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【連載】使い分けの根拠がわかる! 循環器の薬

虚血性心疾患治療薬の使い分け

執筆 古川 哲史

東京医科歯科大学 難治疾患研究所 生態情報薬理学分野

慢性冠動脈疾患では、心臓への酸素供給量と酸素消費量のコントロール、急性冠症候群ではこれに加え、心血管イベントの予防と予後改善が重要になります。それぞれに働きかける薬の使い分けの順番や併用・順番への考え方を解説します。


目次


虚血性心疾患に使う薬とは

 虚血性心疾患は、以前は狭心症と心筋梗塞という心筋壊死の有無による「結果重視」の分類がなされていました。しかし最近は、慢性冠動脈疾患と急性冠症候群に分類されています。

<慢性冠動脈疾患と急性冠症候群>
 慢性冠動脈疾患と急性冠症候群は心筋梗塞(=心筋壊死)という結果をもたらす原因となるアテローム動脈硬化巣が不安定であるか、否かに焦点を当てた「原因重視」の分類です。治療は原因を抑制することが重要なので、治療法を考える上では原因重視の分類を理解しておくと便利です。

 慢性冠動脈疾患の治療にはβ遮断薬、カルシウム拮抗薬、硝酸薬、急性冠症候群にはこれに加えて脂質異常症治療薬と抗血小板薬が使われます。

慢性冠動脈疾患

 心臓が虚血になるか否かは、心臓の酸素消費量と冠動脈を介して供給される酸素量のバランスで決まってきます。慢性冠動脈疾患はこのバランスが崩れた状態であり、治療法としては心臓の酸素消費量を減らすか、酸素供給量を増やすかのどちらかです。

1.β遮断薬

(1)作用機序
 心臓の交感神経のβ受容体をブロックすることで、心臓の収縮力・心拍数を減らし、酸素消費量を減少させます。慢性冠動脈疾患の治療に使われる主なβ遮断薬を表1に示します。
 
慢性冠動脈疾患の治療に使われる主なβ遮断薬

(2)特に注意が必要な副作用
 徐脈や房室ブロックを起こすことがあります。中枢神経抑制作用があるため、うつ病の患者さんではうつ症状を悪化させることがあります。
 
 糖尿病の患者さんでは低血糖症状を自覚することが困難となります。
 
 また、カルベジロールのようにβ1受容体非選択的な薬物は、気管支喘息や間歇性跛行を誘発することがあります。喘息・高度徐脈では禁忌、耐糖能異常・閉塞性肺疾患・末梢動脈疾患は慎重投与です。

2.カルシウム拮抗薬

(1)作用機序
 心臓の収縮力の低下と後負荷を軽減させることにより、心臓の酸素消費量を減らします。慢性冠動脈疾患の治療に使われる主なカルシウム拮抗薬を表2に示します。
 
慢性冠動脈疾患の治療に使われる主なカルシウム拮抗薬
 
(2)特に注意が必要な副作用
 徐脈や洞房ブロックが起こることがあります。特に高齢者では頻度が高いので、徐脈傾向にある高齢者では処方を避け、めまいや失神などの症状の出現には気をつけましょう。
 
 また、血圧低下による起立性低血圧も注意が必要です。消化管の平滑筋にも作用するため、逆流性食道炎の悪化、便秘などの消化器症状を起こすことがあります。カルシウム拮抗薬を代謝する酵素CYP3A4はグレープフルーツを代謝する酵素でもあるので、カルシウム拮抗薬を服用している患者さんはグレープフルーツを大量に食べると、薬の効き方が過剰となることがあります。

3.硝酸薬

(1)作用機序
 硝酸薬はcGMPを増やすことで血管平滑筋に働きかけ、弛緩させる作用をもちます。このため、末梢の血管を拡張し、心臓の前負荷・後負荷を減らすことで酸素消費量を減らします。さらに硝酸薬は、冠動脈を拡張することで酸素供給量を増やす効果もあります。慢性冠動脈疾患の治療に使われる主な硝酸薬を表3に示します。

慢性冠動脈疾患の治療に使われる主な硝酸薬

(2)特に注意が必要な副作用
 血圧低下と頭蓋部の血管拡張による頭痛が主な副作用です。特に、高力価硝酸薬では降圧効果が強く、急激に生じるので、立位のまま服用すると転倒して骨折するなどの思わぬ合併症を生じることがあります。このため、患者さんには座位で服用するように説明しましょう。

