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【連載】使い分けの根拠がわかる! 循環器の薬

心不全における主要な薬の使い分け|心不全薬の使い分け

執筆 古川 哲史

東京医科歯科大学 難治疾患研究所 生態情報薬理学分野

目次


1.急性心不全薬の使い分け

(1)ニトログリセリンとカルペリチドの使い分け

 急性心不全ではスワン・ガンツカテーテルを挿入して、フォレスター(Forrester)分類によるグループ分けをしてから治療法を選択するのが王道です。
 
 ところが、最近では主に収縮期血圧というどこでも誰でも測定できる検査データをもとに治療法を決める簡便なクリニカル・シナリオ(CS)が重宝されています。CSは収縮期血圧によって、次のように分類されます。
 
● CS1:>140mmHg以上
● CS2:100~140mmHg
● CS3:<100mmHg以下

 CS1とCS2で容量負荷がない場合は血管拡張薬が投与されます。容量負荷を判断するのは心エコーと中心静脈圧の測定で、次の3つが参考となります。

❶ 心エコーでの右室拡大
❷ 心エコーでの下大静脈径拡大(>15mm)
❸ 中心静脈圧上昇(>12mmH2O)

 ちなみに、静脈内投与が可能な血管拡張薬は以前はニトログリセリンのみでしたが、今ではカルペリチドも使われるようになりました。

 ニトログリセリンとカルペリチドの違いは、ニトログリセリンは主に静脈系を拡張し(前負荷を軽減)、カルペリチドは静脈系だけでなく動脈系も拡張することです(後負荷を軽減)(図1)。両者の長期予後の比較について、column2で触れてみました。
 
ニトログリセリン・カルペリチドの前負荷・後負荷に対する作用

 CS1・CS2は、後負荷の上昇が主な原因となるので、血管拡張薬としては、後負荷の軽減作用のあるカルペリチドが有効です。実データからもこれは裏づけられています。

 ただし、カルペリチドは日本だけで使われており、ほかの国では脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)製剤のネシリチド(nesiritide)が使われています。そのため、大規模臨床試験はネシリチドを用いて行われています。これによればネシリチドのほうがスワン・ガンツカテーテル検査の1つの指標である肺楔入圧を有意に低下させています1)。このように、急性期の循環動態の改善にはBNP(おそらくANPも)のほうがニトログリセリンに比べて優れています。

(2)フロセミドとトルバプタンの使い分け

 フロセミドとトルバプタンの使い分けを理解するためには、腎臓における水分の再吸収のメカニズムを知ることは避けて通れません。

 腎臓の糸球体では、毎分100mLの原尿が濾過され、1日で考えると約140Lにもなります。これが全部尿となったら、1日何回トイレに行かなくてはいけなくなるのでしょう? 実はこのほとんど(99%)が再吸収されて、たった1%(1~1.5L/日)だけが尿として排泄されます。水分の再吸収の大部分は、Na+を再吸収することで間接的に行われます(図2)。利尿薬はこれを抑えることで尿量を増やすのです。

利尿薬の作用部位
 
 フロセミドに代表されるようにほとんどの利尿薬は、Na+を再吸収するイオントランスポーター・イオンチャネルの阻害薬であり、水分の再吸収を間接的に阻害することで尿量を増やします。
 
 一方、抗利尿ホルモンであるバソプレシンは集合管の遠位側だけに作用し、Na+の再吸収とは無関係に水分を直接再吸収します。トルバプタンはバソプレシンV2受容体の働きを阻害することで、Na+の再吸収に影響することなく、水分の再吸収を阻害し、利尿効果を発揮します(図2)。このため「トルバプタンは低ナトリウム血症を来さない利尿薬」といわれています。
 
 急性心不全のCS1・CS2で容量負荷を有する患者さんでは利尿薬を用いることになります。その際、第一選択薬はやはりループ利尿薬*1のフロセミドでしょう。トルバプタンはフロセミドのような利尿薬で効果が不十分な場合や、低ナトリウム血症により従来の利尿薬の増量ができない場合に限り用いられます。そのため、次のような使用上の原則がいくつかあります。

