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【連載】麻酔科看護師が解説! 術後疼痛管理

術後疼痛管理とは

執筆 吉田 奏

聖路加国際病院 麻酔科 周麻酔期看護師 チーフ

Jutugototu

術後疼痛管理とは痛みを抑えるだけではない

 手術を受ける患者さんにとって、術後の痛みは誰もが心配なことでしょう。体表面の傷、お腹や肩、頭痛など様々な場所で術後に痛みが出る可能性はあります。術後にはズキッとしたうずくような痛みだけでなく、ズーンと鈍い感じや突っ張るような感じなど痛みの性質はさまざまです。最近では”疼”という字を除き”術後痛管理”と呼ばれることもありますが、今回は馴染みが深い疼痛管理という言葉で解説していきます。

 術後疼痛管理では、ただ単純に、漫然と術後の痛みを抑えるだけでなく、なぜ痛みが出ているのかアセスメントが必要です。例えば、頭痛では麻酔時の硬膜穿刺に伴うものかもしれませんし、腹痛であれば縫合不全やイレウス、胸痛であれば心筋虚血や肺塞栓症など術後合併症の可能性もあります。術後の合併症の多くは発見が遅れると命にかかわるものであるため、早期発見・早期治療が求められます。常に合併症に伴う痛みか、手術の傷の痛みか鑑別しながら看護をしていかなくてはなりません。

痛みによる弊害、最近の周術期管理の考え方と術後鎮痛

 ひと昔前まで、「手術をしたのだから傷は痛くて当たり前!」と外科の先生は話していたかもしれません。しかし、痛みは患者さんにとって、ただ単に苦痛なだけではありません。痛みが強くベッドから起き上がれなければ下肢に血栓が出来たり、交感神経の緊張は不整脈や心筋虚血などの循環系の合併症にもつながります、また咳を我慢したり浅い呼吸になることで無気肺や肺炎など呼吸器系の合併症を起こすこともあります。術後の急性期(出来れば手術中から)の痛みを抑えておかないと術後数カ月以上に及ぶ慢性的な痛みに移行することも考えられます。痛みはせん妄のリスク因子の一つにもなりますし、例を挙げただけでも多くの弊害をもたらすことが理解できると思います。

 痛みはできる限り抑えたいものですが、薬による副作用や鎮痛方法による合併症のことも同時に考える必要があります。例えば、フェンタニルやモルヒネなどの麻薬は強力な鎮痛効果がありますが、吐き気や嘔吐、鎮静作用や呼吸抑制、消化管運動機能の低下などの副作用が懸念されます。また硬膜外麻酔は強力な鎮痛法で、交感神経を抑制することで消化管の動きを良くしますが、血液凝固機能の異常があったり、直前まで抗血小板や抗凝固薬を服用している患者さんに対しては、硬膜外血腫の可能性を高めるため避けたほうがよいでしょう。末梢神経ブロックも有効な鎮痛方法ですが、例えば頸部での腕神経叢ブロックは横隔膜を動かす神経も麻痺させてしまいますので呼吸機能がもともと良くない患者さんには慎重な判断が必要です。
 
 患者さんの状態や予測される痛みの強さなど総合的に判断して、実際の疼痛コントロールが行われます。各鎮痛方法の利点を生かし、副作用をできるだけ抑えるため、複数の薬剤や方法(例:麻薬の量を減らしてNSAIDsやアセトアミノフェンの2剤を併用するなど)を組み合わせて効果的な鎮痛を目指すことを”多角的鎮痛(マルチモーダル鎮痛)”と呼び、現在の疼痛管理の基本的な考え方になっています1)

