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【連載】基礎から解説!いますぐ実践できる「がんの緩和ケア」

第4回 口腔粘膜炎は予防が大切! 鎮痛薬で食事や睡眠を守る|がんの治療と緩和①

執筆 重山千恵

広島大学病院緩和ケアセンター 緩和ケア認定看護師

Cancer kanwacare

<口腔粘膜炎とは>
抗がん剤や頭頸部放射線によって生じる口腔粘膜の病変

 一般的に、口腔粘膜のただれ、潰瘍形成は口内炎といわれますが、抗がん剤治療や頭頸部領域への放射線治療などのがん治療に付随して生じる口腔粘膜の炎症、潰瘍形成といった粘膜の病変は、「口腔粘膜炎」と定義されています。

 化学療法、放射線治療による口腔粘膜炎の発症頻度は、通常の抗がん剤使用で30~40%、造血幹細胞移植時(大量の抗がん剤使用時)では70~90%、抗がん剤と頭頸部への放射線治療併用時はほぼ100%といわれています1)。口腔粘膜炎の悪化は痛みによる苦痛だけではなく、経口摂取の低下、脱水、感染など、全身状態にも影響を与え、がん治療の妨げになる場合があります。口腔粘膜炎に対しては、有効な治療法がないのが現状であり、発症を予防することと発症後の疼痛緩和が重要です。

<アセスメント>リスクファクターの確認と観察による評価

リスクファクターの確認

 口腔粘膜炎の患者さん側のリスクファクターを表1に示します。
歯周病がある、口腔内が不衛生であるなどの状態のままがん治療を受けると、口腔粘膜炎が重度に現れやすくなります。そのため、治療前に患者さんの口腔内の状態を確認し、リスクが高い場合には、歯科を受診してから治療を開始する必要があります。

表1 口腔粘膜炎の患者さん側のリスクファクター
口腔粘膜炎のリスクファクター
松原裕理,他:化学療法/放射線療法が始まる前にできること・発生後のケア.緩和ケア2017;27(1):14.

口腔内の観察によるアセスメント

 患者さんの口腔内を観察し、口腔粘膜炎の有無、口腔ケアの状態を確認します。薬物療法に伴う口腔粘膜炎は、可動粘膜(口腔内の柔らかくて動く部分の粘膜:舌腹、舌側縁、頬粘膜、軟口蓋など)に発症します。発症部位に注意して観察を行います。

 口腔粘膜炎の重症度は、CTCAE v5.0-JCOG(有害事象共通用語規準v5.0日本語訳JCOG版,表2)で評価します。

表2 口腔粘膜炎の評価(CTCAE v5.0-JCOG)
CTCAE
有害事象共通用語規準v5.0日本語訳JCOG版より引用、改変(JCOGホームページhttp://www.jcog.jp)

<すぐ実践できる看護>
口腔内の清潔と保湿で予防し、食事時は痛み止めを使う

 がん治療を受ける患者さん、治療中の患者さんに対し、口腔粘膜炎の予防や悪化防止、苦痛緩和など、目的に応じたケアを行います。主なケアには、以下のようなものがあります。

清潔

 口腔粘膜炎を予防するためには、日頃からのセルフケアが大切です。患者さん自身が行える場合は、正しいブラッシング方法、ケア方法を説明します。

 放射線治療の前には、歯科医師の診察を受け、齲蝕や歯周病を治療し、歯科衛生士によるブラッシング指導を受けます。

 口腔粘膜炎が悪化すると口腔ケアが難しくなるため、口腔の状態に合わせたケアが必要になります。歯ブラシはナイロン製で毛先が柔らかくヘッドの小さいものを使用します。痛みが強く出てきたら、さらに柔らかい軟毛ブラシやシングルタフトブラシ(1本磨き用ブラシ)に変更します。

 毛先が開いた状態の歯ブラシを患者さんが使用していないか、口腔内の状態に合ったものを使用しているかを確認します。実際に口腔内を確認し、磨けていない場合は指導を行い、必要時は介助します。

