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【連載】使い分けの根拠がわかる! 循環器の薬

心不全に使う薬|心不全薬の使い分け

執筆 古川 哲史

東京医科歯科大学 難治疾患研究所 生態情報薬理学分野

心不全には急性と慢性があり、治療への考え方が異なるため、薬の使い方も異なります。そこで、それぞれの病態を理解したうえで、作用機序によって治療薬をどのように使い分けていくのかを解説します。


目次


心不全に使う薬とは

 心不全とは、心臓が十分に機能していない病態の総称で、原因となる疾患は心筋梗塞、弁膜症などさまざまです。心拍出量が低下するため、息切れ、疲れやすさ、心臓への静脈還流が妨げられるため、末梢性浮腫などの症状が現れます。
 
 心不全は一度入院すると、その後の5年生存率は約30%となり、がんと診断後の5年生存率(がん全体では約50%)よりも不良です。そのため、心不全ではごく初期の無症状、あるいはリスク因子が存在しているだけの段階から薬による治療を始め、入院に至らないよう早期に改善を図ることが肝要です。
 
 急性心不全と慢性心不全では、治療に対する考え方が基本的に違います。
 
 急性心不全では、循環動態を安定させ症状を改善させること、つまり「今」が優先されます。心筋の収縮力低下に対しては強心薬・血管拡張薬、うっ血や浮腫に対しては利尿薬が使われます。
 
 慢性心不全では、長期生命予後の改善、すなわち「将来」が重要となります。心機能は血液(酸素)を全身の組織へ送り出す働きを指しますが、この機能が低下すると、生物はこれを無抵抗に受け入れるのではなく、これに打ち勝とうとして、さまざまな代償機構を働かせます。この代償機構は短期的にはよいのですが、長く続くと弱った心臓に鞭を打つようなもので逆効果となってしまいます。
 
 まず、心機能の低下が続くと心拍出量と血圧の低下が起こります。すると、体液を増加させることで血圧を上げようとする腎臓のレニン-アンジオテンシン-アルドステロン系(RAA系)が活性化されます。同じく交感神経系の活動も亢進し、心拍出量の上昇や心筋の収縮力の増強が起こり、血流を維持しようとします。しかし、これらの長期にわたる過剰な活性状態はやがて心臓を疲弊させ、心不全の悪化を招きます。
 
 そこで、慢性心不全ではこの二大代償機構であるRAA系と交感神経系を標的としたアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)、β遮断薬が使われます。

急性心不全薬

1.強心薬

 強心薬は、心筋の収縮力を増強し、心機能を改善させる薬です。主な強心薬を表1に示します。

主な強心薬

(1)作用機序
 強心薬は細胞内のCa2+濃度を上昇させることで心筋の収縮力を増強します。心筋は細胞そのものが自発的に電気的な興奮(活動電位)を引き起こします。この興奮が心筋線維に伝えられ、細胞内のCa2+濃度が上昇し、心筋の収縮が起こります。

❶ジギタリス
 ジギタリスはNa/Kポンプ*1を抑制させることにより、間接的にNa/Ca交換体と呼ばれるトランスポーターを介して、細胞内へのCa2+の取り込みを増やします(図1)。ただし、ジギタリスは強心作用があまり強くなく、現在では使用頻度は著しく低下しています。
 
ジギタリスの作用機序

❷カテコールアミンとホスホジエステラーゼ(PDE)Ⅲ阻害薬
 カテコールアミンとPDEⅢ阻害薬は、cAMP*2濃度を上昇させ筋小胞体からのCa2+遊離を増やし、心筋の収縮力を増強させますが、前者はcAMPの産生を増やすことで、後者は分解を減らすことで、この作用を発現させます。

*1 ATPの分解によって得られるエネルギーを利用して、細胞内のNa+を細胞外へ排出し、K+を細胞内に取り込むポンプ。
*2 cAMP:サイクリックAMP。環状アデノシン一リン酸。

(2)特に注意が必要な副作用
 特に注意が必要なのが不整脈です。カテコールアミンとPDEⅢ阻害薬は脈が速くなる頻脈性不整脈、ジギタリスは頻脈性不整脈と脈が遅くなる徐脈性不整脈の両方が問題となります(ジギタリス中毒)。

 ジギタリス中毒は低カリウム血症時に特に起こりやすいので、血中カリウム濃度の低い患者さんに投与するのは危険です。

2.血管拡張薬

 血管拡張薬は、血管平滑筋に作用して動脈・静脈を拡張させることで心臓への負荷を軽減させ、心拍出量を回復させる薬です。主な血管拡張薬を表2に示します。
 
主な血管拡張薬

(1)作用機序
 血管平滑筋の収縮と弛緩は、細胞内のCa2+濃度とサイクリックヌクレオチド(cAMP、cGMP*3)濃度のバランスで決まります。細胞内のCa2+濃度が上昇すると血管は収縮し、cAMP・cGMP濃度が上昇すると血管は弛緩します。ニトログリセリンなどの硝酸薬と心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)はcGMPを増やすことで血管を拡張します。
 
