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【連載】基礎から解説! 無痛分娩のケア

第1回 無痛分娩の麻酔の適応、方法、禁忌、外来での説明

執筆 鈴木 怜夢

聖路加国際病院 麻酔科 周麻酔期看護師

協力 長坂 安子

聖路加国際病院 麻酔科 部長

はじめに

 太古の昔より、人類はお産によって子孫を残してきました。

 その痛みについては、いままでの人生で経験したことのない計り知れないほどものといわれ、女性にとっては母親になるためのいわば登竜門として知られてきました。その一方で、陣痛の痛みに関して医学的に緩和する方法が発達してきました。その方法はさまざまですが、硬膜外麻酔による無痛分娩は鎮痛効果が高く、妊婦・胎児への影響が少ないため欧米などでは一般的に行われ、日本でも少しずつ増えている傾向がみられます。この連載では5回に分けて以下の内容について説明していきたいと思います。

第1回:麻酔の適応、方法、禁忌、外来での説明について
第2回:無痛分娩の流れと助産師・看護師のケア・観察ポイント
第3回:お産の進行と痛みに関して
第4回:無痛分娩後の助産師・看護師のケア・観察ポイント
第5回:無痛分娩の安全対策と急変時の対応

無痛分娩の適応

 妊婦さんご本人が無痛分娩を希望していれば、適応の十分条件となり、その意向を最大限尊重することも大切です。一部の心疾患や脳動脈瘤、妊娠高血圧症候群などを合併された妊婦さんに対して無痛分娩が考慮される場合もあります。

無痛分娩の方法

1. 麻酔の方法

 無痛分娩では点滴やガスを吸って鎮痛薬を投与する方法と、局所麻酔で行う方法とあります。点滴やガスを用いた方法は局所麻酔に比べると鎮痛効果はやや弱く、生まれた児も胎盤を通して鎮痛薬(呼吸が弱くなる)の影響が出ることがあります。当院では児への影響が少ない局所麻酔の方法、「硬膜外麻酔」や「脊髄くも膜下麻酔併用硬膜外麻酔」で無痛分娩を行っています。

 硬膜外麻酔は、一般的な手術後の鎮痛にも用いられる方法で、プラスチック製で1mmほどの柔らかいカテーテルを背中から硬膜外腔まで入れ、局所麻酔薬を少しずつ注入して痛みを和らげます。無痛分娩では腰椎の第3と4の間もしくはその前後から硬膜外腔に向けてカテーテルを入れ、そこから局所麻酔薬が注入されて、硬膜からゆっくり脊髄に伝わることで陣痛の痛みがやわらぎます(図1)。無痛分娩では分娩の影響を考慮し、一般的な手術後の鎮痛よりも濃度が薄い局所麻酔薬と少量の麻薬を用いることが多いです。

図1 硬膜外麻酔
硬膜外麻酔

 脊髄くも膜下麻酔併用硬膜外麻酔の場合は、CSE(Combined Spinal-Epidural)針を使って、脊髄くも膜下腔に少量の鎮痛薬を投与したのちに硬膜外麻酔のカテーテルを入れます。脊髄くも膜下麻酔では、硬膜外麻酔よりも早く鎮痛効果が現れますが、2〜3時間ほどで効果がなくなるため、硬膜外麻酔を併用してその後も持続的に薬を入れ続けます。

 硬膜外麻酔と脊髄くも膜下麻酔併用硬膜外麻酔のどちらの麻酔を行うかは、お産の状況や施設ごとの方針などで検討されます。

 カテーテルから薬を注入する方法や機械にはいくつか種類があり、当院ではPIB(Programmed Intermittent Bolus:プログラム下間欠投与)といったプログラムが選択できるポンプを使用しています。これは「間欠投与」+「PCA(Patient Control Analgesia:自己調節鎮痛)」で、一定の時間になると自動的に薬が注入(間欠投与)+患者さん自身でボタンを押して薬を追加(PCA)する方法です。痛みが強い場合など、ポンプの薬以外が必要な場合はカテーテルから直接投与することもあります。

2. 麻酔の開始・終了時期

 無痛分娩を開始するタイミングや方針は、施設によって大きく異なります。計画分娩で子宮口が4cmくらい開大してから無痛分娩を行うところもあれば、自然の陣痛が来たのち、妊婦さんが希望したタイミングで行う場合などさまざまあります。

 無痛分娩を終了するタイミングも施設によって異なりますが、当院では分娩後の処置(会陰縫合など)が終了したら無痛分娩の薬の注入を終了し、その後の経過が問題なければ硬膜外カテーテルを抜去して無痛分娩終了となります。

無痛分娩の禁忌や注意を要するもの

 妊婦さん本人の同意がない場合は禁忌となります。また注意が必要なものとしては、抗血栓薬を投与中、脳や背骨の異常、穿刺部位の感染リスクが高いなどが挙げられます。

 硬膜外麻酔や脊髄くも膜下麻酔を行う場合には、硬膜外血腫の発症を抑えるため抗血栓薬を一定期間中止する必要があります1)。しかし妊娠中の抗血栓薬をすぐに中止できない理由(深部静脈血栓症・肺塞栓症の既往、不育症などで主治医から抗血栓薬継続を指示されている、心疾患の既往など)がある場合もありますので、一定期間中止できない場合は無痛分娩を行わない、もしくは分娩にむけて調整性のよい抗血栓薬に切り替えるなどの工夫が必要になる場合があります。

 脳や背骨の異常がある場合、無痛分娩を行うことによって神経症状を悪化させることや、麻酔効果が不十分になる可能性があります。無痛分娩をしない経膣分娩であっても、下肢の神経症状が出現する場合があるので十分な説明が必要です。

 穿刺部位の皮膚トラブルやステロイドの長期大量投与など感染のリスクが高い場合は、硬膜外膿瘍の可能性が高くなるため硬膜外麻酔や脊髄くも膜下麻酔は推奨されません2)

麻酔科外来の受診

 上記のことを踏まえて当院では、無痛分娩を希望されている妊婦さんは出産前に無痛分娩クラスの受講(妊娠20週以降から34週までに)および産科麻酔外来の受診(妊娠36週ころ)が必要となります。無痛分娩クラスでは無痛分娩の一般的な説明を行い、産科麻酔外来では、既往歴の確認や服薬指導をし、それに応じた麻酔の追加説明を行います。妊婦さん・ご家族が安心して分娩を迎えられるように、無痛分娩の手順や、無痛分娩中の過ごし方やデメリット、合併症の可能性(次回以降解説予定)などの十分な説明を行うこと、また麻酔が安全できるか評価するために、事前に麻酔科外来を受診することが必要です。


【引用・参考文献】
1) 日本ペインクリニック学会・日本麻酔科学会・日本区域麻酔学会 合同 抗血栓療法中の区域麻酔・神経ブロック ガイドライン 作成ワーキンググループ,編:抗血栓療法中の区域麻酔・神経ブロックガイドライン.2016.
2) Practice Advisory for the Prevention, Diagnosis, and Management of Infectious Complications Associated with Neuraxial Techniques: An Updated Report by the American Society of Anesthesiologists Task Force on Infectious Complications Associated with Neuraxial Techniques and the American Society of Regional Anesthesia and Pain Medicine , Anesthesiology,126 (4),585-601,2017.

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