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【連載】いま知りたい! 心不全の緩和ケア

第2回 心不全の緩和ケアとは|イチから知りたい! 心不全の緩和ケア②

執筆 大石醒悟

兵庫県立姫路循環器病センター 循環器内科 医師

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目次


心不全の緩和ケアとは

 第1回「イチから知りたい!心不全の緩和ケア|心不全の病態と特徴①」の図4の中でステージDの選択肢として緩和ケアの提供が挙げられています。第1回で述べたように、緩和ケアとは、全人的苦痛に介入しQOLを維持する方法論で、その提供を受けることは人権であるとさえいわれています。当然、心不全患者さんも受けることが可能であるべきケアだと考えられます。しかし、多くの人にとっては、まだまだ身近なものではないと思われます。なぜ当たり前のように存在しないのかを説明しながら、心不全の緩和ケアがどのようなものかを明らかにしていきましょう。

予後予測が困難な心不全

 心不全の場合、短期間で明らかな病態悪化をみせるがんと異なり、症状が増悪と改善を繰り返すため、心不全の専門家でもどこから先が改善しない(確実に死に至る)と断言できる状態なのかがわかりません(図1)1)。そのため、人生の最期に向けての準備よりも、症状の改善を期待して治療を追加することが優先される傾向にあります。最期についての話し合いがなされないために、緩和ケアの説明が後回しになり、提供できなくなってしまっているわけです。

進行性の慢性疾患の経過

 ステージ分類と症状分類(NYHA分類)を用いて考えると、症状をよくするという目先のことにとらわれ過ぎ、ステージの進行について、患者さんや家族と医療者が十分に共有できていないというのが、現在の多くの心不全診療の実情のように思われます。

緩和ケアという用語についての誤解

 多くの医療者、特に緩和ケアになじみのない医療者は、緩和ケアが人生の終末期に受けるケアであると勘違いしているように思います。しかし、図2のように、緩和ケアは、生命を脅かす疾患を抱える患者さんや家族に対して、早期からQOLを改善するために提供されるアプローチです。人生の最後の数日や数週間におけるケアである終末期ケアとは異なるのです1)

緩和ケアに関連する用語の定義

 心不全の緩和ケアは、決して末期だけに存在するケアではなく、心不全の経過の中で当然存在するものです。あえて極論すると、苦痛を緩和するという緩和ケアのアプローチは、症状を診断基準とする心不全症候群に対する治療にほかならず、心不全に対する治療がそもそも緩和ケアであるという結論も得られるかもしれません。

緩和ケア導入のタイミングと意思決定支援

 実際に心不全の緩和ケアを実践するために、最も大事なことは何でしょうか。本特集では、その答えは“心不全の経過における意思決定支援”としたいと思います。

緩和ケア導入のタイミング

 心不全は最期に至るまで寛解する可能性の残る疾患です。そのため、どの時点で100%死に向かうと考えられるかは不明です。
 
 ですから、終末期ケアの観点から考えると、薬物的介入の時期などを決定するのは医学的判断のみでは困難で、患者さん本人、家族、多職種からなる医療者チームでの倫理的側面を含めた判断が必要となります。しかし、最終局面が近いと思われた段階でそのような究極の判断をすることは非常に難しく、介入の時期を逃してしまう結果となります。
 
 一方、緩和ケアの観点からみると少し考え方は異なります。まず、心不全の経過の中でステージDに至るまでの時期において、今後たどると考えられる経過について、患者さん、家族、医療者が共通認識をもち、患者さん主体の意思決定を支援します。それにより、ステージDに至った際に、症状緩和を含む終末期ケアという選択肢を選ぶことが可能になると考えられます。意思決定支援の結果として、図32)に示すように、一般的な治療(従来のケア)と並行して心不全の緩和ケアを提供することが可能になります2)
 
心不全の経過における緩和ケア

 つまり、緩和ケアの開始は、心不全の経過を見直す際に行うべき意思決定支援開始のタイミングと同時であるということができます。実臨床では、発症時に心不全の経過と疾患の一般的な説明を行い、入退院を繰り返すようになるころに個別に意思決定支援を開始していくことになると思われます。
 
 もう少し具体的なものとしては、SurpriseQuestion(驚き質問)を利用する方法も有用であるといわれています3)。Surprise Questionとは、「もし目の前の患者さんが1年以内に死亡したとしたら驚くであろうか」と医療者が自問自答する質問で、驚かないようであれば緩和ケアの取り組みを強化する、つまり意思決定支援に取り組む契機になるとして、英国で実際に用いられています(図4)。
 