 また、食事をしていない場合でも口腔内は汚染されるので、ブラッシングを行うように説明します。

保湿

 唾液には、粘膜の保護作用や細菌を処理する自浄作用、抗菌作用、pH緩衝作用、食物の溶解作用、円滑作用、消化作用など、さまざまな働きがあります。

 照射野に耳下腺、顎下腺、舌下腺が含まれた放射線治療を受けると、唾液分泌量が減少します。また、化学療法や投与されている薬剤によって唾液分泌低下をもたらす場合もあります。このようながん治療の影響などにより、口腔内が乾燥すると、細菌が増えやすくなり、粘膜が傷つきやすくなります。口腔粘膜のバリア機能が低下した際に、細菌感染が起こらないようにするため、口腔粘膜炎が出現する前(Grade1の段階)から、1日6~8回程度の含嗽を行うように指導します。

 水や氷、お茶を含み、口腔内を常に保湿された状態に保つようにします。含嗽剤はアズノール含嗽液®うがい液や含嗽用ハチアズレ®顆粒を使用します。特に夜間は乾燥しやすいため、湿ガーゼを内包したマスクの使用やノンアルコールの低刺激性の保湿剤の使用を勧めます。

疼痛緩和

 口腔粘膜炎は痛みを伴うため、食事摂取量の減少や痛みによる不眠などが生じている場合は、積極的に疼痛緩和を行います。さらに痛みによって会話が難しくなることもあり、生活面に大きな影響を及ぼすため、早期に対応することが必要です。

 具体的には、キシロカイン®ビスカスを混ぜた含嗽剤を1分間口に含み、口腔内をしびれさせて痛みを緩和します。食事を摂取するために疼痛緩和が必要なときは、食事の直前に含漱剤を用いてブクブクうがいを行います。含嗽剤の効果は30分程度持続します。食事の前以外にも、痛みが強い場合はその都度使用します。含嗽剤だけで痛みが軽減しない場合は、積極的に鎮痛剤の使用を検討します。

 鎮痛剤は、最初はアセトアミノフェンや非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)を使用し、痛みが強い場合はオピオイドを使用します。食物の接触によって強い痛みが現れる場合は、食前に鎮痛剤を内服します。内服が困難となった場合は、貼付剤(フェントス®テープ、デュロテップ®MTパッチ)や注射剤(モルヒネ塩酸塩注射液、オキファスト®注、フェンタニル注射液)を検討します。

 このほか、2018年5月から歯科処方により使えるようになったエピシル®という口腔用液があります。これは、口腔粘膜に適量を塗布すると数分以内に水分を吸収してゲル状になり、物理的バリアを形成することにより、化学療法や放射線療法に伴う口腔粘膜炎で生じる疼痛を管理および緩和します。実際に使用している患者さんからは「痛みが軽減した」という声もあります。

食事の工夫

 食事の内容は、水分を多く含み、口当たりのよいものを工夫します。熱いものは炎症部を刺激し痛みが強くなるため、人肌程度に冷まして摂取します。刺激が強いもの、塩分・酸味の多いものは浸みるため、控えるように説明します。また、栄養バランスや栄養補助食品の利用について、栄養士に相談します。

口腔粘膜炎の緩和のポイント

口腔粘膜炎は、痛みだけではなく、食べること・話すことなど、患者さんのQOLに大きく影響します。

重症化すると治療の中断や中止を余儀なくされ、患者さんの治療意欲の妨げとなります。

患者さんへの指導と発症の予防、発症後の苦痛の緩和が重要です。


【引用・参考文献】
1) 厚生労働省:重篤副作用疾患別対応マニュアル.抗がん剤による口内炎.p8-23.2009.
(2018年4月18日閲覧)http://www.mhlw.go.jp/2006/11/dl/tp1122-1109.pdf
●菱沼貴生:放射線による皮膚、粘膜症状、宿酔.がん看護2001;16(2):159-63.
●NCI-CTCAE version4.0:有害事象共通用語基準v4.0日本語訳JCOG版:口腔粘膜炎の評価.(2018年4月18日閲覧)http://www.jcog.jp/doctor/tool/CTCAEv4J20170912v20_1.pdf
●上野尚雄:口腔粘膜炎の発症機序とがん治療へ与える影響.緩和ケア2017;27(1):4-9.
●松原裕理,他:化学療法/放射線療法が始まる前にできること・発生後のケア.緩和ケア2017;27(1):14.

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