 近年、Enhanced Recovery After Surgery:ERAS(以下、ERAS)という周術期管理の考え方が広がってきています。ERASでは術後患者さんの早期回復に向けて、過去さまざまな研究で効果が検証されてきた方法を組み合わせたプロトコールを推奨しています。もともと大腸手術の患者さんに対して考案され、術後の痛みを抑え下肢筋力の低下予防・早期の離床を目指し、出来る限り消化管機能を抑制しない方策が盛り込まれています。(例:腹腔鏡など低侵襲の手術選択、麻薬の量を減らす、硬膜外麻酔の使用、周術期の適正な輸液や体温管理、ドレーンや胃管を入れない、下剤を使用しない、絶飲食の時間を最小限にするなど)
実際にERASを導入して、患者さんの合併症の低下や入院期間の短縮に繋がったという報告が出ています2)3)

 現在、ERASの考えは消化器外科に限らず全ての手術患者さんに適用されつつありますが、ここで大切なことは術後疼痛管理が痛みという一面だけでなく周術期管理全体に影響を及ぼすのだという認識をもつことです。

 もちろんのこと、最近の外科の先生たちの痛みに対する意識は変わってきています。

術後管理は手術前から計画を!

 術後の疼痛管理の方法は手術に先立って計画されていて、概ね予定の手術内容に合わせて検討されます。過去の研究からは、どのような手術が術後痛くて(開腹、開胸、整形外科の関節手術など)、どのような患者さん(性別、年齢、不安の強さ)が痛がりやすいのか、ある程度明らかになっていますし4)、外科の先生や病棟の看護師さんたちは経験的にも感じていることかもしれません。ちなみに手術内容(術式)に合わせた効果的な鎮痛方法の組み合わせを提案をしているグループもあります5)。もちろん、実際に手術が始まってから急に切除範囲が広がったり、腹腔鏡から開腹の手術に変更されたりと予定とは状況が変わることはありますが、麻酔科の先生は患者さんが手術後目覚める前から、痛みができるだけ抑えられるように常に考えていて、それぞれの患者さんの状態に合わせた薬剤量の調整や神経ブロックなどの追加処置も行われます。

 手術室での麻酔だけでなく、術後病棟での疼痛管理にも痛みを抑えるプロである麻酔科がかかわれれば理想的かもしれません。この辺りは、以降の連載でお伝えしていきます。

連載では術後疼痛管理について具体的に解説

 今回、周術期管理の中で行われる、術後疼痛管理の概要をお話しました。これからの連載の中で、術後の痛みの種類や質、痛みのアセスメント、具体的な術後疼痛管理、当院での取り組みなど、より深くそして具体的に解説していきたいと思います。この解説を担当するのは、麻酔にかかわる専門的な教育を受けて、日々麻酔科の医師と共に働いている周麻酔期看護師6)7)です。私たちは、読者の方々に麻酔の話を噛み砕いて説明ができる存在だと自負しております。本連載が少しでも皆様の周術期、周麻酔期管理への理解と興味につながれば幸いです。


参考文献
1)Henrik Kehlet, et al.:The Value of ”Multimodal” or ”Balanced Analgesia” in Postoperative Pain Treatment, Anesthesia and Analgesia. 77.1993. p1048-56 .
2)Nikolaos Gouvas, et al. Fast-track vs standard care in colorectal surgery: a meta-analysis update. International Journal of Colorectal Disease. 24. 2009. p1119–1131.
3)Michel Adamina, et al. Enhanced recovery pathways optimize health outcomes and resource utilization: A meta-analysis of randomized controlled trials in colorectal surgery. Surgery 149(6). 2011. p830-840.
4)Hui Yun Vivian Ip , et al. Predictors of Postoperative Pain and Analgesic Consumption: A Qualitative Systematic Review. Anesthesiology 111. 2009.p657–77.
5) Procedure Specific Postoperative Pain Management: PROSPECT
Web site: https://www.postoppain.org
6)宮坂勝之:周麻酔期管理と周麻酔期看護師、周麻酔期の手術看護、宮坂勝之編、日総研出版、2015、p.5-12.
7)周麻酔期看護師ウェブサイト:https://js-pan.wixsite.com/perianesthesia-nurse