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【連載】基礎から解説!いますぐ実践できる「がんの緩和ケア」

第1回 緩和ケア概論|知ってる? 進化を続ける「緩和ケア」

執筆 槙埜良江

広島大学病院緩和ケアセンター がん看護専門看護師

Cancer kanwacare

緩和ケアの定義は進化している

 緩和ケアについて、世界保健機構(World Health Organization:WHO)は、1990年に「治癒を目指した治療が有効でなくなった患者に対する積極的なケアである」「末期だけでなく、もっと早い病期の患者に対しても治療と同時に適用すべき点がある」と示していましたが、2002年に緩和ケアの定義を修正しています(表1)。

表1 緩和ケアの定義
緩和ケアの定義
WHO:WHO Definition of Palliative Care,2002.緩和ケア関連団体会議,日本語定訳作成:2018年6月(2018年8月1日閲覧) https://www.hpcj.org/what/definition.html

身体的苦痛だけでなく「トータルペイン」をとらえる

 患者さんの多様で複雑な苦悩に対して、身体的側面についてだけではなく、精神的、社会的、スピリチュアルのそれぞれの苦痛からなるトータルペイン(全人的苦痛)を理解してかかわることが大切です(図1)。例えば、身体面の痛みよりも、「自分のことよりも家族のことが一番心配です」と社会的苦痛(家族内の問題)のほうが患者さんにとって優先順位が高い場合があります。また、「痛みで何もできない自分は生きている意味があるのだろうか」と生きる意味を問う実存の苦痛(スピリチュアルペイン)を抱くことがあります。

 患者さんを病気の人(patient)ではなく、生活者(person)として注目し、患者さんとその家族を中心とした全人的なアプローチを取り入れていくことで、QOL(生命の質・生活の質)をよりよいものにしていくことができます。
生活者としての患者さんへの全人的アプローチを考えていく際には、患者さんの価値観を理解することが重要です。患者さんは何を大切にして生きてきたのか、患者さんにとって大切な人は誰か、これからの治療をどうしたいと考えているのか、どこでどのように過ごしたいと考えているのかなど、価値観を理解し、その患者さんらしい生き方や生活を支えます。

 近年、これからの治療やケアについて患者さんと話し合うこと(アドバンス・ケア・プランニング)が注目され広まりつつあり、その基盤となるのが患者さんの価値観です。

図1 トータルペイン
トータルペイン
国立がん研究センターがん情報サービス:がんの療養と緩和ケア.(2018年8月1日閲覧)
https://ganjoho.jp/public/support/relaxation/palliative_care.html

「がんと診断されたとき」からの緩和ケア

 「がん対策推進基本計画」では、がん診療連携拠点病院を中心に緩和ケア提供体制の強化が図られ、がんと診断されたときから緩和ケアを提供するための取り組みとして、以下(表2)の具体的な項目が掲げられました。それぞれの医療機関では、この具体的項目に沿って、マニュアルの整備や在宅緩和ケアの推進を目指して診療所と連携を図っています。

表2 がんと診断されたときからの緩和ケア
緩和ケアとは
厚生労働省:がん診療連携拠点病院の医療従事者向けリーフレット「がんと診断されたときからの緩和ケア」平成26年1月より抜粋.(2018年8月1日閲覧)
http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/pdf/kanwakea.pdf

これからは「遺族ケア」も緩和ケアの対象になる

 患者さんと死別した後の家族が抱える悲嘆をケアする遺族ケア(グリーフケア)も、これからは緩和ケアのなかに含まれるようになってきます。WHOの定義のもと遺族ケアを含めた、これからの緩和ケアの考え方を示します(図2)。

図2 これからの緩和ケアの考え方
緩和ケアの考え方
小松浩子:はじめに.田村恵子,編:緩和ケア教育テキスト がんと診断された時からの緩和ケアの推進.p.8,メディカ出版,2017.より引用一部改変

小児やAYA世代への緩和ケア

 近年、緩和ケアの対象は、成人のがん患者さんだけではなく、小児やAYA世代(Adolescent and Young Adult:思春期世代と若年成人世代)にも拡大しています。

 小児がんは、15歳未満に起こる悪性腫瘍の総称で、わが国では年間2,000~2,500人の子どもが小児がんと診断されています。小児の年齢別死亡原因では、がんが1~3位を占めています1)

 AYA世代は、思春期と若年成人期の世代をいいますが、明確な定義はなく、一般的に15歳以上~40歳未満を指しています。AYA世代のがんは小児に多いがんと成人に多いがんが混在しているため、AYA世代の支援には小児がんと成人がんにかかわる専門職との連携が必要です(図3)。

 また、AYA世代の支援の問題点として、公的支援が乏しいことが挙げられます。例えば、わが国の児童手当は15歳までが対象であり、40歳以上に給付される介護保険の対象からも外れます(対象となる16の特定疾病にがん終末期が含まれる)。就学・就労問題、生活・経済的問題のほか、がん治療と妊孕性などAYA世代特有の問題があります。

図3 AYA世代
AYA世代
国立がん研究センター東病院小児腫瘍科:思春期・若年成人(AYA世代)に発症するがん診療.(2018年8月1日閲覧)
https://www.ncc.go.jp/jp/ncce/clinic/pediatric_oncology/050/index.html

まとめと展望

さまざまな医療分野で広がりつつあるアドバンス・ケア・プランニングの実践に向けて、医療従事者が緩和ケアの知識を習得することがいっそう求められています。

がんの緩和ケアの対象は、成人だけではなく、小児やAYA世代にも拡大しています。

さらに近年は、遺族ケアや終末期の心不全患者さんへの緩和ケアや、にも注目が集めまっており、緩和ケアの範囲は、がん患者さんにとどまらず拡大しています。


【引用・参考文献】
1)厚生労働省:人口動態統計 上巻.5-17表 性・年齢別にみた死因順位,2012.
●WHO:WHO Definition of Palliative Care,2002.緩和ケア関連団体会議,日本語定訳作成:2018年6月(2018年8月1日閲覧) https://www.hpcj.org/what/definition.html
●厚生労働省:緩和ケア.(2018年8月1日閲覧)http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkouiryou/kenkou/gan/gankanwa.html
●厚生労働省:がん診療連携拠点病院の医療従事者向けリーフレット「がんと診断されたときからの緩和ケア」平成26年1月.(2018年8月1日閲覧)http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkouiryou/kenkou/pdf/kanwakea.pdf
●厚生労働省:「緩和ケア施策の現状報告について」2017年12月8日厚生労働省厚生労働省健康局がん・疾病対策課.(2018年8月1日閲覧)https://ganjoho.jp/data/med
pro/liaisoncouncil/pcare/2017/shiryo5/0101.pdf
●小川朝生,他:新版 がん緩和ケアガイドブック.緩和ケア概論.青海社. 2017.
●小松浩子:はじめに.田村恵子,編:緩和ケア教育テキスト がんと診断された時からの緩和ケアの推進,メディカ出版,2017.
●国立がん研究センターがん対策情報センター:がん情報サービス.最新がん統計.(2018年8月1日閲覧)https://ganjoho.jp/reg
stat/statistics/stat/summary.html
●国立がん研究センター東病院小児腫瘍科:思春期・若年成人(AYA世代)に発症するがん診療.(2018年8月1日閲覧)https://www.ncc.go.jp/jp/ncce/clinic/pediatric_oncology/050/index.html

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