【連載】入院治療中の糖尿病患者さんの血糖コントロールが難しい理由 血糖コントロールの疑問Q&A

スライディングスケールの使いどき

執筆 藤田成裕

日本赤十字社長崎原爆病院 内分泌・代謝内科部長

Q.スライディングスケールとはどのようなときに使用するのですか? 使ってはいけないときはあるのでしょうか?

A.あくまでも応急処置的なものと考えることが重要です。軽症者以外では継続して使用することはありません。

シンプルで実施しやすいが適応になる患者さんが限られた方法

 スライディングスケールは、血糖値に対して超速効型や速効型インスリンを投与するための方法です。このスケールを用いるメリットは、血糖値に対するインスリン量が決まっているので指示がわかりやすいという点です。しかし、これが有効である条件も決まっており、すべての糖尿病患者さんに適応があるわけではありません。

 どのような患者さんが適応になるかというと、比較的耐糖能が保たれている患者さんです。患者さん自身から分泌されるインスリンが保たれているが十分ではない場合に、そのアシストとして少量のインスリンが加わるだけでコントロール可能な場合がこれに相当します。

 高血糖になることが少なく、インスリン製剤を使用する必要があり、血糖値の上昇も少ない場合はよい適応となります。逆に血糖値測定のたびにスケールに引っかかったり、インスリン製剤を使用するような場合には、スライディングスケールの使用は望ましくありません。これはスライディングスケールにかかる時点ですでに血糖値が上昇していることを示しており、数時間にわたり患者さんは高血糖による悪影響を受けていることになります。スライディングスケールにかからない治療を行うことが望ましく、このような場合には直ちに変更する必要があります。

 なぜ、こうなるかというと図にあるように、速効型や超速効型インスリンの効果は4~6時間であり、また効果にもピークがあるため、持続的に血糖値を上昇させる(輸液内のブドウ糖のような)因子がある場合には、ちょうどよい血糖値に収まらなくなるためです。血糖値を平坦化するためには、基本的にブドウ糖の上昇に合わせたインスリン濃度の上昇が必要になり、絶食中の輸液による血糖上昇には対応できません。また血糖値に対してのみインスリン投与量を決定するため、食事による血糖上昇効果は考慮に入れておらず、食事を摂取している場合には使用が困難な方法です。食前の血糖値が低い場合でも、食事を十分摂ると思わぬ高血糖となります。これは食事を摂取しつつスライディングスケールに従うと、血糖値が高くないためにインスリン製剤が投与されないからです。逆に食前血糖値が高値であっても、食事を全く摂れないのにスケールに従いインスリン製剤を使用すると、低血糖となることがあります。このようにスライディングスケールは、血糖コントロールには不向きな方法であり、専門家の間ではできるだけ使用しない方向にあります。

スライディングスケールの一例

 まとめていえば、どのような患者さんが適応になるかというと、耐糖能が悪くない場合やこれまでの病歴がわからないが血糖値の推移を見たい場合、緊急入院時に専門家の診療を受ける間のつなぎとして用いることがあります。指示を受ける側にとってはシンプルな方法であるため、病棟の看護師には行いやすいと思いますが、本来はすべての患者さんに有用な方法ではないことを認識しておく必要があります。


この記事はナース専科2017年11月号より転載しています。

ページトップへ