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【連載】いま知りたい! 心不全の緩和ケア

第6回 症例2:在宅での最期を希望する患者さんに対する緩和ケア

執筆 大石醒悟

兵庫県立姫路循環器病センター 循環器内科 医師

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目次


患者さん:80歳代男性

病歴
 1996年拡張障害に伴う心不全で入院。以降頻回入院歴あり(1999年以降7回、2013年以降5回、計12回入院歴あり)。経過中、洞不全症候群でペースメーカー留置。術後ADLは徐々に低下してきており、家の中では生活自立しているが、外出はほぼできていない。
 
 慢性腎臓病の併発があり、Cr2.0~2.5mg/dL(eGFR15~20mL/分/1.73m2)で推移。認知機能は保たれており、意思表示は十分にできる。
 
 2014年3月の心不全入院時に、在宅で最期を過ごすことを希望されたため、訪問診療を行っている近医との併診とし、退院前カンファレンスを行い、在宅環境を整え退院。病状次第では在宅で看取りまで行う方針となっていた。
 
 2015年4月、発熱を契機に全身倦怠感、食思不振を認め、CRP20mg/dLと炎症反応高値であった。ペースメーカー関連感染症の可能性も疑われたため、近医診察後、当院に紹介、同日緊急入院となった。

意思決定
 前回入院時、本人は家で最期を過ごすことを望み、妻、娘を含めた家族も了承していた。在宅医、訪問看護師を含む在宅スタッフとも、当院と併診しながら状況に合わせて在宅で看取りを検討する方針としていた。
 
 急変時蘇生処置を希望しない旨聴取をしていたが、事前指示書の作成は行わなかった。

家族背景、社会背景
 妻と2 人暮らし。長女が近隣に居住し、頻繁に家へ手伝いに行っている。息子も近隣に住んでいるが、病状説明時に時折来院する程度。在宅サービスを利用し、訪問看護師、医師の往診も受けている。

心機能
 左室収縮能は全体的に低下。肥大心(アミロイドーシスなどの蓄積疾患が疑われていたが、確定診断には至っていない)。
 
◇入院後の経過
①抗生物質投与、ドブタミンを開始(全身倦怠感、 呼吸苦に対して)

②利尿良好で、全身倦怠感、呼吸苦はともに改善傾向となったためドブタミンを漸減

③倦怠感増悪、腎機能増悪あり。ドブタミンを再増量

④内服強心薬、トルバプタンを追加後、再度漸減するも、腎機能増悪、倦怠感増悪。しかし、本人、家族ともに帰宅する希望あり。訪問看護師、家族とともにカンファレンスを実施し、少し無理してでも漸減可能であれば、自宅への退院を目指す方針で決定

⑤ドブタミンを漸減し、2週間後自宅退院(浮腫増悪、倦怠感軽度増悪あり)

⑥退院48日後、自宅で家族の見守りのもと死亡

入院後の経過


経過の中で考えたこと(意思決定と在宅移行について)

 自宅で最期を過ごすことを患者さん本人が望み、家族もそれを了承していたとしても、心不全診療では、治療の強化が症状緩和につながることもあるため、病院では治療介入が優先される傾向があります。

意思決定で優先されるもの

 本事例でも、治療の追加により症状は改善しましたが、強心薬を中止できず、本人の希望をかなえることが難しい状況となりました。④のカンファレンスにおいて、医師の思いは、「家に帰っても倦怠感の強い状態では、患者さんは帰らなければよかったと思うのではないか。つらくなるのが予想されるのであれば帰宅するという選択肢は選べない」というものであり、看護師の思いは、「本人の意思決定があり、家族は支えると言っている。なぜ強心薬を中止して帰ることができないのか」といったものでした。どちらも患者さんのことを考えた意見であり、最終的には患者さんの意思を可能な限り尊重するという判断になりました。結果として、医師が1週間程度であろうと見積もっていた在宅療養期間は48日に及びました。

在宅移行の際の考え方

 すべての場合において在宅が望ましいというわけではありません。点滴をつけたまま家へ帰るのであれば病院がよいという人もいるし、点滴をつけてでも帰りたいという人もいます。医療者がすべてを把握することは不可能ですが、患者さんが何を期待しているのか、発言の陰に何が潜んでいるのかを捉える努力をしなければなりません。

<当院での在宅との連携の取り組み>
 当院では、慢性心不全看護認定看護師を中心に、患者さんの希望があった場合の在宅移行の取り組みを続け、2016年8月までの30カ月で10名の在宅看取りを実現しています。最期まで在宅療養を希望された場合でも、亡くなる直前に入院を希望され、病院で亡くなる人もいます。意思決定は病状とともに変化するため、それも決して間違いではありません。患者さんに最期に入院する希望がある場合には、病院として受け入れる保証をすることが、連携において非常に重要であると考えています。

最後に

 高齢社会において適切な心不全患者さんへの対応を行っていくために、今後緩和ケアの考え方を知っておくことは必須のものとなってくると思われます。患者さんの価値観に基づいた意思決定支援を行い、治療と並行して緩和ケアを実践し、心不全患者さんの人生に寄り添いながら、よりよい形で生の終焉を支援することが大切です。読者の皆さんが、それぞれの立場、地域特性を活かして取り組みを広げてくださることを期待しています。


この記事はナース専科2017年1月号より転載しています。

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