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【連載】「ビュートゾルフ」型訪問看護から学ぶ

ビュートゾルフの地域連携、その取り組みと考え方

  • 公開日: 2018/10/4

オランダの「在宅ケア」の約60%を占め、世界中で注目されている在宅ケア組織「ビュートゾルフ(Buurtzorg)」。その成功の理由の1つには、地域のネットワークとの連携による利用者の自立支援があります。このビュートゾルフをモデルとした訪問看護の提供に取り組む「ビュートゾルフ練馬富士見台」では、地域との連携にもその考え方を取り入れながら進めています。
今回は、地域連携の実践例や考え方について紹介します。


Q. 地域連携について、ビュートゾルフの考え方はどのようなものですか?

A. ビュートゾルフでは、利用者と地区看護師の人間的な関係を基盤とした利用者の自立支援をミッションとしています。つまり、利用者が自分の力とともに、家族、友人、近隣の人々などの周囲との人間関係(インフォーマル・ネットワーク)と公共・民間のサービス(フォーマル・ネットワーク)に支えられて、自分の住み慣れた地域で暮らせるように支援することが看護師の役割となります。

 例えば、独居の利用者の場合、ビュートゾルフの看護師が、利用者本人が友人にサポートを依頼するように提案し、その友人が看護師とコンタクトをとるというケースもあるそうです。看護師が何もかもするのではなくて、できる限り利用者、もしくは家族等の力で、各ネットワークの支援につないでいくという視点が重要だとされています。

 こうした概念は、「玉ねぎモデル」というで示されています。しかし、この概念はビュートゾルフ独自というわけではありません。前にも話しましたが、こうした考え方をスタッフ全員で共有できるところにビュートゾルフを取り入れる意味があると考えています。

 それに、オランダではビュートゾルフの看護師が、ケアマネジメント、看護、介護を一括して提供することができますが、日本では制度上できないなど、オランダと日本では訪問看護が提供できるサービスが異なります。

 そうした現状を踏まえて、私たちが目指すのは、医療、看護、介護、リハビリなど、細切れのサービスを1つにするためにはどうすればいいかを考えられる看護師集団であること。利用者の現在の病状、生活の状態などを適切にアセスメントして、先の見通しを立てながら、他職種や地域と連携していくことが大切だと考えています。

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図 ビュートゾルフの理念を象徴している「たまねぎモデル」
出典:http://chiiki-care.com/buurtzorg/より

Q. 実際にどのように取り組んでいますか?

A. 利用者や家族の方から、「訪問看護って何をしてくれるの?」と聞かれることが少なくありません。私が以前から感じているのは、利用者・家族をはじめとし、地域の人々の「訪問看護」への認知度が低いということ。それは、私たち訪問看護師が自分たちの仕事を地域に発信してこなかったからだと私は思っています。それに、訪問看護師も地域にどんな人が住んでいて、どんなサポートができるのかということを十分に知っているとはいえません。

 まずは、訪問看護のことを地域の人々に知ってもらうと同時に、私たちも地域のことを知る必要があります。そこで、地域の団体や自治体で実施されている多職種の集まり、商店街のお祭りや認知症カフェなどに積極的に参加するようにしています。また不定期ですが、ケアマネジャーなど多職種を対象に看取りなどのテーマでセミナーを開催しています。
そうした活動を通じて、地域のさまざまな団体と訪問看護師がつながっていくことが重要だと考えています。

 私は個人的に、練馬区で生命倫理カフェの活動をしている団体に参加する機会を得ました。そこには、会社を退職されて、まだまだ社会に貢献したいと考えている人たちがたくさんいました。この体験から地域にそうした潜在的なサポート力があることを知ることができました。
このように、私たち訪問看護師が地域に密着した活動を積極的に行うことによって、友人や近所の人々が安否確認をしたり、看取りに関わるなど、利用者のサポートにもつながっていくのではないかと考えています。

Q. 印象的な事例はありますか?

A. 現在、取り組んでいる事例です。外国人の70歳男性Aさん。Aさんは娘さんを訪ねて日本に来たときに事故に遭い、寝たきりの状態になってしまいました。退院後は、そのまま娘さん家族が介護をしています。
 できる限りの医療を受けさせたいという娘さんの思いから、当初は複数の病院の外来に通い、訪問看護、通所リハビリ、訪問リハビリ、デイサービス、訪問介護と、それこそ小間切れにサービスを受けていました。さらに家族が体調変化への対応にも慣れていなかったため頻回に、救急外来に駆け込むということも繰り返していました。そのため、家族の介護に対する不安や経済的負担が大きく、生活が安定しないという課題がありました。また、多職種間の情報共有も十分ではなく、Aさんに関わる多職種チーム全体の足並みがそろっていない状態でした。

 そこで、Aさん、家族、各在宅サービスの担当者、ケアマネジャーが集まり、話し合う場を提案しました。その会議では、Aさんやご家族の生活をトータルでみる重要性を利用者と家族に説明し、リハビリは近所のリハビリ専門病院を主体にして行うこと、医療面ではかかりつけ医として、訪問診療の導入を提案し、受け入れてもらいました。
 現在では、サービスも整理されて、互いに情報共有も行えるようになりました。また、訪問診療の医師が丁寧に対応することによって、救急外来に駆け込むこともなくなり、生活も安定するようになったのです。

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まだ新しい練馬富士見台のオフィス。訪問看護師たちが働く

 とはいえ、まだ課題はあります。というのも、突然日本に移り住むことになったため、Aさんには娘さん家族以外、知人がいません。しかも、日本語がほとんど話せないため、知り合いをつくることもできず、孤独感を抱えているようでした。娘さんのほうも、身体的・精神的負担が大きく、父親を責めるような言動もみられ、親子で行き詰まっているような印象を受けました。

 そんななか、偶然にも当事業所にAさんと同じ国で生活した経験を持ち、Aさんの母国語が話せるスタッフが入ったのです。今では、そのスタッフが主に訪問を行っています。Aさんと同じレベルで会話ができるまでにはいきませんが、以前よりもコミュニケーションがとりやすくなりました。
 また、そのスタッフはAさんの国の文化に関する知識があるため、教会など同じ国の人が集まるコミュニティが日本にもあると提案してくれました。Aさんにとって居心地の良い場所がないか、現在情報収集をしているところです。

 国際社会になり、これから外国人の利用者が増えると予想されます。さまざまな面から、地域連携を考えていく必要があると感じた事例でした。

Q. 今後、取り組んでいきたいことはありますか?

A. 訪問看護は、介護が必要にならないと利用されない傾向があります。でも、実は予防の段階がとても重要で、そこに私たちが介入することにより、健康寿命をのばすためのサポートができるのではないかと考えています。
 そのために、例えば地域の人が気軽に相談できるような窓口を設置するなど、介護が必要ない地域住民とも交流できる場をつくることを目指しています。

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