Surprise Questionを用いた意思決定のアルゴリズム

意思決定支援の方法

 ではどのように意思決定支援をしていくべきなのでしょう。ここでは、「アドバンス・ケア・プランニング(Advance Care Planning:ACP)」という考え方と、簡単に使用できるコミュニケーション法「ask-tell-askアプローチ」について取り上げます。

アドバンス・ケア・プランニング (ACP)4)

 ACPとは「今後の治療・療養について患者・家族と医療者があらかじめ話し合う自発的なプロセスである」と、英国のNHS(国民保健サービス)により定義されています。その話し合いの内容は、患者さん本人の気がかりや意向、価値観や目標、病状・予後の理解、治療や療養に関する意向や好み、提供体制などが含まれており、事前指示書(アドバンス・ディレクティブ)を作成することや蘇生処置を中心とした対応検討 (DNAR)指示のように限定したものではなく、話し合いの過程(プロセス)そのものを指します。
 
 事前指示書を作成することが重視されていた時代もあったようですが、実際には仮想の状態を想定することが困難であること、本人の意思確認が困難となった場合に代理意思決定は書面だけでは困難であることなどが問題となりました。そこで、複雑な状況にも対応可能とするために、意思決定の過程を共有するACPが注目されることとなったのです。ACPでは、患者さんの自己コントロール感が高まり、患者さんと家族の満足度が向上し、患者さんの死後は、遺族の不安、抑うつが減少することが知られています5)

ask-tell-ask アプローチ(表)

ask-tell-askアプローチの流れ

 具体的に予後や治療目標について話し合う際に有用なコミュニケーション方法として、ask-tell-askアプローチがあります6)。まず、患者さんの理解と、希望を尋ね(ask)、誤解や不安が患者さん自身のケアに対する考え方にどれほど影響を与えているかを把握し、次に、患者さんが聞きたいと望む範囲で、理解可能な程度の情報を伝えます。その際には、患者さんがもっている知識に加えて、新しい情報を提供し、誤解を正します(tell)。この伝え方は、医療者が患者さんの視点に立ち、その価値観、望み、疾患の状態に合わせた提案をすることを可能にします。最後に患者さんからの質問を受けます(ask)。ここでは「質問はありますか?」よりも「質問・心配事はどのようなことですか?」と聞いたほうが、患者さんは質問をしやすくなるといわれています。この段階で患者さんと医療者が重要な問題について共通理解しているかを確認することができます。

 このアプローチを用いることで、医師が説明したと認識している内容と、患者さんや家族が認識している内容が食い違っていることが明らかになることもあり、良好な意志決定支援が実現できているか再確認できます。医療者はとかく病状説明が重要だと思い込みがちで、患者さんや家族がどのように理解しているかを確かめることや、何を心配に思っているのかを聴き出すことには慣れていない傾向があるといわれます。しかし、askから始めるこのアプローチを繰り返すことで、患者さんや家族の思いの実現が可能となります。このアプローチは1 人ですべてを行う必要はなく、看護師がaskし、医師がtellするといったように分業することもできるので、複数の医療者で情報共有することになり、効率的に意思決定することも可能となります。


引用参考文献
1)Murray SA,et al:Illness trajectories are also valuable in critical care.BMJ 2005 ;330 (7498):1007-11.
2)Allen LA,et al: Decision making in advanced heart failure: a scientific statement from the American Heart
Association.Circulation 2012 ;125(15):1928-52.
3)Thomas.K,et al: Prognostic Indicator Guidance (PIG) 4th Edition Oct 2011 © The Gold Standards Framework
Centre. In:End of Life Care CIC.(2016年11月16日閲覧)http://www.goldstandardsframework.org.uk/cd-content/
uploads/files/General%20Files/Prognostic%20Indicator%20Guidance%20October%202011.pdf
4)Advance Care Planning: A Guide for health and social care staff: National End of Life Care Programme.(2016年
11月16日閲覧)http://www.ncpc.org.uk/sites/default/files/AdvanceCarePlanning.pdf
5)Detering KM,et al: The impact of advance care planning on end of life care in elderly patients: randomised
controlled trial.BMJ 2010;340-c1345.
6)Goodlin SJ,et al: Communication and decision-making about prognosis in heart failure care.J Card Fail 2008;14(2):106-113.


この記事はナース専科2017年1月号より転載しています。

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