【連載】早期介入がイイのはなぜ? 重症患者の経腸栄養Q&A

第1回 重症患者の栄養管理とは? エネルギー代謝にどんな違いがあるの?

執筆 鈴木宏昌

帝京平成大学 健康メディカル学部 医療科学科教授

「重症患者の栄養管理」をどう考えればよいのか

「重症患者の栄養管理」を考えることは、災害時の支援体制を考えることに似ています。災害には自然災害もあれば、テロ・内戦などの人為的な災害もあります。また、市町村レベルの災害もあれば、国家存亡の危機に直面する大規模災害もあります。同じように、「重症患者」にはショックの患者さんもいれば、心不全、呼吸不全、腎不全、多発外傷、重症頭部外傷、広範囲熱傷、開心術後の患者さんもいるでしょう。さらに重症度でいえば、ICUで人工呼吸管理を要する患者さんを思い浮かべる場合も、その施設あるいは病棟の中では「重症だ」と考える場合もあるでしょう。

 地震災害で必要な支援物資や輸送手段と、難民支援に必要な物資や輸送手段が異なるように、重症患者の栄養管理を考えるときにも、①どのような疾患なのか、②どの程度の重症度なのか、③現在はどんな時期にあるのか、④栄養投与に利用できる経路はあるか、など条件はさまざまです。そのため、「重症患者ではこれがbest」という方法はありません。個々の患者さんの病態を評価して判断する――「bestを目指してbetterを選択する」のが医療者の決断といえます。
 
 そこで大切になるのが「施設力」「チーム力」です。betterだとわかっている方法でも、自施設で可能とは限らず、また実施することがbetterとも限りません。betterなことが明確ならば、関係する医療者全員がそのことを理解し、共通した認識で協力できる体制を築かなければなりません。特に栄養管理では、医師・看護師・薬剤師・管理栄養士などが参加した「栄養サポートチーム(NST)」が必要でしょう。

Q.重症患者のエネルギー代謝は通常とどう違うの?

A.重症患者にはストレスに対する共通の生体反応が起こります。それにより蛋白異化が亢進し、エネルギー消費量が増加した状態になります。

侵襲によって2つの生体反応が起こる

 ひと言で「重症患者」といっても、さまざまな原因疾患や異なった重症度の傷病者が含まれています。原因が違えば、それによって起こる生体の変化(病態)も異なっているはずです。しかし、いずれの疾患も生体には大きな「ダメージ」となり、その原因である「侵襲(ストレス)」に対する生体の反応には共通した点があります。

 侵襲が加わると、原因にかかわらず2つの重大な生体反応が起こることがわかっています。1つは侵襲を感じた神経系によって起こる反応(1神経―内分泌反応)、もう1つはダメージを受けた組織(マクロファージや内皮細胞)から放出されるケミカルメディエーターによる反応(2炎症反応)です。

 図1に示すように、「神経―内分泌反応」には、❶交感神経―副腎系の反応と、❷視床下部―下垂体―副腎系の反応があります。これにより放出されるカテコラミンや成長ホルモン、バゾプレシンといったホルモンの反応は、反応時間こそ短く数秒から数時間ですが、侵襲が続く限り繰り返し起こることになります。重症患者では精神的ストレスや疼痛、低体温といった回避可能な侵襲もあることを忘れないようにする必要があります。
 
侵襲に対する生体反応(神経̶内分泌反応と炎症反応)

 一方、「炎症反応」の引き金になるのが、TNF-α、IL-1、IL-6などのサイトカインです。損傷された組織が小さければ放出されるサイトカインも少なく、損傷部周囲に変化をもたらすのみですが、大量に放出されると全身の代謝に大きな影響を及ぼします。

 これら2つの反応によって代謝には、異化が亢進(蛋白分解)し、エネルギー消費量が増加(代謝亢進)するという変化が起こることが知られています。代謝が亢進するのは、生体の受けた侵襲に対して修復しようとする合目的な反応です。そのために、炎症反応で放出されたサイトカインによって蛋白異化が亢進し、内因性基質(主に骨格筋の分解)が動員されるので、最も重要な燃料であるグルコースの供給を維持するためにインスリン抵抗性を高めて不要なグルコースの消費を制限したり、肝臓などでグルコースの産生(糖新生)を促します。また、脂肪の分解も亢進して脂肪酸が燃料として放出されます。

エネルギー消費量の増加は侵襲の程度で決まる

 さて、問題はどのくらいの侵襲だと、どのくらいの代謝亢進が、いつまで続くのか、ということです。

 侵襲の開始がはっきりしている外傷では、受傷直後の数時間~48時間(侵襲の程度による)、エネルギー消費量は低下しますが(干潮期)、これを過ぎるとエネルギー消費量は侵襲の程度に応じて高く、長く続きます(満潮期)(図2)。多発外傷や敗血症などの重症感染症では、安静時エネルギー消費量(REE)は正常時の20~50%増加、広範囲熱傷ではさらに上昇し、40~70%以上にも達します。予定手術は計画された外傷ですから、侵襲の程度を予測しやすいといえるでしょう。
 
侵襲後の代謝量の変化


column1 ガイドラインはどう利用すべき?
 最近、さまざまな学会から「ガイドライン」が公表され、重症患者の栄養管理についても表に示すものがあります。こうしたガイドラインは、①作成された時点で、②発表されている文献から、③特定の対象・条件で、④betterと思われる根拠(事実)がまとめられたもので、「推奨される方法を行えば最善の結果が得られる」「推奨されていない方法は”間違い”である」といった性質のものではありません。現実の医療では、目の前の患者さんにとってのbetterを選択していかなければならず、ガイドラインを理解するうえでは、病態と治療法を区別して理解することが大切です。ある栄養素が減少する(病態)からといって、それを投与する(治療法)ことでよい結果を得られるとは限らないのです。このことは栄養管理一般にいえることだと理解しておきましょう。

重症患者の栄養管理に関する主なガイドライン

column2 「大きな侵襲の手術」とはどのような手術か
 多発外傷や広範囲熱傷では、生体の数十%もの組織が損傷を受けます。これと比べると通常の予定手術は侵襲としては少なく、REE の増加は10~20%のことが多く、さらには腹腔鏡手術など手術の低侵襲化により手術侵襲そのものは小さくなりつつあります。予定手術の中で比較的侵襲度が高いと考えられているのは、開胸を伴う食道手術や腹腔内多臓器の合併切除、体外循環を伴う開心術などです。むしろ、予期せぬ術後の感染性合併症や術前栄養不良を伴った傷病者の手術では、侵襲に対する再評価が必要でしょう。
 


参考文献
1)Kreymann KG,et al:ESPEN Guidelines on Enteral Nutrition: Intensive care.Clin Nutr 2006;25(2):210-23.
2)McClave SA,et al:Guidelines for the Provision and Assessment of Nutrition Support Therapy in the Adult Critically Ill Patient: Society of Critical Care Medicine( SCCM) and American Society for Parenteral and Enteral Nutrition(A.S.P.E.N.).JPEN J Parenter Enteral Nutr 2009;33(3):277-316.
3)日本静脈経腸栄養学会,編:静脈経腸栄養ガイドライン 第3版.照林社,2013.
4)日本集中治療医学会重症患者の栄養管理ガイドライン作成委員会:日本版重症患者の栄養療法ガイドライン.日集中医誌 2016;23:185-281.


この記事はナース専科2017年5月号より転載しています。

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