*1 ヘンレ係蹄上行脚でNa+の再吸収を抑制。
 
● 他の利尿薬と併用する
● 入院下で投与を開始・再開する
● 血清Na+値をモニターする

 利尿薬の使用は、浸透圧調節という人間にとって極めて重要な経路の一部に介入するので、その副作用は重篤となる可能性があります。
 
 まず、浸透圧を上げるため、患者さんの約30%で口渇がみられます。十分な利尿効果が現れたら、飲水制限は軽減しましょう。

 また、高ナトリウム血症により意識障害や橋中心髄鞘崩壊症を来すことがあります。投与前、投与後4~6時間、投与後8~12時間に血清Na+値をチェックし、160mEqを超えたら、5%グルコース液などで補正が必要です。
 
 トルバプタンは、日本以外では低ナトリウム血症を伴う心不全のみに使用が認められています。通常の心不全で使用が認められているのは日本だけであり、これを念頭に入れて慎重に使う必要があります。
 
one point
バソプレシンは体内の浸透圧の調整に働くホルモンです。視床下部に浸透圧のセンサーがあって、そこで「浸透圧が高い」と認識されると下垂体後葉にシグナルが送られて、バソプレシンが分泌されます。

2.慢性心不全薬の使い分け

(1)ACE阻害薬とARBの使い分け

 慢性心不全で第一選択薬となるのがACE阻害薬とARBです。では、ACE阻害薬とARBはどのように使い分けたらよいのでしょう? ACE阻害薬は20~30%の人で副作用として空咳を生じますが、ARB=空咳のないACE阻害薬なのでしょうか? ACE阻害薬とARBの使い分けの最大のポイントは次の2つです。
 
❶ 血圧降下作用:ARB > ACE阻害薬
❷ 臓器保護作用*2:ACE阻害薬 > ARB

*2 心不全に合併する脳梗塞、心筋梗塞、慢性腎疾患などの予防効果。

 したがって、高血圧を伴う心不全の場合は降圧作用の強いARB、高血圧を伴わない心不全の場合は臓器保護作用の強いACE阻害薬が基本となります。
 
 それでは空咳が出現し、ACE阻害薬が持続できなくなった場合には、ARBに変更するしかないのでしょうか? 血圧が低いためACE阻害薬を選択した人でARBに変更した場合、血圧が下がりすぎて種々の弊害が出るかもしれません。ACE阻害薬の空咳は、2~3カ月すると消失することが少なくありません。高血圧がなくて、どうしてもRAA系を阻害することが必要な患者さんでは、このことを十分に説明して、ACE阻害薬を続けたいものです。

(2)カルベジロールとビソプロロールの使い分け

 心不全の治療にACE阻害薬、ARBを投与しても病状が改善されない場合、追加投与として推奨されているのがβ遮断薬です。日本で市販されているβ遮断薬は20種類近くあり、そのなかで心不全に保険適用があるのはカルベジロールとビソプロロールの2つです。

 これらのβ遮断薬はどのように使い分けるのでしょうか? 残念ながら直接カルベジロールとビソプロロールを比較した大規模な臨床試験はありません。しかしながら、カルベジロール、ビソプロロール個々の効果を調べた大規模な臨床試験の結果によれば、カルベジロールは全死亡を35%、ビソプロロールは34%減少させています4,5)。すなわち、両者には心不全の治療において明らかな優劣はありません。
 
 それではカルベジロールとビソプロロールのどちらを使うかは医師の好みということになるのでしょうか? そんなことはありません。両者の使い分けには交感神経の受容体に対する選択性がかかわってきます。交感神経の受容体にはα受容体とβ受容体があり、分類と作用はのようになっています。
 
交感神経受容体の分類と作用
 
 カルベジロール、ビソプロロールがブロックする交感神経の受容体の選択性は、次の通りです。
 
● カルベジロール:α1受容体、β1受容体、β2受容体
● ビソプロロール:β1受容体

 ここからわかる特徴は、カルベジロールはα1ブロック作用があるので血圧低下を起こしやすく、またβ2受容体をブロックするので喘息などを増悪するリスクがあります。よって、血圧が高い心不全患者さんにはカルベジロール、血圧が低い心不全患者さんにはビソプロロールを使用します。

 また、気管支喘息をもつ患者さんではカルベジロールを避けて、ビソプロロールを選択します。その後はこれらを少しずつ増やしていき、忍容性があるか否か経過をみることになります。

