【連載】早期介入がイイのはなぜ? 重症患者の経腸栄養Q&A

第4回 重症患者さんの栄養管理で早期から腸管を使用する意義とは

執筆 鈴木宏昌

帝京平成大学 健康メディカル学部 医療科学科教授

目次

Q.腸管を利用する意義はどこにあるの?

A.小腸粘膜の萎縮を防ぎ、感染性合併症による侵襲を減らすことで、重症度を高めない良好な長期予後の獲得が期待できます。

腸管の飢餓状態で引き起こされるBTを防ぐ

 小腸の絨毛は最も細胞分裂の活発な組織です。小腸の絨毛上皮細胞は陰窩部から絨毛の先端まで2~4日で押し出され、脱落してしまいます(図)。これは、数日間上皮細胞の分裂が停止しただけで絨毛上皮は脱落し、小腸粘膜が萎縮してしまうということを意味しています。
 
絨毛の内部構造

 消化管に栄養が流れなくなると、腸管は飢餓状態(intestinal starvation)に陥ります。腸管に飢餓状態が起こると、上皮細胞の増殖が抑制されるばかりでなく、上皮細胞の脱落した小腸粘膜が萎縮します。小腸粘膜が萎縮すれば、腸管壁から腸管内に存在する細菌や細菌由来物質(細菌の死骸、外毒素など)が毛細血管を経て体内に侵入してしまうバクテリアル・トランスロケーション(BT)が起こります。BTにより血流に入った細菌や毒素は感染性合併症を増やし、全身の炎症反応を起こして重症度を高めると考えられています。

 つまり、早い時期から消化管に栄養を流すこと(早期経腸栄養)で、①上皮細胞の脱落を防ぎ、②BTを減らすことで感染性合併症による侵襲を減らし、③腸内細菌叢を維持する、ことが期待されます。侵襲度が上がらなければ、入室期間や死亡率も低下することが期待できるでしょう。
 
 そのためには、小腸上皮が脱落する前に経腸的に栄養を投与することが必要になります。実際、24時間以内の早期に経腸栄養を開始すると死亡率が低下すること、48時間以後の開始でその効果が得られないことが示されていて、上記の理論が裏づけられています1)2)

なぜ低容量経腸栄養ではいけないのか

腸管粘膜の維持と、これによる免疫能の保持だけが目的なら、少量の投与熱量で十分なはずで、なぜ低容量経腸栄養(tropic feedaing:<500kcal/day)ではいけないのでしょう。低容量経腸栄養では、総投与量が不足し、良好な長期予後が得られないことが報告されています3)。また、逆に目標エネルギー投与量の100%を投与すると、かえって死亡率が増加することが報告されています4)。これらの結果から現時点では、投与量は目標投与量よりは少なく、かつ低容量(<500kcal/day)にならないことが推奨されています。


column 経腸栄養と経静脈栄養
 ICU の中には経腸栄養が不可能な重症患者もあります。経腸栄養が開始できなければ、急性期の1週間、経静脈栄養を開始すべきなのか――実はこの答えはまだ出ていません。推奨されているのは、急性期早期経腸栄養が20kcal/hrに達していれば、目標量を満たすために経静脈栄養を追加することはすべきでないということです。経腸栄養ができない場合でも、多くの内因性基質が産生されているので、早期より目標量の100%を経静脈栄養で投与することは避けるべきといえるでしょう。
 


参考文献
1)Doig GS,et al:Early enteral nutrition reduces mortality in trauma patients requiring intensive care:a meta-analysis of randomised controlled trials. Injury 2011;42(1):50-6.
2)Artinian V,et al:Effects of early enteral feeding on the outcome of critically ill mechanically ventilated medical patients. Chest 2006;129(4):960-7.
3)Rice TW,et al:Randomized trial of initial trophic versus full-energy enteral nutrition in mechanically ventilated patients with acute respiratory failure.Crit Care Med 2011;39(5):967-74.
4)Elke G,et al:Close to recommended caloric and protein intake by enteral nutrition is associated with better clinical outcome of critically ill septic patients: secondary analysis of a large international nutrition database. Crit Care 2014;18(1):R29.


この記事はナース専科2017年5月号より転載しています。

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