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【連載】いま知りたい! 心不全の緩和ケア

第5回 症例1:心不全末期の患者さんに対する緩和ケア

執筆 大石醒悟

兵庫県立姫路循環器病センター 循環器内科 医師

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目次


患者さん:80歳代男性

病歴
 1986年陳旧性心筋梗塞の診断で冠動脈バイパス術施行。心機能は経年的に低下し、2013年以降2015年までに3回の心不全入院歴あり。前回入院時(2014年)、強心薬(ドブタミン)を使用し、呼吸苦、倦怠感などの心不全症状は改善したため、内服強心薬(ピモベンダン)を開始。慢性閉塞性肺疾患および間質性肺炎の併発も認めたため、同入院中に在宅酸素療法を導入。

 退院後1 カ月ごとの外来通院を行っていたが、徐々に食思不振が進行し、退院8カ月後に下痢、嘔吐の消化器症状も出現。採血上もBUN/Cr 137.7/4.72mg/dLと高度の腎機能障害を認めたため、経過から低心拍出症候群(Low Output Syndrome:LOS)の状態にあるものと考え、慢性心不全急性増悪の診断で再入院となった(心不全増悪での入院は4回目)。

意思決定
 前回入院時、心機能は高度に低下していること、腎不全(Cr2.0~2.5mg/dL、eGFR15~20mL/分/1.73m2)と呼吸不全も併発していることから、今後退院後の生活をどのように過ごしたいか、もし再増悪した場合にはどのような処置を望むかについて、主治医から本人および娘(長女)へ質問を投げかけた。そして、「自宅でできる限り過ごす」「最期は病院での看取りを希望する」という意思表示があった。延命処置の類の処置は望まず、点滴などでのでき得る範囲での治療を希望した。急変時蘇生処置を希望しない旨をカルテに記載したが、意思決定は変わり得るものであるため、事前指示書の作成は行わなかった。

家族背景、社会背景
 1人暮らし。妻とは死別。長女が近隣に居住しており、何かあれば数分で対応可能。大手電気会社役員として定年まで働き、家長として意思決定を自分で行ってきた。自宅へ知人以外の人が入ることを好まず、自宅での介護サービスは利用せず。

心機能
 左室収縮能は全体的に低下。左室収縮率33%。心拡大あり。心尖部は瘤化。肺高血圧合併あり(推定右室圧54mmHg)。

◇入院後の経過
①入院直後、低心拍出状態にあるため、補液、ドブタミンを開始

②食事摂取可能。小康状態で、第10病日からドブタミンを減量

③第18病日、倦怠感に増悪あり、全身性疼痛出現。心不全増悪を疑いドブタミンを増量

④全身性の疼痛に対して、第20病日よりアセトアミノフェンを開始

⑤小康状態が続いていたが、呼吸苦の訴えの増悪を認め、呼吸回数も24回と増えてきていたため、第44 病日、塩酸モルヒネを5mg/ 日で開始

⑥呼吸苦がいてもたってもいられないとの訴えが徐々に強くなり、第46病日、デクスメデトミジン(プレセデックス®)の持続投与開始(浅い鎮静:会話可能、日中減量し食事可能)

⑦第47病日、深い鎮静を希望されたため、持続投与量を増量。第49病日、死亡退院された

入院後の経過


経過の中で考えたこと(薬剤使用について)

 今回の入院までに意思決定支援を行っており、本人は明確な意思表示をしていました。その状況下においても、やはり適切な薬物投与の時期は難しく、常に迷いがあります。

塩酸モルヒネと腎機能障害

 呼吸苦に効果が証明されているオピオイドは塩酸モルヒネのみで、当院でも使用しています。しかし多くの場合で、本患者さんのように腎機能障害を合併しているので、薬剤の蓄積が危惧されます。少量の短期間投与では問題ないと思われますが、数週間に渡る長期間投与の安全性については、現段階では不明です。体動時の呼吸苦は入院前から存在していたため、入院時から塩酸モルヒネを使用することを考慮してもよいかもしれませんが、本事例では強心薬などの治療を行ったうえで、症状増悪を認め、ほかの治療選択肢がないと判断したために使用しています。

鎮静薬の使用

 呼吸苦や疼痛の緩和を目的としたモルヒネの使用は比較的安全であり、病状が改善した場合には中止することも可能(表)ですが、鎮静薬の使用は個別に考える必要があります。鎮静薬の使用はその先にある死を意味するものなので、鎮静薬を使用する際には倫理的妥当性の判断を要します。その際には、「意図(苦痛緩和を目的としている)」「自律性(図1)」「相応性(苦痛緩和として相対的に最善とされる)」を満たすことが条件となります1)。本事例では、複数の医療者により本人の意思表示を確認したうえで、深い鎮静を行っています。
 
オピオイド使用プロトコル
 
鎮静 (Palliative Sedation)の倫理的妥当性(自律性)の判断
 
 心不全の末期における薬剤の投与は、基本的には治療を継続しながら追加投与として実施する(図2)2)ことになるので、病状をみながら目の前の患者さんに合わせて多職種で検討することが望ましいと考えられます。
 
心不全の薬物療法のイメージ 


引用参考文献
1)日本緩和医療学会緩和医療ガイドライン作成委員会編:推奨と委員会合意.苦痛緩和のための鎮静に関するガイドライン 2010年版.(2016年11月16日閲覧)https://www.jspm.ne.jp/guidelines/sedation/2010/chapter05/0501.php
2)Joanne Lynn,et al:Living Well at the End of Life:Adapting Health Care to Serious Chronic Illnesses in Old Age.
RAND document WP-137.(2016年11月16日閲覧)https://www.rand.org/content/dam/rand/pubs/white
papers/2005/WP137.pdf


この記事はナース専科2017年1月号より転載しています。

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