 最初にカルベジロールを選択し、忍容性がなかった場合は、ビソプロロールの投与を試みることになります(もちろん逆のケースもあります)。その際の対応量はカルベジロール10mg/日=ビソプロロール2.5mg/日と考えましょう。


◆column1◇ 前負荷と後負荷とは
 前負荷・後負荷という言葉が理解しにくいという声を多く聞きます。生理学などのテキストを見ると、前負荷は「心室が収縮する前にかかる圧」、後負荷は「心室が収縮した後にかかる圧」と書かれていますが、これでもすっと胸には入ってこないのではないでしょうか?
 
 前負荷は主に静脈系の圧を反映しています。前負荷が上昇すると、フランク・スターリングの法則*に従って心拍出量は増加しますが、一方でうっ血も起こりやすくなります。
 
 後負荷は主に動脈系の圧を反映します。後負荷が上昇すると、心拍出量が減少します。言い換えると抵抗が高いところ(後負荷が高いところ)に同じ力で血液を送り出そうとすると、送り出せる量が減るということができ、これであれば感覚的に理解できますよね?

*心室に流入した血液が心筋壁を引き伸ばした分だけ、強く収縮しようとすること。

◆column2◇ ニトログリセリンとカルペリチド、長い目でみてどっちが優位?
 急性心不全の治療は、急性期の循環動態を安定化させ症状を改善する、「今」を重視したものだと説明しました。とはいうものの、長期的な予後も気になりますよね。長期的にみた場合、ニトログリセリンとカルペリチドのどちらが優位なのでしょう? 残念ながら、ニトログリセリンとカルペリチドあるいはネシリチドの長期予後を直接比較した大規模臨床試験はありませんが、ネシリチド治療群とプラセボ群を比較した臨床試験はあります2)

 この試験では、毎週1回あるいは2回ネシリチドを静脈注射し、24週後の全死亡・心不全あるいは腎不全による入院がないイベントフリー生存率をプラセボ群と比較しています。これによれば、ネシリチド治療群とプラセボ群では有意差を認めていません。そのため、ネシリチド(おそらくカルペリチドも)の現在の位置づけは、次のようであると考えられています。

●短期的な循環動態の改善には有効でニトログリセリンより優位。
●長期予後に関しては明らかな改善は不明。

◆column3◇ ACE阻害薬とARBの臓器保護作用
 臓器保護作用に関しては、2013年に発表された心不全非発症の高リスク患者でACE阻害薬あるいはARB治療群とプラセボ群を比較したランダム化二重盲検試験である26試験、108,212例のメタ解析から注目されました3)。心血管死、心筋梗塞、脳卒中、全死亡、新規発症心不全、新規発症糖尿病などが解析されました。

 ACE阻害薬治療群はプラセボ群に比べて、心筋梗塞、脳梗塞、全死亡、新規発症心不全、新規発症糖尿病を減少させましたが、ARB治療群では脳卒中、新規発症糖尿病だけが減少しました。この結果から、臓器保護効果はACE阻害薬のほうが強いと考えられています。


引用文献
1)Intravenous nesiritide vs nitroglycerin for treatment of decompensated congestive heart failure: a randomized controlled trial.JAMA 2002;287(1):1531-40.

2)Yancy CW,et al:Safety and efficacy of outpatient nesiritide in patients with advanced heart failure:results of the Second Follow-Up Serial Infusions of Nesiritide(FUSION Ⅱ)trial.Circ Heart Fail 2008;(1):9-16.

3)Savarese G,et al:A meta-analysis reporting effects of angiotensin-converting enzyme inhibitors and angiotensin
receptor blockers in patients without heart failure.J Am Coll Cardiol 2013;61(2):131-42.

4)Poole-Wilson PA,et al:Comparison of carvediolol and metoprolol on clinical outcomes in patients with chronic heart
failure in the Carvedilol Or Metoprolol European Trial(COMET):randomised controlled trial. Lancet 2003;362(9377):7-13.

5)The Cardiac Insuffi ciency Bisoprolol StudyⅡ (CIBIS-Ⅱ):a randomised trial.Lancet 1999;353(9146):9-13.


この記事はナース専科2017年2月号より転載しています。

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