急性冠症候群

 急性冠症候群では、アテローム動脈硬化巣がコレステロールの沈着などにより不安定となり、プラークが破裂し、血小板の沈着から冠血管の閉塞が起こることで発症します。このため、急性冠症候群ではコレステロール値の低下や血小板の沈着を防ぎ、血栓症などの心血管イベントの予防や予後改善のために、慢性冠動脈疾患の薬に加えて、脂質異常症治療薬、抗血小板薬が使われます。

1.脂質異常症治療薬

(1)作用機序
❶ΗMG-CoA還元酵素阻害薬
 スタチンと呼ばれる薬物で○○スタチンという名前がつくものが多いです。コレステロールは、肝細胞でアセチルCoA→HMG-CoA→メバロン酸という経路を経て合成されますが、スタチンは肝細胞でコレステロール合成経路のHMG-CoAからメバロン酸への転換を触媒する酵素で、HMG-CoA還元酵素を抑制します(図1)。これにより血清コレステロール値を低下させます。
 
コレステロール合成経路とスタチンの作用点

❷小腸コレステロールトランスポーター阻害薬
 小腸でコレステロールの吸収を担っているコレステロールトランスポーターのNPC1L1を阻害することにより、小腸からのコレステロールの吸収を抑制します。主な脂質異常症治療薬を表4に示します。
 
主な脂質異常症治療薬

one point
 スタチンの副作用で最も注意が必要なのが筋障害、特に横紋筋融解症です。スタチンはコレステロール合成経路のなかで、筋肉に豊富なミトコンドリアの機能に欠かせないコエンザイムQ10の合成を阻害するため(図1)、筋障害として影響が出やすいのです。

(2)特に注意が必要な副作用
 スタチンでは、筋障害が20~30%に生じます。特に重症とされる横紋筋融解症はまれですが、それでも0.17%に生じるとされています。運動や重いものを持つなどの労作をしていないのに、筋肉痛が生じた場合や尿が褐色になった場合は、すぐに医師に相談するようにしましょう。また、肝障害も3%に生じるので、血液生化学検査でALTやASTなどの肝逸脱酵素の上昇には気をつけます。

 エゼチミブでも、筋障害と肝障害が副作用として起こりますが、最近注意が喚起されているのが抗凝固薬のワルファリンの作用を増強することです。ワルファリン服用者に新たにエゼチミブを投与するときは、ワルファリンの効きすぎ(出血傾向)には要注意です。

2.抗血小板薬

(1)作用機序
 血小板の活性化を抑制することで、血小板の沈着を防ぎ、血栓形成などのさらなる心血管イベントを防止します。急性冠症候群に使われる主な抗血小板薬を表5に示します。
 
急性冠症候群に使われる主な抗血小板薬

(2)特に注意が必要な副作用
 いずれも出血傾向が副作用となります。「どこにもぶつけていないのに内出血が起こった」などはよく聞かれる訴えです。皮下の内出血だけで、服用を中止すると心筋梗塞発症のリスクが高まるので、この事情を患者さんによく説明して継続することのほうが多いです。
 
 個々の薬物では、アスピリンは消化性潰瘍、アスピリン喘息などが頻度の高い副作用です。チクロピジンでは再生不良性貧血、血小板減少症などが特に重症となりやすいため、血算(血球計算値)のチェックが必要です。PDEⅢ阻害薬では頻脈に注意します。

虚血性心疾患における主要な薬の使い分け

1.慢性冠動脈疾患でのβ遮断薬、カルシウム拮抗薬、硝酸薬の使い分け

 慢性冠動脈疾患では、心臓の酸素消費量と心臓への酸素供給量のバランスをとるために、β遮断薬、カルシウム拮抗薬、硝酸薬の3剤が使われます。これらの使い分けはどのようになっているのでしょう?

(1)β遮断薬が基本
 基本はβ遮断薬です。心臓の酸素消費量を減少させるにはβ遮断薬が最も効果的だからです。特に労作性狭心症ではβ遮断薬を第一選択に考えましょう。

(2)冠攣縮性狭心症にはカルシウム拮抗薬
 冠攣縮性狭心症(異型狭心症、安静時狭心症)、女性の微小血管狭心症にはカルシウム拮抗薬を選択します。微小血管ではカルシウム拮抗薬に対する感受性が高いことが知られていますが、その理由は現時点ではわかっていません。

 血管平滑筋のβ2受容体が活性化されるとcAMPが産生されます。血管平滑筋ではcAMPの産生により血管拡張が促されます。そのため、β遮断薬でこの経路をブロックしてしまうと血管の攣縮を悪化させます。このため、冠攣縮性狭心症ではβ遮断薬は禁忌でカルシウム拮抗薬が第一選択薬です。

