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【連載】基礎から解説!いますぐ実践できる「がんの緩和ケア」

第8回 食欲不振のつらさを減らす過ごし方とは|終末期の症状緩和①

執筆 重山千恵

広島大学病院緩和ケアセンター 緩和ケア認定看護師

Cancer kanwacare

<食欲不振とは>
原因は多岐にわたり、診断時から終末期まで高い割合で起こる

 食欲不振とは、食欲、つまり食物を摂取したいという生理的欲求が低下した状態をいいます。

 新しくがんと診断された患者さんの半数に出現し、進行がんの病期にある患者さんでは70~80%と高い割合で報告されています1)。終末期後期の食欲不振は自然なことと考えられます。

 食欲不振は、食事摂取量の低下をもたらすだけではなく、患者さん自身に衰えていくことを自覚させたり、病状が進行しているのではないかという不安を与える症状でもあります。

食欲不振の原因

 食欲不振の原因には以下のようなものがあり、これらが複合していることが多くあります(表1)。

表1 進行がん患者さんの食欲不振の原因
進行がん患者さんの食欲不振の原因
志眞泰夫,分担訳:3 消化器の症状.武田文和,監訳:トワイクロス先生のがんの症状マネジメント.P93,医学書院,2007.

<アセスメント>
経口摂取量と患者さんおよび家族の感じ方を確認

 食欲不振のアセスメントは、以下の①~⑤の観点で行います。まずは、原因が何であるかを検討し、原因を踏まえて症状への対応を行います。

①食欲不振の有無と程度
②病状・病態の把握
③食習慣、嗜好、症状が出る前の経口摂取量、症状が出た後の経口摂取量
④患者さんが感じている食欲不振、および体調
⑤家族が感じている食欲不振、および体調

<食欲不振の治療>
原因へ対処するとともに薬剤による症状改善や輸液量の調整も

原因の除去

 治療可能な原因(疼痛、嘔気、嘔吐、便秘、嚥下困難、口内炎、味覚異常、胃内容物停滞、腹水、高カルシウム血症など)があるか否かを確認し、治療を試みます。

薬剤の使用

消化管改善薬
 メトクロプラミドは、消化管運動調節作用や中枢性・末梢性制吐作用があります。胃がんや肝腫大による通過障害、胃内容物停滞のある患者さんに有効です。

 頻度は低いものの、副作用として焦燥感や、錐体外路症状などの神経系の運動障害が出現する場合があるため、投与後は観察を行います。
 
 例:メトクロプラミド(プリンペラン®錠)

コルチコステロイド
 コルチコステロイドは、進行がんの食欲不振に対して使用されています。

 予後が1~2カ月と考えられる時期に開始します。長期になる場合は、副作用を考慮して少量から始めます。
 
 例:ベタメタゾン(リンデロン®錠、リンデロン®注)

高カロリー輸液の中止

 終末期には輸液が苦痛を与えることがあります。特に、過剰な輸液は、胸水、腹水の増加、浮腫などにつながる可能性があるため、患者さんの症状緩和を重視し、医療者と患者さん・家族が十分話し合い、検討することが重要です。

<すぐ実践できる看護>
嗜好に合った食べ物、口腔内の乾燥対策、食事の場を工夫する

食事内容の工夫

 患者さんの嗜好にあったものを、食べたいときに食べられるだけ食べられるように、あらかじめ準備しておきます。食事の内容は、栄養士に相談したうえ、消化がよく少量で高カロリー、高タンパクが得られる食品が勧められます。高カロリーのゼリーや飲み物も常備します。

 温かい食べ物は温かい状態で提供し、香りのよいもの、酸味のあるものや、麺類やゼリーなど、のどごしのよいものを患者さんの嗜好に合わせて工夫します。少しでも食欲が出るように、家族の協力を得て、家庭で使用していた食器や、嗜
好に合ったものを持参してもらうのもよいでしょう。

 環境によって食事が進む場合もあるので、ときに、病室以外の談話室など、いつもと違う場所で食事をすることを提案します。家族団らんを楽しめるように、食堂などで一緒に食べることも勧めます。

 食欲がないことで、病状や今後について不安が増す場合もあるため、少量でも食べられたことを一緒に喜び、カロリーや体重にこだわらずに食べる楽しみを優先することが大切です。

口腔内の清潔

 終末期の患者さんは口腔内が乾燥しやすく、舌苔やカンジタなどの口腔トラブルを抱えていることが多いため、食事摂取前後に口腔ケアを行います。口腔ケアにより爽快感を得ることができ、食事摂取への意欲につながります。

 口腔乾燥が強い場合は、含嗽を促し保湿スプレーやジェルを使用します。

家族への説明

 家族も「食べないと弱ってしまう」と、患者さんに食べてもらいたいという思いを抱いています。一方で、患者さんは食べられないことを苦痛に感じています。

 家族には、終末期には食欲がなくなったり、少量で満腹になったりするのは一般的であることを伝えます。食事は、「患者さんが好むものを少量」でよいこと、食べることを無理に勧めないほうがよいことを説明します。

食欲不振の緩和ケアのポイント

食欲不振の原因は多岐にわたるため、その原因と病態生理を把握し、その治療を行います。

患者さんや家族は「食べないと、どんどん身体が弱る」という不安を抱えていることを理解し、気持ちに寄り添うことが大切です。病状について丁寧に説明を行い、終末期において食欲不振は自然なことであることを、患者さん・家族・医療者が共通の理解をもてるようにします。また、患者さんにとっては無理に食べることが苦痛になることを説明し、食べること以外でできる支援について話し合います。


【引用・参考文献】
1)遠藤久美:第3章 2 がん患者に多くみられる苦痛症状.田村恵子,編:緩和ケア教育テキスト がんと診断された時からの緩和ケアの推進.p.80,メディカ出版,2017.
●恒藤暁,他編:系統看護学講座別巻10 緩和ケア.p151,医学書院,2007.
●武田文和,監訳:トワイクロス先生のがんの症状マネジメント.p116,医学書院,2007.
●淀川キリスト教病院ホスピス,編:緩和ケアマニュアル(第5版).P86,最新医学社,2007.
●田村恵子:緩和ケア教育テキスト がんと診断されたときからの緩和ケアの促進.メディカ出版.2007.
●久山幸恵:食欲不振.がん患者の消化器症状マネジメント.がん看護2008;1月増刊号:223-229.
●日本緩和医療学会緩和医療ガイドライン委員会:終末期がん患者に関する輸液治療のガイドライン2013年版.金原出版,2013.(2018年9月25日閲覧)https://www.jspm.ne.jp/guidelines/glhyd/2013/pdf/glhyd2013.pdf

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