*3 cGMP:サイクリックGMP。環状グアノシン一リン酸。

(2)特に注意が必要な副作用
 ニトログリセリンは血圧低下と頭蓋部の血管拡張による頭痛、カルペリチドは血圧の低下に加えて、徐脈および利尿作用による脱水が副作用となります。 
 

3.利尿薬

 利尿薬は、尿量を増加させることにより、体内の水分を体外へ排出しやすくする薬です。心不全薬としての目的は浮腫の改善です。心不全薬として使われる主な利尿薬を表3に示します。
 
心不全薬として使われる主な利尿薬

(1)作用機序
 利尿薬の多くは、腎臓でのNa+の再吸収を阻害することで間接的に水の再吸収を抑制します。バソプレシンV2受容体拮抗薬だけは例外で、集合管遠位側でNa+の再吸収とは無関係に水の再吸収のみを直接的に抑えます(図2)。

(2)特に注意が必要な副作用
 利尿薬では電解質異常に気をつける必要があります。ループ利尿薬は低カリウム血症、抗アルドステロン薬は高カリウム血症を来します。

 また、ループ利尿薬、抗アルドステロン薬は低ナトリウム血症を来すのに対し、バソプレシンV2受容体拮抗薬は高ナトリウム血症を来します。

慢性心不全薬

1.ACE阻害薬・ARB

 ACE阻害薬とARBは心臓の代償機構であるRAA系を抑制することで、血管を拡張し、心臓への負担を減らすとともに、過剰な代償機構による心不全の悪化を防ぐ薬です。主なACE阻害薬とARBを表4に示します。
 
主なACE阻害薬とARB
 
(1)作用機序
 RAA系では、アンジオテンシノーゲンがレニンにより不活性型のアンジオテンシンⅠとなり、これがACEにより活性型のアンジオテンシンⅡへ変換されます。アンジオテンシンⅡの主な作用は、血管収縮、ナトリウム・水分の再吸収、交感神経刺激、心室のリモデリング(構造的変化)です。

 ACE阻害薬は、アンジオテンシンⅠからアンジオテンシンⅡへの変換を抑制し、アンジオテンシンⅡの産生を抑え、心不全の進行を抑えます。さらに、血管拡張作用のあるブラジキニンの分解を抑制し、血管を拡張させることで血圧を下げる作用もあります。

 ARBは標的臓器のアンジオテンシンⅡ受容体(AT1受容体)へのアンジオテンシンⅡの結合を阻害し、血管を拡張させます(column参照)。

(2)特に注意が必要な副作用
 ACE阻害薬とARBに共通するのは、妊娠中の催奇形性や胎児の腎障害による羊水過少症、妊婦以外でも腎機能の悪い人では高カリウム血症を来すことがあります。妊婦・授乳婦、高カリウム血症の患者さんでは禁忌、腎動脈狭窄症では慎重投与です。

 また、ACE阻害薬では20~30%の人で空咳を起こします。

2.β遮断薬

 β遮断薬は交感神経のβ受容体を遮断して交感神経シグナルを抑制します。心不全薬として使われる主なβ遮断薬を表5に示します。

心不全薬として使われる主なβ遮断薬

(1)作用機序
 β遮断薬は心臓や血管に存在する交感神経のβ受容体を遮断して、心拍出量や血圧調節にかかわるレニンの分泌を抑制することで血管を拡張させます。

(2)特に注意が必要な副作用
 徐脈や房室ブロックを起こすことがあります。中枢神経抑制作用があるため、うつ病の患者さんではうつ症状を悪化させることがあります。
 
 糖尿病の患者さんでは低血糖症状を自覚することが困難となります。
 
 また、カルベジロールのようにβ1受容体非選択的な薬物は、気管支喘息や間歇性跛行を誘発することがあります。喘息・高度徐脈では禁忌、耐糖能異常・閉塞性肺疾患・末梢動脈疾患は慎重投与です。


◆column◇ ACE阻害薬でどうして「空咳」が起こるのか
 前述のように空咳は20~30%の人に出現します。空咳はどうしてACE阻害薬だけにみられるのでしょう? これにはブラジキニンと呼ばれる気道にある受容体を刺激するペプチド性生理活性物質が関係しています。ブラジキニンはキニナーゼと呼ばれる酵素で分解され活性を失いますが、後にキニナーゼはACEと同じ分子であることがわかりました()。

ACE阻害薬だけに空咳が出る機序

 RAA系の研究者がACEとして見つけ、ブラジキニンの研究者がキニナーゼとして別々に見つけていたのです。その後、遺伝子研究が盛んになり、遺伝子を見たら、あら不思議同じ分子だったという話です。つまり、ACE阻害薬はキニナーゼも阻害することになるのでブラジキニンの血中濃度が高くなります。そのため空咳が出るのです。


この記事はナース専科2017年2月号より転載しています。

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