者に対する血糖コントロール指標が作成され、血糖コントロールに下限が設けられたのです。
 
 同時に、DPP-4阻害薬やインクレチン系製剤であるGLP-1受容体作動薬、そしてSGLT2阻害薬が登場し、厳格な血糖コントロールの達成を可能にしています。

3. 糖尿病の病態を知ろう

幅広い病態に合わせた治療薬選択が可能に

 糖尿病は、1型糖尿病、2型糖尿病、その他特定の機序・疾患によるもの、および、妊娠糖尿病に分別されます。このうち、特に明らかな原因がなく、インスリン分泌が枯渇する1型糖尿病でない、インスリン分泌低下によるものを2型糖尿病と呼びます。
 
 2型糖尿病は、その病態によって図2のように分類されています。そして、個々の患者さんの病態は異なっており、それに対応する形で薬剤を使用することが、薬剤の効果を発揮させるうえで重要となります。さらに、1人の患者さんに複数の病態が存在することが多く、そのため、複数の薬剤を使用する場合も多くなります。
 
病態に合わせた経口血糖降下薬の選択(2型糖尿病の場合)

 糖尿病はセルフケアが重要な疾患であり、患者さんに薬剤を確実に使用してもらうことが治療上重要になります。最近では1週間に1回の投与で済む薬剤も登場しているように、生活環境に合わせた薬剤の選択が大切です。
 
COLUMN-配合剤
 患者さんが間違いなく薬剤を服用することは、血糖の改善・安定に重要なポイントの1つです。薬剤数が増えると服用忘れが生じることがあり、これを予防するために2剤を合わせて1剤にしたものが、配合剤です。
 
 配合剤の利用は、患者さんの服薬に対するアドヒアランスを向上させるとともに、服薬数が増えることに対する患者さんの心理的不安を軽減します。外来で配合剤を利用している患者さんが入院した際は、その配合剤が院内の採用薬に入っていない場合があるため、それぞれの単剤に分けて服用する必要があり、注意が必要です。配合剤には、下表のようなものがあります。
 

代表的な配合剤
エクメット® ビルダグリプチン〔DPP-4阻害薬〕/メトホルミン〔ビグアナイド薬〕
イニシンク® アログリプチン〔DPP-4阻害薬〕/メトホルミン〔ビグアナイド薬〕
ソニアス® ピオグリタゾン〔チアゾリジン薬〕/グリメピリド〔SU薬〕
メタクト® ピオグリタゾン〔チアゾリジン薬〕/メトホルミン〔ビグアナイド薬〕
グルベス® ミチグリニド〔グリニド薬〕/ボグリボース〔αグルコシターゼ阻害薬〕
リオベル® アログリプチン〔DPP-4阻害薬〕/ピオグリタゾン〔チアゾリジン薬〕
カナリア® カナグリフロジン〔SGLT2阻害薬〕/テネリグリプチン〔DPP-4阻害薬〕

インスリン分泌低下にもさまざまな傾向がある

 血糖値は食事によって変動するため、空腹時は低く、食後は当然上昇します。血糖を下げるホルモンであるインスリンは、食事を摂る前ではその血中濃度は低く、食事を摂ると多量に血中に分泌され、血糖上昇を抑えます。また、食事を摂取していない状況においても、インスリンは少量分泌され、肝臓からのブドウ糖の産生を抑制して血糖上昇を抑えます。ところが、糖尿病の患者さんではインスリン分泌の相対的低下がみられることによって、空腹時でも血糖が上昇してしまいます。
 
 インスリン分泌が絶対的に低下している人もいれば、極端な低下はないものの、インスリンの効きが悪く、相対的に不足している状況(インスリン抵抗性)の人たちもいます。また、分泌パターンが不良なため、食後の血糖が上昇する人もいます。経口血糖降下薬は、これらの病態を是正して血糖の数値や変動を正常化する目的で使用されます。

4. 糖尿病を併存する患者さんの看護

重症患者の血糖値は、140~180mg/dLに保つ

 入院中に血糖コントロールを良好に保つことは、疾患の治療上の有用性が高く、逆に高血糖は基礎疾患の治療の妨げとなることが知られています。例えば、手術当日の血糖値が200mg/dL以上であれば、手術を中止しなければならないことがあります。重症患者の血糖コントロールの指標については、NICE-SUGAR研究により、140~180mg/dLの血糖値に保つことが最も基礎疾患の治療に影響が少ないとの報告があります1)。
 
 また、血糖値は食事や輸液、薬剤、炎症などの影響を受けやすいために変動する可能性が高くなります。輸液や食事の内容や時間に変更があると血糖値が変動し、思わぬ高血糖、低血糖をきたし、意識障害や死亡につながる危険性があります。
 
 糖尿病の患者さんが入院した場合は常に血糖変動に気を配り、いつでも血糖測定を行えるよう準備しておきます。医師の指示による血糖測定以外にも、必要があれば、血糖値を測定することが重要です。これによって事故を防ぐことが可能です。

投薬を評価するための各種検査

 血糖管理の効果を上げるには、病態をよく理解して、病態に対応した薬剤が使われる必要があります。その評価のために、血糖値以外にも、血液中のインスリン量や、膵臓から分泌されているインスリン量を調べる、Cペプチド、尿中Cペプチドの測定が必要になります。正しい測定値を得るためには、蓄尿の時間や採血のタイミングは非常に重要なので、患者さんへの説明も含め、しっかりと計画を立てる必要があります。

 また、食事の摂取による血糖の変化やインスリンの反応をみるために、食事の前後で採血をする場合もあります。薬剤投与が開始された後も、血糖に対する効果を評価するために採血や血糖測定を行います。

インスリン製剤による一時的な血糖コントロール

 糖尿病薬にはそれぞれ特徴があり、基礎疾患や検査の前処置によって、適宜休薬することがあります。周術期や重症感染症時は、ストレスによって血糖値が上昇しやすくインスリン抵抗性も増すために、それまで効果があった経口血糖降下薬が効かなくなることがあります。それによる血糖の上昇を避けるため、経口血糖降下薬は周術期、重症感染症などの場合には、用いることはありません。

 その代わりにインスリン製剤による血糖コントロールが必須となります。あくまでも一時的な対処法であるため、患者さんにはその旨を十分に説明することが必要です。患者さんのなかには、一度インスリンを使用すると離脱できないと勘違いしている人も多いため、この際の説明はたいへん重要です。インスリンに対して間違った認識をもつ患者さんには、このような機会を利用して誤解を解くのもよいでしょう。

1 )The NICE-SUGAR Study Investigators ; N Engl J Med 2009 ;360 : 1283-97.


この記事はナース専科2017年10月号より転載しています。

【糖尿病治療薬】
SU薬(スルホニル尿素薬)
グリニド薬(速効型インスリン分泌促進薬)
αグルコシダーゼ阻害薬
DPP-4阻害薬
ビグアナイド薬
チアゾリジン薬
SGLT2阻害薬
インスリン製剤
GLP-1受容体作動薬

ページトップへ