(3)硝酸薬は発作時のみ
 硝酸薬の長期投与は避けましょう。ニトログリセリンは、長期間使い続けると効き目が悪くなる二トロ耐性を生じます。

 硝酸薬は化学構造式の中に硝酸(NO3)あるいは亜硝酸(NO2)をもつ硝酸塩あるいは亜硝酸塩ですが、これ自体は薬物活性をもちません。体内で代謝され、一酸化窒素(NO)が遊離されて、初めて生理活性を示すのです。このような薬物をプロドラッグといいます。
 
 硝酸薬が代謝される経路には2つあり、高力価硝酸薬はミトコンドリアのアルデヒド脱水素酵素(ALDH2)と呼ばれる酵素、低力価硝酸薬は小胞体のCYPと呼ばれる薬物代謝酵素で代謝されます(図2)。ALDH2はそれ自体が代謝で産生したNOによって不活性化されるので、二トロ耐性は高力価硝酸薬のほうが強くなります。よって硝酸薬は、持続的投与ではなく、発作時のみに使うことが推奨されます。
 
硝酸薬の代謝経路
 
 NOの放出とカリウムチャネルオープナーの2つの作用をもつハイブリッド薬としてニコランジル(シグマート)があり、二トロ耐性は最も弱くなっています。そのため、持続的に使う場合はニトロ耐性の低いニコランジル→低力価硝酸薬の順に用い、高力価硝酸薬は発作時のみと覚えておきましょう。

2.スタチンと小腸コレステロールトランスポーター阻害薬の使い分け

 血中LDLコレステロールを低下させる治療を行うとき、第一選択は現時点ではスタチンでしょう。スタチンにはLDLコレステロール低下作用以外に抗炎症作用、抗酸化作用などの多面性効果があることが知られています。
 
 スタチンはLDLコレステロールの高値の程度と目標値によって、大きく2種類に分けられます。脂質異常の程度が軽度のもの、低リスク症例ではウィークスタチン、重度のもの、高リスク症例ではストロングスタチンを選択しましょう(表4参照)。

 選択で迷うのは、初回量のスタチンではLDLコレステロールの目標値に達しなかった場合、同剤を増量するのか、作用機序の異なる他剤を併用するのかです。

 欧米でスタチンを増量した場合と小腸コレステロールトランスポーター阻害薬のエゼチミブを併用した場合を比較した臨床試験があります。これによれば、他剤併用のほうが有意に良好な結果が得られ、副作用の発生率では両者に有意な差は認められませんでした1)

 あるいは高用量スタチン単独に比べて低用量あるいは標準量のスタチン+エゼチミブの併用のほうが、LDLコレステロール低下作用、抗炎症作用は強く、安全性は変わらないことが示されたという研究結果もあります2)

 したがって、標準量のスタチンでLDLコレステロールの目標値に達しない場合は、標準量のスタチンとエゼチミブの併用が選択肢となります。

one point
LDLコレステロールの目標値は次のとおりです。

低リスク症例:135mg/dL以下
中~高リスク症例:100mg/dL以下
超高リスク症例:70mg/dL以下


◆column◇ 女性に特有の狭心症
 生理学などのテキストでは、薬の作用や疾患の症状は、男性から得られた情報をもとに書かれています。薬物の作用や疾患の症状には男女差があり、近年これを考慮した性差医療の必要性が強調されています。その代表例が狭心症です。男性の狭心症は、胸の中央あたりの締めつけられるような痛み、強い場合には「象に乗られたような痛み」(どんな痛みなんだろう、想像できませんね)と表現されます。
 
 ところが、女性の狭心症の表現はこのような典型的な訴えはあまりありません。「顎が詰まる感じ」「左手がしびれる」「みぞおちが痛い」などの非典型的な症状が少なくありません。また、冠動脈造影を行っても典型的な狭窄がみられないことはしばしばです。
 
 以前は、「心臓神経症」や「Xシンドローム」などと呼ばれて狭心症とは考えられていませんでした。最近は、冠動脈造影ではわからない微小血管の攣縮が原因と考えられており、これにはカルシウム拮抗薬のジルチアゼム(ヘルベッサーなど)が特効薬です。


引用文献
1)Brudi P, et al:Efficacy of ezetimibe/simvastatin 10/40mg compared to doubling the dose oflow-,medium-andhigh-potency statin monotherapy in patientswitharecentcoronaryevent.Cardiology2009;113(2):89-97.

2)Dagli N, et al:The effects of high dose pravastatin and low dose pravastatin and ezetimibe combination therapy on lipid, glucose metabolism and inflammation.Inflammation 2007;30(6):230-5.


この記事はナース専科2017年2月号より転載しています。

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