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【連載】いま知りたい! 心不全の緩和ケア

第1回 心不全の病態と特徴|イチから知りたい! 心不全の緩和ケア①

執筆 大石醒悟

兵庫県立姫路循環器病センター 循環器内科 救急科 医長

はじめに

 心不全の緩和ケアという言葉を聞くと、読者の皆さんはどのようなイメージをもたれるでしょうか。緩和ケアというと、“がんに対して行われるもの”“緩和ケア病棟やホスピスで行われる専門的なケア”といったイメージがあり、「それを心不全患者さんに提供するってどういうこと!?」と思われるかもしれません。しかし、本当にそうでしょうか。
 
 医療の進歩とともに社会の高齢化が進むにつれて、心不全患者さんの数は増加し続けており、死亡の転帰をたどる患者さんも同様に増加しています。2025年には120万人の患者数、15万人の死亡者数が予測されています(図1)1)2)。心疾患で死亡する患者さんの多くは心不全であり、ほかの疾患と同様、精神的苦痛、社会的苦痛、喪失体験に代表されるスピリチュアルペイン(霊的苦痛と訳されることもあります)を抱えます。そして、最期が近くなると、呼吸困難や倦怠感に代表される改善困難な身体的苦痛に立ち向かうことになります。
 
心疾患患者の死亡率の推移
 
 緩和ケアは「終末期ケアと異なり全人的苦痛に対処しQOLを改善する多面的アプローチである」と定義されており3)4)、対象疾患はがんのみならず、心不全を含む非がん疾患も含まれます。2013年のヨーロッパ緩和ケア協会からの声明(プラハ憲章)では、緩和ケアの提供を受けることは人権であるとされています5)

 循環器領域でも米国の心不全ガイドライン6)において、治療抵抗性の難治性心不全の治療目的として、緩和ケアが治療選択肢の1つであるとされています。
 
 本連載では、心不全とはどのような疾患であるのかというところから、緩和ケアの位置づけ、看護師の役割について概説し、具体的事例を通してさらに学びを深めてもらいたいと考えています。読み終えた後、「なぜ、いま心不全の緩和ケアが必要なのか」から一進んで、「なぜ、いままで心不全に緩和ケアが提供されてこなかったのか」ということを疑問に感じ、皆さんの今後の看護実践に少しでも役立ててもらえたらと思います。


目次


 

心不全の病態と特徴

 心不全の緩和ケアを考えるためには、心不全という疾患を理解しておく必要があります。ここでは知っておくべき重要な点として、「心不全という疾患は症候群であること」「慢性の進行性疾患で経過を把握することが大切であること」の2点に焦点を当てて説明します。

「心不全」という症候群

 心不全とは、「心筋障害によって心臓のポンプ機能が低下し、末梢主要臓器の酸素需要量に見合うだけの血液量を絶対的にまた相対的に拍出できない状態であり、肺、体静脈系または両系にうっ血をきたし日常生活に障害を生じた病態」と定義されています7)
 
 少し正確ではないかもしれませんが、わかりやすくいえば「心臓が本来のポンプ機能を果たせず心拍出量が不足するために、症状が出現する症候群」ということになります。つまり、呼吸困難(息切れ)、倦怠感、疼痛などの症状があり、その原因が心臓から送り出される血液量の不足であれば、心不全であると診断されます。原因や悪化の要因(増悪因子)は何であっても構わないため、起因する疾患が多岐にわたるのは当然です。目の前の患者さんに心不全の診断がついたならば、その症状をなくすために原因を調べて対処し、さらに増悪因子を可能な限り排除するということになります。

 心不全の症状の強さの診断には、NYHA心機能分類が用いられます。NYHAⅠ~Ⅳの順に重症となります(図2)。だいたいですが、わかりやすく説明すると、坂道を走るのがしんどいような場合は「NYHAⅠ」、安静時にも心不全症状が出現する場合は「NYHAⅣ」となります。「NYHAⅡ」は軽度のものから高度のものまであるため「NYHAⅡs」(軽度)NYHAⅡm」(高度)とする分類もあります。

心不全の症状の程度 (NYHA心機能分類)

慢性の進行性疾患としての心不全

 心不全は基本的に慢性の進行性疾患であり、その進行の程度はステージ分類で表されます。心臓の構造的な異常や心不全症状がなくても、心不全を発症するリスクが高い場合は「ステージA」、心臓の構造的な異常が進行していて、心臓に疾患はあるが心不全症状がまだ現れない場合は「ステージB」とされます。過去に心不全を発症したことがある場合や、現在心不全症状が現れている場合は「ステージC」となり、一般的にはこのステージで心不全と診断されます。さらに心不全が進行し、通常の治療に抵抗性の状態となる場合は「ステージD」とされ、難治性心不全と判断されます。
 
 以上の2点を知ると、心不全の病態と特徴、さらに治療までを理解できます。
 
 心不全の治療とは、進行を抑える(ステージが進まないようにする)こと、症状を改善・緩和する(NYHAを改善する)ことです。ステージ分類と症状分類を合わせると図3のようになり、症状は改善したり悪くなったりしますが、ステージは一方向性に進みます(心臓の構造変化が進みます)。心不全に伴う呼吸苦で苦しんでいる目の前の患者さんが、利尿薬で呼吸苦が取れたとしても、実は病気の進行(ステージ)を止めることができたわけでなく、確実に進んでいるということを、医療者は把握しておく必要があります。

心不全の経過と治療( ステージ分類とNYHA心機能分類)

 ちなみに、構造変化を遅くする(場合によっては少し改善する)薬剤としては、ACE阻害薬、β遮断薬、アルドステロン拮抗薬などがあり、症状を改善する薬には、利尿薬、強心薬、血管拡張薬、モルヒネを含むオピオイドや鎮静薬などがあり、前者が寿命を延ばす薬剤として知られています。構造変化に影響がなければ、症状を改善しても寿命は変わらないというのが現在の心不全治療薬の一般的な考え方です。

 以上を踏まえたうえでステージ別にまとめられた治療選択肢(図4)6)を確認してしてみると、よりよく心不全治療が理解できるのではと思います。

心不全のステージ分類と推奨治療


引用参考文献

1)厚生労働省:平成23年人口動態統計月報年計(概数)の概況(2014年11月16日閲覧)http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai11/kekka03.html
2)Okura Y, et al:Impending epidemic future projection of heart failure in Japan to the year 2055.Circ J 2008;72(3):489-91.
3)Jaarsma T, et al:Palliative care in heart failure:a position statement from the palliative care workshop of the Heart Failure Association of the European Society of Cardiology.Eur J Heart Fail. 2009 ;11(5):433-8.
4)淀川キリスト教病院ホスピス編:緩和ケアマニュアル 第5版.最新医学社,2007,p.39.
5)The Prague Charter(2013)(2016年11月16日閲覧)http://www.eapcnet.eu/Themes/Policy/PragueCharter.aspx
6)Yancy CW, et al:2013 ACCF/AHA Guideline for the Management of Heart Failure.A report of the American College of Cardiology Foundation/American Heart Association Task Force on Practice Guidelines.J Am Coll Cardiol 2013;62(16):1495-1539.
7)日本循環器学会:慢性心不全治療ガイドライン2010年改訂版(2016年11月16日閲覧)http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/j CS2010matsuzakih.pdf


この記事はナース専科2017年1月号より転載しています。

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